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投資銀行の国際協調融資の世界「トップ・レフト-ウォール街の鷲を撃て」黒木亮

2020/11/25公開 更新
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【私の評価】★★★★☆(86点)


要約と感想レビュー

 タイトルのトップレフトとは、国際協調融資のような融資案件の中で中心的な役割をになう主幹事のことです。この本では主人公の邦銀マンが、トルコ・トヨタの工場建設向けの国際協調融資を主幹事銀行として米投資銀行と競います。著者は三和銀行のロンドン支店国際金融課で、中東、トルコ向け国際協調融資、航空機ファイナンス、プロジェクトファイナンスなどを手がけているので、ほぼ実務に近い内容のはず。


 失敗すれば出世に響く邦銀では、ノウハウが必要でリスクのある国際金融に対しては、当時はだれも真面目にサポートしませんでした。邦銀ではシンジケーションに失敗すれば、海外審査部は今後1,2年は引受けをさせてくれないペナルティを課します。その点、米銀の投資銀行ではシンジケーションに失敗しても、それはマーケット相手のビジネスの常と誰もが理解しているから、売れ残ったローンはいったん自行で抱え、流通市場で捌いたりして次のチャンスをうかがうのです。


 主人公と同じように、著者は三和銀行を辞めて大和証券英国法人、三菱商事英国現地法人に転職しています。よほど、邦銀の人事評価の減点主義が腹に据えかねていたのでしょう。


・田亀海外審査部長はロンドン支店長の林とは同期のライバルだ。しょっちゅう稟議に難癖をつけてはビジネスを妨害してくる・・・邦銀の人事は減点主義だから、仕事で実績を上げるよりは、そつなく当たり障りなくやる方が利口なんだが・・・(p76)


 この本がおもしろいのは、多国籍の金融機関と交渉しながらの国際協調融資の実務がわかることです。そして当時の邦銀の時代錯誤的な実態もわかります。米国の投資銀行では格付けが投資適格であれば、現場の判断で実質無制限に株や債券を引受けができるのに対し、現場に権限がなく、引き受けすべてに本店の承認が必要。本店の承認に膨大かつ奇麗な書類が必要。失敗すれば左遷。成功しても報酬は変わらないのです。さらに、国際金融に無知な人材が、審査を担当している。


 当時の護送船団方式で利益が確保されている邦銀では、リスクを取って稼ぐより、そこそこの成果で失敗しない人が出世できたのです。国際金融のような専門性とリスクの高い業務に挑戦する人が、バカに見えたでしょう。だから邦銀では役員昇格がかかってるできる支店長は、絶対にミスしないようにだけ失敗しないように担保がガチガチについている新規案件以外は絶対に承認しないというようなことが起きるのです。


・借り手にプロポーザルを出すためには本店に稟議書を提出し、承認を得なくてはならない。添付資料を含めると、稟議書は100ページ以上になった・・・ヨーロッパやアメリカの銀行は書いてもせいぜい15ページくらいらしいですよ(p72)


 後半に暴落したトルコ・トヨタの株式を安値で買い集める日本の総合商社の話が出てきます。日本の総合商社は能力、業務内容、資金量、政治力といった総合力から投資銀行と同じ役割を担っています。ウォーレン・バフェットが日本の商社の株式の5%を購入したのは、こうした総合商社の能力も考慮したはずです。国際金融業務に就職したい人は、インターンよりこの本を読んだほうがよいかもしれませんね。黒木さん、良い本をありがとうございました。


この本で私が共感した名言

・米国の投資銀行の報酬は巨額だ・・・部下数人の下っ端マネージング・ディレクターでも円換算で5千万円から7千万円。龍花のように部を率いるマネージング・ディレクターだと2億円前後になる(p56)


・日本の銀行が預金と貸し出ししか能がない大人しいヒツジで、日本の証券会社がブローカレッジ専門の株屋にすぎないのは、総合商社が投資銀行の役割を果たしてきたからだ(p358)


・アメリカの金融機関なんて、本当はたいしたことはないんだ・・・彼らだって似たような失敗を何度も繰り返している。トレーディングで大損を出すのはしょっちゅうだし・・顧客に対しては、何か神秘的な能力があるように見せかけてはいるが、一皮むけばごく普通の人間がやっているんだ。金のために血まなこでね(p215)


▼引用は、この本からです

黒木亮、祥伝社


【私の評価】★★★★☆(86点)


目次

第1章 国際協調融資
第2章 ウォール街の鷲
第3章 敵対的買収宣言
第4章 ロシアの汚染
第5章 マイ・ワード・イズ・ボンド
第6章 最強の投資銀行



著者紹介

 黒木 亮(くろき りょう)・・・1957年生まれ。早稲田大学法学部卒業。三和銀行に入行。1988年から三和銀行ロンドン支店で国際協調融資、プロジェクト・ファイナンス等に関る。その後、大和証券英国法人、三菱商事英国現地法人でプロジェクトファイナンスに従事。2000年に国際金融小説『トップ・レフト』で作家デビュー。2003年7月に退社し、専業作家となる。


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