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「コミンテルンの謀略と日本の敗戦」江崎 道朗

2019/07/25公開 更新
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コミンテルンの謀略と日本の敗戦 (PHP新書)


【私の評価】★★★★☆(87点)


要約と感想レビュー

第二次世界大戦の直前1941年、尾崎・ゾルゲ事件というスパイ事件がありました。日中戦争を煽っていた「朝日新聞」の記者であった尾崎が、近衛内閣嘱託としてソ連の工作活動をしていたというものです。つまり共産主義者の工作活動が日本を日中、日米戦争に向かわせ、敗戦に導かれた一因であったのです。著者はこうした他国の工作活動に翻弄された日本の歴史を紐解くことで、現代の日本においても同じようなことが起きないようにしなければならないとしています。


朝日新聞の記者だった尾崎は朝日新聞や系列の月刊誌を活用して、共産主義のロシアと戦うよりも「主敵は英米だ」と主張していました。またその後は、内閣嘱託となり、政権内で日本がロシア(ソ連)と戦うのではなく、南進して英米との対決する方向に誘導したのです。


また、コミンテルンは1928年に日本国政府の「帝国主義的」戦争を「内乱」へと転換させ、混乱を通じてプロレタリア革命をめざす「敗戦革命」路線を提示します。この方針を踏まえ1932年に帝国陸海軍兵士向けに、反軍反戦を呼びかける『兵士の友』が刊行も始まり、五・一五事件が起こったのです。したがって、五・一五事件の檄文と共産党の宣伝が似ているわけです。青年将校の愛国心を操り、「自分たちが立ち上がって資本家を打倒しなければ日本は救われない」と信じさせる手法は、現在の共産国家の手法と同じテクニックが使われているわけです。


・「内部穿孔(せんこう)工作」とは、様々な組織に「細胞」という自分たちの仲間のグループ、つまりスパイを潜り込ませ、内部からコントロールすることをめざす工作のことである(p77)


現在も諸外国は、自国の国益のために日本国内で工作活動を行っています。特に戦前の共産主義者やコミンテルンはマスコミ、労働組合、政府、軍に工作員を送り込み、その国の世論をコントロールしました。そうした工作活動に簡単に騙されてしまったのが、お人好しの日本人、というのが著者の見立てです。そして、現代社会においても、私たちは同じようにコントロールされているというのです。例えば、安倍政権がアベノミクスで景気浮揚を目指していましたが、共産党や左翼学者は「格差を広げている」と批判しますが、確かにそうした一面もあるので、同調してしまう人が多いのです。結果的に共産党や民主党に利用されてしまうという寸法です。


当時、ソ連は、「ミコンテルン(共産主義インターナショナル)」という共産主義者ネットワークを構築し、世界的な共産革命をめざして工作を行っていました。世界各国のマスコミ、労働組合、政府、軍の中に「工作員」、つまり「スパイ」を送り込みその国の世論に影響を与え、対象国の政治を操っていました。そして、現在もその影響力が残っているということなのです。


・尾崎は朝日新聞の記者だった人物で、月刊誌などへの寄稿も多く、当時の言論界で影響を持ちうる存在であった。当時、国民的人気があった政治家・近衛文麿のブレーン組織である昭和研究会にも参加。近衛内閣が成立すると朝日新聞を退社して内閣嘱託となり、政権中枢深くに入り込んだ(p33)


著者はこうした工作活動を批判し、朝日新聞や共産党や民主党を弾圧する必要はないとしています。戦前の反省は、共産主義者だけでなくだれもかれも弾圧することで、共産主義者でもない人が被害者として共産主義に同調してしまったという背景があります。ですから弾圧するのではなく、相手の勢力の活動を観察し、どういった方針で工作活動を行っているのか分析するのが正しい対策であるとしています。


