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「言ってはいけない!?国家論 いまこそ、トランプの暴走、習近平の野望に学べ!」渡部 悦和, 江崎 道朗

2022/03/16公開 更新
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「言ってはいけない!?国家論 いまこそ、トランプの暴走、習近平の野望に学べ!」渡部 悦和, 江崎 道朗


【私の評価】★★★★★(93点)


要約と感想レビュー

アメリカの親中派と対中強硬派の対立

ロシアのウクライナ侵攻もあり、安全保障について勉強したくて手にした一冊です。著者の渡部さんは、陸上自衛隊のキャリアで外務省出向も経験し、東部方面総監で退職。その後、ハーバード大学アジアセンター・シニアフェロー、日本戦略研究フォーラム・シニア・フェローを歴任しています。


印象的だったのは、トランプ大統領が誕生した後の2016年頃、著者はハーバード大学で安全保障を議論していましたが、中国からの多額の寄付や教授の研究への便宜供与などによって当時のハーバード大学は親中派の巣窟であったということです。つまり、国際協調主義、グローバル化を進め中国の平和的成長を信じるリベラリズムを信奉する学者が多かったのです。


その証拠に、「中国の平和的台頭なんてあり得ない」と主張したハーバード大学のミアシャイマー教授が、シカゴ大学に飛ばされています。アメリカには、パンダ・ハガー(親中派)とドラゴン・スレイヤー(対中強硬派)の派閥があり、対立しているのです。


著者の渡部さんはハーバード大学の中で、「中国の世界覇権の意思」について議論をしていると、中国から派遣されている教授やスタッフから忠告を受け、監視されるようになったというのです。中国共産党の統一戦線工作部という実質的なスパイ工作機関が、アメリカに留学している中国人学生の背後にいるのです。アメリカで中国の工作活動が浸透しているということなのです。


・ミアシャイマー教授は・・「米中対立は不可避である」という指摘をした・・・そのミアシャイマー教授が出ていかざるを得ないほどハーバード大学には親中派が多い(江崎)(p19)


日本は米国の従属国である

さらに驚いたのは、日米同盟とは決してイコールパートナーではない。日本は米国の従属国であるという事実です。なんとなくわかってはいましたが、改めて明確に説明されると驚きました。著者がアメリカの米軍関係者から教えてもらったことでは、日本では評価の高い中曽根総理は「ロンヤスの関係」「日米はイコールパートナー」などと発言していましたが、アメリカの評価は中曽根総理はアメリカに守られている従属国という日本の立場がわかっていないのではないかと、不評だったというのです。


逆に小泉総理や安倍総理は日本の従属国であるという立場を理解したうえで、うまくアメリカを持ち上げて利用したしたたかな政治家と評価されているという。例えば、小泉総理は北朝鮮から拉致被害者の一部帰国を実現しましたが、万が一のときにはアメリカが爆撃するというところまでアメリカ政府が支援していたのです。さらに変わり者のトランプ大統領から信頼された安倍首相は、したたか、かつ偉大な政治家であったということなのでしょう。


・Japan-US Alliance、日米同盟・・・アメリカの政治家や軍幹部たちが使うAllianceっていう言葉は、従属国っていう意味合いが含まれているんだよ(p78)


核兵器を抜きにしたパワーなど存在感はない

この本で語られるのは、アメリカ、イギリス、ロシア、インド、中国の国際政治、インテリジェンス業界での存在感に比べ、日本の存在感がほどんとないということです。著者はこれまでの経験の中で、米英、米中、米ロ、米印の関係がいかに深く、人材が厚いのか、思い知らされてきました。そうした国家群にくらべて、日本では国会議員やスタッフが安全保障について、基本的なことから肝心なことまで、まったく分からない人が多いのだというのです。


国際社会はバランス・オブ・パワー、つまり各国の勢力均衡を重視しながら動いているというのが現実なのだという。だから、核兵器を抜きにしたパワーなど存在感はないのです。だから日本はバランス・オブ・パワーのパワーたりえないという説明に納得しました。


そして、世界には日本とまったく違う価値観で生きている人たちがいる、という著者の言葉が、今回のロシアのウクライナ侵攻で納得せざるをえませんでした。これまでは憲法改正、自衛力強化、核兵器などはタブー視されてきましたが、やっと普通の議論ができる環境ができてきたということなのでしょう。


最後に著者の推奨は、習近平に学ぶことです。いくら国際社会から批判されても、スパイが何名捕まろうと、工作活動、サイバー攻撃、軍備拡張をやめない。国民全員をスパイにしてまで中国の夢、国家目標、国益を達成するために、必死に行動しているのです。日本も国際社会のリアリズムに目覚めないとウクライナのようになってしまうかもしれないと感じさせてくれる一冊でした。渡部さん、江崎さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・工作員は弁護士に結構なっていますが、社会的な影響力が大きい。それに新聞社やテレビ局といったマスメディアにもうまく入っています・・・そもそも永田町が工作員たちの活動拠点ですからね(p175)


・ニュージーランドの女性中国研究者アンマリー・ブラディー・・・コンピュータを盗まれたり、車に重大な事故が起こる細工をされたりするなどの妨害を受けながら、中国の迫害を徹底的に批判する立場で情報を発信している(p69)


・自衛隊であれば指揮所はひとつしかありません・・・ドイツは訓練時からふたつあるのです・・・米軍は確か3交代です(p96)


▼引用は、この本からです
「言ってはいけない!?国家論 いまこそ、トランプの暴走、習近平の野望に学べ!」渡部 悦和, 江崎 道朗
渡部 悦和, 江崎 道朗、扶桑社


【私の評価】★★★★★(93点)


目次

第1章 ハーバード大学から見たアメリカ
第2章 トランプのアメリカと米中新冷戦
第3章 したたかなドイツ、混乱の韓国
第4章 習近平の中国に学べ
第5章 ハイブリッド戦の時代に我々は...
第6章 日本は、どうすべきか



著者経歴

渡部 悦和(わたなべ よしかず)・・・日本戦略研究フォーラム・シニア・フェロー、前・陸上自衛隊東部方面総監。1978年 東京大学卒業、陸上自衛隊入隊。その後、外務省安全保障課出向、ドイツ連邦軍指揮幕僚大学留学、防衛研究所副所長、陸上幕僚監部装備部長、第2師団長、陸上幕僚副長を経て2011年に東部方面総監。2013年退職。ハーバード大学アジアセンター・シニアフェローを歴任後、現職。


江崎道朗(えざき みちお)・・・1962年、東京都生まれ。九州大学卒業後、月刊誌編集、団体職員、国会議員政策スタッフを務め、安全保障、インテリジェンス、近現代史研究に従事。現在、評論家。


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