「ロシアについて 北方の原形」司馬 遼太郎
2022/05/27公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★☆(85点)
要約と感想レビュー
ロシアは若い国家
「坂の上の雲」という大作で日露戦争を描いた司馬遼太郎が、1986年にロシアについて考えてきたことをまとめた一冊です。司馬のロシア感は、ロシアとは16世紀頃にイヴァン四世がツァーリ(君主)となって成立した若い国家であるということです。16世紀末には、コザックに銃と大砲を持たせてシベリアに進出しました。ロシアは大砲と銃によって原住民を抑圧し、毛皮をとりあげ、17世紀中には東端のカムチャッカ半島にまで到達するのです。
ロシアにはシベリアとアラスカで毛皮を集め、販売する露米会社が存在しました。この会社が事実上シベリアとアラスカを所有していたのです。当時の露米会社の課題は、シベリアで毛皮を集めて運ぶ商人の食料・野菜不足でした。そこで南方の日本に毛皮を売り、食糧を買うことができれば、ロシアにとって一石二鳥。ところが日本は鎖国政策をとっており、いかに日本を開国させるのか。それは捕鯨をして補給基地を求めていたアメリカと同じ問題意識を持っていたということなのでしょう。
・ロシア人によるロシア国家の決定的な成立は、わずか15、16世紀にすぎないのです。若いぶんだけ、国家としてたけだけしい野性をもっている(p10)
銃と大砲こそがロシア人を象徴するもの
ロシアの対外行動には、一つの法則があります。それは、弱い国や地域には侵攻するものの、防衛力がととのっている国に軍隊を派遣しようとはしないということです。そして近隣地域で内乱がおきたときは、救援を求めてくるグループを支援し、そのグループを守るためという理由で派兵し、その地域をロシア領にしてしまうのです。
そしてロシアが他民族の領土を奪った場合、これを「病的なほどの執拗さ」で保持してきたという。やる気なら喧嘩は買ってもいい、という考え方をロシアは取ってきたのであり、ロシアが日本に北方四島返還するとすれば、歴史上ありえないことだというのです。
現在のロシアのウクライナ侵攻も、まったく同じように2014年に独立を宣言したドネツク人民共和国、ルガンスク人民共和国をネオナチの虐殺から救うということを名目としているのです。銃と大砲こそがロシア人を象徴するものであると司馬さんは喝破していますが、現在は核とミサイルがロシアを象徴するものなのでしょう。武力によってロシアは維持され、領土を拡張してきたのです。
・ロシアの対外行動には、一つの法則がある・・・異民族地帯に乱がおこったときに、救援をもとめてくる一派の勢力に加担し、その一派から出兵を要請されたとして出兵し、そのあと「法を改め政を匡す」(ロシア領にする)(p220)
力による恐怖こそがロシアを統治する秘訣
司馬さんはロシア人は個人としては人が好いということもわかっているし、ロシア人は役人となると別人になるということもわかっているといいます。私には、そうしたロシア人の特性だけでなく、イヴァン四世(雷帝)の時代から、力による恐怖こそが支配者がロシアを統治する秘訣であるということも変わらないのだと感じました。日本人を見ていても、江戸時代の鎖国の時代から防衛力としては貧弱であったし、明治維新や敗戦で体制が変わると、素早く変身してしまう。国民性というものは、そんなに簡単に変わらないのなのです。
やや古い本ですが、ロシアの歴史を学ぶ副読本としておススメします。司馬さん、良い本をありがとうございました。
この本で私が共感した名言
・1533年、有名なイヴァン四世(雷帝)が即位・・・ロシア国家の基礎ができあがる・・・貴族に反逆のうたがいあれば住民まで大虐殺する・・・恐れをもたせることこそ当時のロシアにとって統治の本質的な秘略(p46)
・勇敢な首長イェルマークが、わずか5、600ばかりのコザックをひきいて東方をめざしたのは1581年のこと・・・コザックたちは、銃をもっていた。銃こそロシア人を象徴するもの・・・またコザック60人は四門も大砲をもっていた(p71)
・士官はすべてといっていいほどに貴族か、それに準じる階級・・・バルチック艦隊が日本にむかう途上、艦内の水兵のあいだで、日本はたれでも一定の試験にさえ合格すれば士官になれるという話がひろまったが、・・・どの水兵も信じなかったという(p166)
・カムチャッカ半島の一寒村・・・ロシア側はそこに砲兵隊を駐屯させて毎日訓練している・・・辺境の港は小さくとも要塞設備をほどこすというのが、当時のヨーロッパにおける防衛上の常識(p170)
・シベリア出兵・・・理由もなく他国に押し入り、その国の領土を占領し、その国のひとびとを殺傷するなどというのは、まともな国のやることだろうか(p249)
【私の評価】★★★★☆(85点)
目次
ロシアの特異性について
シビル汗の壁
海のシベリア
カムチャッカの寒村の大砲
湖と高原の運命
著者経歴
司馬 遼太郎(しば りょうたろう)・・・1923年大阪市生まれ。本名、福田 定一。学徒出陣のため大阪外国語学校蒙古語部卒業後、入隊。終戦後、いくつかの新聞社に勤務。「ペルシャの幻術師」で講談倶楽部賞、1960年『梟の城』で直木賞を受賞。1961年に産経新聞社を退職し、作家生活に入る。『竜馬がゆく』『国盗り物語』『坂の上の雲』『空海の風景』『翔ぶが如く』など構想の雄大さ、自在で明晰な視座による作品を多数発表。1996年逝去。
ロシア関係書籍
「諜報国家ロシア-ソ連KGBからプーチンのFSB体制まで」保坂 三四郎
「ロシア やはり恐ろしい闇の歴史: 教科書に載らない暗黒の履歴とは」歴史の謎を探る会
「ロシア皆伝」河東哲夫
「ロシアについて 北方の原形」司馬 遼太郎
「ロシア闇の戦争―プーチンと秘密警察の恐るべきテロ工作を暴く」アレクサンドル・リトヴィネンコ
「プーチン 最後の聖戦 ロシア最強リーダーが企むアメリカ崩壊シナリオとは?」北野 幸伯
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