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「エネルギー(上・下)」黒木 亮

2020/08/18公開 更新
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【私の評価】★★★★★(95点)


要約と感想レビュー

 1997年のイラクから話ははじまります。イラクがクウェートに侵攻したのが1990年。国連が限定的にイラク原油の輸出を解除したことから、三菱商事の主人公が原油の確保に動くのです。となりのイランでは、トーメンが資源エネルギー庁の役人と大油田の開発を立ちあげようと画策しています。これはアザデガン油田のことでしょう。


 イランのアザデガン油田は結局、2010年に経済産業省と国際石油開発帝石が撤退を発表することになりますが、役人とは取引成立さえすれば、後で案件が失敗したとしても、別の部署に異動して出世していくのです。商社から見れば、役人とは気楽な稼業ときたもんだ、ということなのでしょう。


 その後、主人公はイラクからサハリンのプロジェクトに異動となります。ロイヤル・ダッチ・シェルルが55%、三井物産25%、三菱商事20%出資しているサハリン2の第1フェーズが生産開始し、第2フェーズが計画されていたのです。サハリン2の立ち上げにあたっては、LNGの販売先の見通しがないことが問題でした。ロシア産のLNGをガス会社、電力会社は安定供給の点で不安を持っており、なかなか買おうとしません。LNGの販売先がなければ、そのプロジェクトに金融機関は貸し付けできないのです。


 実際には、2002年の東京電力による原子力発電所の点検記録の不正問題から原子力が停止し、東京電力は原油、LNGを手配しなくてはならなくなりました。さらには2003年にはイラクに米国が侵攻し、2002年に1バレル20ドルまで下がっていた原油価格はその後上昇を続けます。その中でサハリン2は2004年以降、東京電力他、東京ガスなどとLNG購入契約を締結することができたのです。


・LNGの買付であれば、顧客がどこからどれだけ購入し、契約期限はいつまでかを常に把握している・・・たとえば、東北電力はインドネシアの「アルン2」プロジェクトの契約(年間83万トン)が2009年に切れるので「是非サハリンBのLNGを」と、五井商事と東洋物産が売り込んでいる(上p339)


 電力会社やガス会社は、大量の燃料を安定的に相応の価格で買ってくれることから商社にとって最上級の顧客です。ガス会社や電力会社の社員と商社のエネルギー部門の社員は、お互いに長い時間をかけて付き合いを続けるているのです。そして上流開発ともなれば商社が関係者を巻き込んで、政治力と軍事力を持つ欧米の企業をプロジェクトに組み込み、プロジェクト・ファイナンスで国際機関や有力金融機関を関与させ、ロシア側に圧力をかけつつ、保険をかけておくのです。


 日本を支えるエネルギー源である原油、LNG、石炭を確保するために大手商社、国策資源会社、官僚が現在も動いているのだと思いました。出資するパートナーとの関係、プロジェクトファイナンスでの金融機関、弁護士事務所との関係など実務の雰囲気を仮想体験できる一冊でした。これを英語で交渉するのですから、ワクワクすると考えるのか、自分には無理と考えるのか人それぞれでしょう。


・ロシアが相手だと、やっぱり最後は、こうなるってことなんだろうなあ・・・法律事務所から『これは非常に強いPSAだ』といわれましたけれど・・・ロシア相手じゃいくら強いPSAを結んでも、意味ないですね。」「ポツダム宣言を受託したあとに、北方領土に侵攻して併合したり、日本兵を何十万人も抑留して、シベリアで強制労働させる国だからなあ(下p319)


 下巻では環境問題で工事を止められるなどのロシアの圧力により、サハリン2の利権の半分をガスプロムに奪われてしまいます。弱肉強食の国際政治・国際取引では、相手をどこまで信じるのか見極めが必要なのでしょう。 
 

 黒木さん、良い本をありがとうございました。


この本で私が共感した名言

・六商社が1千万ドルずつ出資してSPC(特別目的会社)を設立する。そこに国際協力銀行が30億ドルを融資し、SPCが資金をイラン側に転貸する。SPCは国際協力銀行内で「もっぱら会社」と俗称され、同行の職員の天下り先になる(上p233)


・「韓国の会社って、どんな風に難しいんだ?」「韓国人特有の『買ってやるから世界一いい契約で売れ』ってやつで・・・」金沢はうんざりした顔。「『LNG船は韓国で造れ』とか『韓国の建設会社に仕事させろ』とか、ありとあらゆる要求をしてくるんだ。ああいうのは、長く付き合えるバイヤーじゃないね」(上p266)


・トーニチ財務部は、本社ビルや売掛金から自動車の金型に至るまで、証券化できるものはすべて証券化して、手元流動性に投じていた。「オリックスにはずいぶん助けてもらったな」・・・オリックスは、証券を自社で保有する実質的な「セール・アンド・リースバック」なので、証券化できる資産の範囲が広く、手続きも速い(上p367)


・「スケべる」というのは社内の隠語で、欲をかいてリスクを取ることを指す。パイプ・ビジネスでは、価格を仕切る以外に、コーティングをしたり、建設工事を請け負ったりすると、単なる仲介よりも多くの利益を上げることができる(下p257)


・「ただ、奴の場合、部長とか長官をすっ飛ばして、大臣と直で案件を進めてたから、すっ飛ばされてた人たちは、そりゃあ、面白くないと思ってただろう。そういう恨みや憎しみが鬱積した状況で、何か失敗したら、一気に叩かれるのが世の中じゃないか?」・・・鈴木宗男との親密な関係を背景に力をふるっていた「外務省のラスプーチン」こと佐藤勝(当時主任分析官)は、昨年(2002年)、鈴木宗男が失脚すると同時に、背任と偽計業務妨害の容疑で逮捕、起訴された(上p478)


▼引用は、この本からです

黒木 亮、角川書店


【私の評価】★★★★★(95点)


目次

第1章 石油街道
第2章 イラク原油
第3章 イラン巨大油田
第4章 サハリン銀河鉄道
第5章 ハタミ大統領来日
第6章 豊饒のオホーツク海
第7章 メキシコの幻想
第8章 ユダヤ人ロビイスト
第9章 雪の紫禁城
第10章 ガスプロムの影
第11章 遭難
第12章 コールオプション



著者紹介

黒木 亮(くろき りょう)・・・1957年生まれ。早稲田大学法学部卒業。三和銀行に入行。1988年から三和銀行ロンドン支店で国際協調融資、プロジェクト・ファイナンス等に関る。その後、大和証券英国法人、三菱商事英国現地法人でプロジェクトファイナンスに従事。2000年に国際金融小説『トップ・レフト』で作家デビュー。2003年7月に退社し、専業作家となる。


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