「御社のシステム発注は、なぜ「ベンダー選び」で失敗するのか」田村 昇平
2022/05/16公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★★(97点)
要約と感想レビュー
システム開発の落とし穴
著者は情報システム部門を支援するコンサルタントとして、60以上のプロジェクトを支援してきました。発注側のシステムのグランドデザインからベンダー選定、仕様書作成、契約、実行まで支援してきたのです。
システム開発には多くの落とし穴があります。例えば、エクセルのマクロやRPA(自動化)で業務の効率化は可能ですが、本質的な業務の見直しができていない会社。独自開発したレガシーシステムの高額な保守費に予算を取られて、大きなシステム変革がまったく進まない会社。情報システム部門がインフラ管理だけやっていて、プロジェクト管理のノウハウ蓄積が全くない会社もあります。
さらに大手ベンダーに頼むと楽ができるので、システム開発を丸投げして、高額な開発費を支払っている会社もあるのです。確かに大手ベンダーに任せれば失敗も少ないし、フォローも十分されます。しかしそれでは自社にノウハウが蓄積されないし、予算がなくなればジリ貧となる可能性もあるということです。
RPA(Robotic Process Automation)がもてはやされていることに、大きな違和感があります・・・元凶のエクセルをなくす、中間処理をなくす、データを一元管理する、イレギュラーを根絶する、など根本的・合理的な見直しをする機会が奪われます(p86)
情報提供依頼書で情報収集
著者のおススメは、情報システム部門がプロジェクトの主導権をもって進めるということです。まず、ベンダー選びではRFI(情報提供依頼書)を中小ベンダーも含めた50社以上に提示して、情報収集します。つまり、最初から大手ベンダーに決め打ちするのではなく、業界に存在する商品を広く情報収集し、事前に選定するのです。さらに選定に残った会社からデモ環境でのトライアルをしてもらいます。場合によっては有料でのトライアルを行います。
こうしたプロセスによって3~5社に絞り、NDA(秘密保持契約)を交わしたうえでRFP(提案依頼書)を出して提案してもらうのです。こうしたプロセスは当たり前に見えますが、手間もノウハウも必要であり、実際に実行している会社は少ないのではないでしょうか。さらに言えば、パッケージのカスタマイズか、独自開発か、レガシーシステムをどうするかなど情報システムのグランドデザインを作っていくためにも情報システム部門としての力量が求められているのです。
プロジェクトが危機に陥ったとき、PMは「プレイングマネジャー」として現場を支えないといけません・・・だからこそPMにこだわる(p292)
主体的なノウハウを持った情報システム部門は増えるのか
著者のおススメする、情報システム部門が主体的にプロジェクトを管理し、主体的に情報システムの方針を考えることは、素晴らしいと思いました。しかしその一方で、情報システム部門に本当のシステム開発のノウハウ蓄積を求めるのは、現場の抵抗が大きいのではないかとも思いました。なぜなら、それまでのやり方は楽だし、主体的にシステム開発をまわすのも大変だし、失敗したら自分の責任になってしまう。だからこそ、困ったときに著者のようなコンサルタントに声がかかるのだろうと、私は思うのです。著者がいくら提案しても会社は変わらないと思いますが、著者が声を上げなければ変わるきっかけさえ生まれないのです。
情報システム開発の実態については、「OCR」でFAXの内容を読み取るよりも、FAX自体をなくす方が効果的とか、RPA(Robotic Process Automation)よりも元凶のエクセルをなくす、中間処理をなくす、データを一元管理する、イレギュラーを根絶するなど根本的・合理的な見直しを提案しています。著者の提案する本質を理解した、主体的なノウハウを持った情報システム部門が増えることを願いながら、★5としました。田村さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・グランドデザインにおいては、まず大きな単位から決めていかないといけません。この「岩」の代表例が「EPR」・・基幹業務の統合パッケージ(p83)
・激しく主張する人は、振れ幅が大きく、敵に回すとやっかいですが、味方になるとこれほど心強い存在はありません(p166)
・契約合意してから、他社に断りを入れる(p326)
【私の評価】★★★★★(97点)
目次
第1章 選定ミスは終わりの始まり
第2章 選定に入る前に方向性を定める
第3章 RFIでベンダーを広く浅く収集する
第4章 RFPで自社要求を明確にする
第5章 ベンダーを評価し,選定する
第6章 最適なベンダーとサービスは未来を明るくする
著者経歴
田村 昇平(たむら しょうへい)・・・情シスコンサルティング株式会社 代表取締役。ITプロジェクトを推進する情報システム部門を支援する情シスコンサルタント。支援したIT部門は20社以上、プロジェクト数は60以上に及ぶ。ITベンダー側で10年、ユーザー企業側で13年のITプロジェクトを経験。現場の課題が上流工程にあることに気づき、「ファネル選定」などの上流工程のノウハウを編み出し、IT部門のシステム開発の支援を行っている。
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