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判明した「STAP細胞 事件の真相」佐藤貴彦

2020/11/24公開 更新
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「STAP細胞 事件の真相」佐藤貴彦


【私の評価】★★★★★(91点)


要約と感想レビュー

筋書ありきの報道

小保方さんのSTAP細胞は何だったのか、なぜ笹井芳樹氏は自殺しなくてはならなかったのか、真犯人は誰なのか解明する一冊です。普通の人のSTAP細胞問題の認識は、「小保方さんがES細胞を使ってSTAP細胞を捏造した」でしょう。これは毎日新聞記者の書いた「捏造の科学者 STAP細胞事件」や、NHKスペシャル「STAP細胞 不正の深層」は、この筋書きで書かれたものです。しかし、これらは事実を伝えているわけではなく、印象操作、仕組まれたストーリーであると考えられます。


犯罪捜査であれば証拠として保全されるべきSTAP細胞の試料は、事件の中心人物であるチームリーダー(当時)若山照彦教授の手元にありました。その試料を若山照彦教授が自分の判断で友人に分析を依頼したり、その結果をメディアに流していたのです。言い換えれば、事件の容疑者が事件の詳細をマスコミに説明し、マスコミは容疑者の話の裏付けを取ることなくニュースとして報道しているのです。


公正さの欠如・・・事件の対象者である若山氏の試料の保全がなされておらず、そこから証拠試料が提出されている・・・試料を解析したチームの中にも悪意のある人物が潜んでいることが疑われる(p146)

チームリーダーは若山照彦氏

まず事実関係を整理していきましょう。当時客員研究員であった小保方さんはチームリーダーである若山照彦教授の指導のもとにSTAP細胞を作っていました。若山照彦教授はSTAP細胞からSTAP幹細胞を作っていた。若山照彦教授は指導者として小保方氏に「こんな図がほしい」「これでは論文で使えない」などデータを偽装するよう誘導していたのです。これは若山照彦教授も認めていることです。


STAP細胞が問題となったとき、真っ先に論文取り下げを提案したのが若山氏です。STAP細胞を第三者機関(友人)で分析し、記者会見で小保方さんに渡したSTAP細胞と小保方さんから返ってきた細胞が違うと公表したのも若山氏。こうした若山照彦教授への取材に基づき書かれたのが毎日新聞の「捏造の科学者 STAP細胞事件」という書籍なのです。


STAP細胞事件の重要な被疑者であるはずの若山照彦教授が、保全されるべき証拠のSTAP細胞を勝手に第三者機関と詐称した友人に分析依頼し、誰かが細胞を差し替えたと公表し、それを信じるマスコミ。これはおかしいでしょう。毎日新聞の記者は、真犯人を断定調で書いた書籍まで出版している手の込みようなのです。


若山氏は論文の撤回を呼びかけた。それと同時に、「第三者機関」に手持ちのSTAP細胞関連株の解析を依頼した・・・「第三者機関」というのは偽りであって、解析を依頼した相手は単なる個人的な知り合いに過ぎなかった。そして、その解析の結果・・・発表したのも、後に間違いであることは判明した(p73)

NHKスペシャル「STAP細胞 不正の深層」の印象操作

NHKスペシャル「STAP細胞 不正の深層」では、意識的なのか無知なのかわかりませんが、明らかな印象操作が行われています。具体的にはNHKは何の関連もない3つの事実を、あたかも関連があるかのように放送しています。


STAP細胞にはアクロシンGFPが組み込まれていた→若山研ではES細胞にアクロシンGFPを組み込んでいた→若山研が山梨大学に持っていくはずだったES細胞が、なぜか小保方氏の冷蔵庫にあった。こう説明されれば、だれでも小保方さんが若山研からES細胞を盗んだのだろうと思うでしょう。


しかし実際には、小保方さんには専門知識がなく、若山研のどのES細胞を盗めばよいのか判断できる状況にありませんでした。また、小保方氏の冷蔵庫にあったES細胞にはアクロシンGFPが組み込まれていないうえに、小保方氏の冷蔵庫に保管されたのは時期的にかなり後で捏造に使えるはずがなかったのです。これが現実なのです。NHKスペシャル「STAP細胞 不正の深層」は事実の一部を切り取って、明らかに小保方氏がES細胞を盗んだという印象を視聴者に与えるように編集されていたのです。


NHKスペシャルによる印象操作・・・太田氏はFES1をすべて持ち去っており、仮に一部を置き忘れたとしても、小保方氏がそれを入手することはほとんど不可能だったのである。ところが、NHKはそのへんの詳しい事情には一言も触れずに、ただ「アクロシンGFPが組み込まれたES細胞が若山研に存在していた」ということだけ放送した・・・さらに畳みかけるように、NHKは、「若山研究室が山梨大学に持っていくことになっていたES細胞が小保方氏の研究室の冷蔵庫から見つかった」と放送した(p90)