つまり、もし朝日新聞を廃刊にしてしまったら、朝日新聞をコントロールしている工作員が何を考え、何を仕掛けようとしているのか、理解することができなくなってしまうのです。貴重な情報源として、朝日新聞や東京新聞などは泳がせておけばよいということです。


例えば、中国やロシアが令状なしで逮捕したり、暗殺したり、逮捕して強制収容所に監禁するなどに対し、人権を重視しているはずのリベラル派(左派)の活動家がなぜ批判しないのか。慰安婦問題にしても、靖国神社の問題も、歴史教科書の問題も、工作活動の一つと見れば、理解ができるということです。私も著者の手法を、もう少し深堀りしてみたいと思います。江崎さん、良い本をありがとうございました。


この本で私が共感した名言

・支那事変の長期化を画策し、近衛新体制と大政翼賛会の旗を振って、日本を、まるでスターリンかヒトラー支配下のような全体主義体制にする動きを担っていたのは、左翼知識人と「革新」官僚たちであった(p272)


・レーニンは・・自国が戦っている戦争への協力を徹底的に否定し、サボタージュ戦術をとり、自国をむしろ積極的に「敗戦の危機」へと追いやり、その危機的状況から内乱・革命を惹起(じゃっき)し、それに乗じて権力を握るべきだと説いた(p61)


・地主から土地を取り上げ・・経営者から資金と工場を取り上げ、国有化、つまり労働者全員で共有するようにすれば格差は解消され、労働者天国の社会が実現できる・・よって共産主義者は基本的に武力革命を支持し、議会制民主主義に対して否定的なスタンスをとる(p39)


・共産主義体制によってどれほどの犠牲者が出たのか・・・
 ソ連    死者2000万人
 中国    死者6500万人
 ヴェトナム 死者100万人
 北朝鮮   死者200万人・・
 今から20年近く前の計算なので、北朝鮮や中国共産党支配下のチベットやウイグルの犠牲者を足せば、さらに多くが犠牲になったことになる(p40)


・アメリカでは作家のヘミングウェイやヘレン・ケラーのような有名人を看板にしたフロント団体が、多くの会員を集めた。フロント団体とは、表向きは平和や、民主主義や、文化向上や、貧しい人民の支援などを謳いつつ、実態は偽装した共産主義団体である組織のことである(p233)


・アベノミクス発足時に「金融緩和をしたらハイパーインフレが起きて止められなくなる」「金融緩和ではデフレは脱却できない」などという批判が山のようにあったのは記憶に新しいが、当時、高橋是清や、リフレ政策を主張していた石橋湛山(たんざん)も同じようなことをいわれて批判されたのである(p182)


コミンテルンの謀略と日本の敗戦 (PHP新書)
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【私の評価】★★★★☆(87点)


目次

はじめに --コミンテルンの謀略をタブー視するな
第一章 ロシア革命とコミンテルンの謀略--戦前の日本もスパイ天国だった
第二章 「二つに断裂した日本」と無用な敵を作り出した言論弾圧
第三章 日本の軍部に対するコミンテルンの浸透工作
第四章 昭和の「国家革新」運動を背後から操ったコミンテルン
第五章 「保守自由主義」vs「右翼全体主義」「左翼全体主義」
第六章 尾崎・ゾルゲの対日工作と、政治への浸透
おわりに--近衛文麿という謎



著者経歴

江崎道朗(えざき みちお)・・・1962年、東京都生まれ。九州大学卒業後、月刊誌編集、団体職員、国会議員政策スタッフを務め、安全保障、インテリジェンス、近現代史研究に従事。現在、評論家。


近衛文麿関係書籍

「近衛文麿の戦争責任―大東亜戦争のたった一つの真実」中川 八洋
「大東亜戦争の秘密―近衛文麿とそのブレーンたち」森嶋雄仁
「近衛文麿」杉森 久英
「近衛文麿「黙」して死す―すりかえられた戦争責任」鳥居 民
「コミンテルンの謀略と日本の敗戦」江崎 道朗


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