【書評】「人口減少時代の農業と食」窪田新之助,山口亮子
2025/06/12公開 更新

Tweet
【私の評価】★★★★☆(86点)
要約と感想レビュー
2年前に米価は過去最低を記録
コロナ禍後の2023年出版ということで、米価が過去最低だった頃の書籍です。当時は、肥料が高騰して、米を作っても赤字という状況で、離農が増えるのではないかと懸念されていました。
つまり、減反でコメの生産量を減らしても、それ以上にコメの消費量は減り、コメの価格も下落するという負のスパイラルに陥っていたのです。
しかし、農家の現場を見ると、60歳以上の人口比率がほとんどで、統計的には、70歳で引退する人が増えるため、大量離農が続くと予想されていました。
このように離農が進む一方で、受け皿になる経営体が育たず、耕作地放棄が増え、集落が消えていっているというのが日本の農村なのです。
2024年からのコメの価格高騰は、低すぎるコメの価格を何とかしようと生産量を減らし過ぎたということなのでしょう。
・四国的状況・・離農が進む一方で、受け皿になる経営体が育たず、耕作地放棄が進むという負のスパイラルに陥る状況(p30)
コメの生産性を高める方法
では、今後どうすればよいのでしょうか。コメについては農地を集約し、生産性を上げることでしょう。そのため、山間地の農地は山に戻し、立地がよく一枚が広い優良農地は、集約してく必要があります。
しかし、現実には「農地転用」で大金を手にできる可能性もあるので、耕作する気がなくても、優良農地を手放したがらない農家が多いのだという。また、集約されたとしても、水田が面的につながっていないために、効率が悪くなってしまうこともあるのが現実だというのです。
現在は田植えや稲刈り、ドローンによる防除、土壌改良剤の散布などの農作業を受託する会社もあるようですが、コメの価格の乱高下や海外のコメとの競争と輸入関税の問題など課題は多いのです。
「コメはもはや主食ではない」と言われるように、一世帯当たりの年間支出額でコメはパンに主食の座を奪われてしまっている点も記憶しておきたいところです。
コメが中心だと冬場の仕事がなく、その間も人件費がかかるため、収益が悪くなる(p50)
農業で生産性を高める
この本ではコメに限らず、イチゴやリンゴの生産性向上の取り組みを紹介しています。イチゴの施設栽培における労働時間は、半年で一人当たり1874時間だという。休みなしで働いたとして一日当たり10時間を超えるのです。
収穫の最盛期には「二時間しか寝られないことなんてざら」で、外国人労働者を活用したり、パッケージセンターを作ったり、ロボット活用が検討されているという。
また、リンゴでは品種ごとの剪定から出荷までの作業や経費をアプリに記録している生産者が紹介されています。製品原価を計算して、生産性の低い品種を減らし、生産性の高い品種を増やすなどの取り組みを行っているのです。
これまで農業は、最低賃金に近い奉仕労働やどんぶり勘定の中で経営されてきたということなのだと理解しました。
品種ごとの労働生産性のデータを踏まえて、青森県の最低賃金である800円程度の品種をまずは伐採することにした(p170)
農業の在り方を考える
物流業者が長時間労働できなくなり、遠くの生産地から消費地にこれまでのコストで農産物を運べなくなっているという。対策として、パレットを使ったり、保冷庫を作って積載率を上げたり、試行錯誤していることがわかります。
特に果物については、長期保管を可能とする新しい冷蔵方式でコールドチェーンを作り、安定した品質の商品を供給できる可能性が高まっているとわかりました。
農家が減り、消費も多様化する中で、輸入を含めたの農業の在り方を考えるよいチャンスなのではないでしょうか、もう少し勉強したいと思います。
窪田さん、山口さん、良い本をありがとうございました。
無料メルマガ「1分間書評!『一日一冊:人生の智恵』」(独自配信) 3万人が読んでいる定番書評メルマガ(独自配信)です。「空メール購読」ボタンから空メールを送信してください。「空メール」がうまくいかない人は、「こちら」から登録してください。 |
この本で私が共感した名言
・「むきタマネギ」・・その輸入が止まったことで、国内のタマネギ価格は暴騰した。じつは、野菜のうち、生鮮での輸入量が最も多いのがタマネギ。国内の流通量の2割に当たる28万トンが輸入されていて、その9割を中国に頼る(p236)
・米価が高止まりしがちな理由に、いわゆる「ブランド米」の道府県による開発競争がある。新品種を次々とデビューさせた結果、価格帯の高いコメが過剰に供給される一方で、値ごろ感があり加工・業務用に使われるいわゆる「業務用米」が品薄になりがち(p254)
・コメ以外を主食にすることが増えた理由の一つは、炊くのが面倒だから・・ご飯を炊く時間はない。でも、あたたかいご飯を食べたい。そんな需要にピタリとはまったのが、パックご飯というわけだ(p257)
▼引用は、この本からです
Amazon.co.jpで詳細を見る
窪田新之助,山口亮子(著)、筑摩書房
【私の評価】★★★★☆(86点)
目次
第1章 データで見る農と食のいまとこれから
第2章 危機にある物流
第3章 待ったなしの農業関連施設の再整備
第4章 大規模化への備え
第5章 外国人、都市住民からロボットまで
第6章 消費者が迫る変化、日本文化を世界へ
著者経歴
窪田 新之助(くぼた しんのすけ):ジャーナリスト。日本農業新聞記者を経て、フリー。著書に『農協の闇』(講談社現代新書)、『データ農業が日本を救う』(インターナショナル新書)など。
山口 亮子(やまぐち りょうこ):ジャーナリスト。愛媛県生まれ。京都大学文学部卒、中国・北京大学修士課程(歴史学)修了。時事通信記者を経てフリー。窪田との共著に『誰が農業を殺すのか』(新潮新書)など。企画編集やコンサルティングを手掛ける株式会社ウロ代表取締役。
この記事が参考になったと思った方は、クリックをお願いいたします。
↓ ↓ ↓
この記事が気に入ったらいいね!
コメントする