改革委員会提言書の異常性

マスコミは若山照彦教授や理研内部からの情報リークに基づき、STAP細胞疑惑の報道を続けていきます。第三者による自己点検検証委員会でも、若山研内の実験データ不正問題であるにもかかわらず若山照彦教授は技術指導だけという理由で免責した一方で、最後の二か月、論文作成で指導しただけの笹井氏に全責任があるという不自然な結論となっています。


著者の考えでは、自己点検検証委員会の実働部隊は理研内部のグループダイレクターのチームで構成されており、悪意を持った人が紛れ込んでいる可能性が高く、結論ありきで報告書を作成したのではないかと推定しています。


さらに最悪なことに一流の識者を集めたであろう改革委員会は提言書で「STAP細胞捏造」が事実であることを前提に、笹井氏、小保方氏の所属するCDBの解体を提言しました。識者も誰もファクトを見てくれないと悟った笹井芳樹氏は、このタイミングで自殺するのです。


改革委員会提言書の異常性・・・これらの批判は、すべて「STAP細胞が捏造である」という前提があってこそ意味がある指摘だ・・・この時点では、まだ公式な調査委員会によって発表された不正は二つにすぎず、しかも、STAP細胞そのものを捏造と断じるような性格のものではない。現に、調査委員会もSTAP細胞の真贋そのものには触れていない(p123)

理化学研究所の改革委員会の実像

著者は理化学研究所の「研究不正再発防止のための改革委員会」の委員選定自体に疑問を呈しています。例えば、岸輝雄委員長が記者会見の冒頭で「ヨーロッパの友人から『今回の不正は、世界の三大不正の一つに認知されてきた』というメールをもらった」などと述べていることです。岸氏個人の友人が何と言おうがSTAP細胞の真贋には何の関係もないのに、公式の場で無意味なことをどうどうと発言する人物が委員長となっているのです。


これまで読んだ本の中ではもっとも合理的、論理性のある内容でした。STAP細胞事件は、マスコミのレベルの低さ、報道や空気に流されやすい日本の風土、ファクトではなく政治力に左右される理研内部や改革委員会の実像を明らかにしました。STAP細胞の真相をもっと多角的に理解するために、関連書をさらに読んでいきたいと思います。佐藤さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・若山氏は不正事件の調査対象者(調査される側)であって、調査をする側ではない・・・それを、あたかも自分が調査する側であるかのうように振る舞い、勝手に資料を解析に出して、その結果を公に発表するというのは、とんでもない越権行為であった(p74)


・返ってきたSTAP細胞には・・・「僕の研究室にはないマウス」と若山氏は述べた。どこかでマウス(あるいは細胞)がすり替えられたと考えられた・・・さらに、その日の夜のNHK7時のニュースで、「小保方氏の冷蔵庫から『ES』と書かれた容器が見つかり、STAP細胞と遺伝子の特徴が一致した」という報道がなされた。まさに絶妙のタイミングである(p74)


・主要な四人の中で、STAP細胞をあっさり否定したのは、若山氏だけなのである・・・自分のこの目で見たものを、こうもあっさりと否定できるものだろうか(p163)


・小保方氏は、ネイチャー論文のテラトーマ画像のうち、あるものはES細胞を使って捏造しておきながら、あるものは博士論文の画像を私用したということになる。なぜ、そのような中途半端なことをする必要があるのか(p52)


▼引用は、この本からです
「STAP細胞 事件の真相」佐藤貴彦
佐藤貴彦、パレード


【私の評価】★★★★★(91点)


目次

第1章 でっち上げられた窃盗容疑
第2章 悪意の証明
第3章 小保方氏の不正問題
第4章 過剰な期待
第5章 画策
第6章 自己点検検証委員会の欺瞞
第7章 改革委員会提言書の異常性
第8章 桂調査委員会報告書の矛盾
第9章 『あの日』について
第10章 小保方氏の博士論文



著者経歴

佐藤貴彦(さとう たかひこ)・・・名古屋大学理学部卒。


STAP細胞関連書籍

「STAP細胞 事件の真相」佐藤貴彦
「STAP細胞 残された謎」佐藤貴彦
「あの日」小保方 晴子
「小保方晴子日記」小保方晴子
「捏造の科学者 STAP細胞事件」須田 桃子
「STAP細胞はなぜ潰されたのか ~小保方晴子『あの日』の真実~」渋谷 一郎


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