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臓器売買の闇「生命に部分はない」アンドリュー・キンブレル

2022/05/17公開 更新
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「生命に部分はない」アンドリュー・キンブレル


【私の評価】★★★☆☆(72点)


要約と感想レビュー

 本書の英語のタイトルは「ヒューマン・ボディ・ショップ」で1993年に出版されたものに加筆・修正したものです。タイトルのとおり著者は、人体の一部が商品として取引されていることに倫理的な問題を提起しています。


 例えば、臓器移植ビジネスでは組織が適合する人が死亡するか、脳死するのを待たなくてはなりません。現在でも脳死が本当にその人の「死」なのか、議論のあるところだと思います。脳が死んでいるとしても、心臓も動いており、呼吸もして生きているように見える人から臓器を摘出していくことに抵抗感を持つ人は多いのではないでしょうか。


 また、著者は高額な治療費を稼げる臓器移植ビジネスが、違法な臓器売買を拡大させていることに警鐘を鳴らしています。貧乏な人が臓器を売ってしまうこともあるし、死刑囚の臓器を売る中国政府の問題は20年前から存在しているのです。そして今も利益のために、人の臓器が売買されているのです。


・1991年現在・・心臓移植であれば平均10万ドル以上、肝臓移植なら20万ドル、腎臓移植には平均2万5千ドルかかる・・・たとえ保険が適用されても以後何年にもわたる薬代は最終的に巨額なものになる(p69)


 さらに、1978年に試験管内での人工授精が成功してから、今では不妊治療が普通の治療となっています。極端に言えば、優秀な精子を買ってきて優秀な子どもを作ることも可能なのです。外国では日本では認められていない代理母契約で生まれた子どもた誕生しています。子どもにとっては、遺伝子上の母と物理的に生んだ母が存在することになってしまいます。


 技術的に可能となったとはいえ、本当の親はだれなのかわからないという状況が生まれているわけです。こうした考え方が進んでいけば、良い遺伝子だけを残して、選別していこうということになっていきます。例えば、羊水検査で遺伝子病であることがわかったら中絶してよいのか。男女の産み分けをしてよいのか。さらに遺伝子診断が進み、背が低いとかIQが低いから中絶してよいのかという問題となっていくわけです。


・代理母ストア・・・依頼人には子供一人につき3万から4万5千ドルの支払いが要求される(p199)


 1990年代から遺伝子治療を人間に適用しようという試みが行われてきました。被害者を出しながらも遺伝子治療の研究は続けられ、新型コロナウイルスワクチン開発に活用されているのです。「ヒューマン・ボディ・ショップ」というタイトルのように著者は遺伝子ビジネスの拡大に危機感を持っています。しかし、遺伝子操作技術の開発はどんどん進んでいきますので、私達が受け入れにくい状況は増えていくのでしょう。


 私の印象としては、こうした混乱や困惑があるとしても、どこかで落とし場所を作りながら、私達は遺伝子ビジネスと向き合っていくことになるのでしょう。遺伝子が操作できる時代がよいのか、悪いのかといえば、問題はその技術をどう使うのかということで、技術そのものに問題があるわけではないのです。


 キンブレルさん、良い本をありがとうございました。


この本で私が共感した名言

・アメリカ赤十字によれば、輸血に伴って肝炎になる危険性はなお1000件に一例の割合であるという(p49)


・胚が子宮に移植される前に、両親は遺伝病の有無を知ることができる(p238)


・1996年に公表された調査では、成長ホルモンを処方された「患者」の42%が発育不全ではないことがわかった(p283)


・脳死患者のからだを高価な臓器の容器とみなす扱いをするようになった。より効率よく胎児組織を回収するため中絶の方法を変更し、ときにはわざと生きたままの胎児を取り出すこともしている(p542)


・動物実験によれば、胎児組織を注射すると損傷した筋肉野回復がずっと早くなる(p130)


・肝臓移植を必要とする患者の大多数は、アルコールによる肝障害が原因・・・肝臓移植が救えるのは、どんなにがんばってもせいぜい毎年数百人である・・・肝臓病の本当の解決方法は肝臓移植ではない。むしろその予防にある(p546)


▼引用は、この本からです
「生命に部分はない」アンドリュー・キンブレル
アンドリュー・キンブレル、講談社


【私の評価】★★★☆☆(72点)


目次

1 人体と部品のあいだ
2 赤ちゃん製造工場
3 遺伝子ビジネス
4 人間部品産業との闘い



著者経歴

 アンドリュー・キンブレル(Andrew Kimbrell)・・・弁護士、市民運動家、執筆者として、およそ四半世紀にわたり活躍中。1997年には食品安全センター(Center for Food Safety=本拠・ワシントンDC)を創設、事務局長を務める。環境保護、持続可能な農業のあり方を訴えている


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