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【書評】「農協の闇(くらやみ)」窪田 新之助

2025/04/14公開 更新
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「農協の闇(くらやみ)」窪田 新之助


【私の評価】★★★★☆(86点)


要約と感想レビュー


農林中央金庫が外国債券で約2兆円赤字

農林中央金庫が、外国債券の売却で約2兆円の赤字確定という報道を見て、手にした一冊です。農林中央金庫は農協の金融部門ですので、農協の現場はどうなっているのでしょうか。


ほとんどの農協は、農産物や資材の販売である経済事業は赤字で、金融事業で穴埋めをしているのが実態であるという。その金融事業も、職員に販売ノルマを課し、これを達成するため他人の掛け金まで自己負担する自爆営業が常態化しているというのです。


例えば、職員の証言では、「共済のノルマで「未達」はあり得ない」「LA(ライフアドバイザー)の担当になったらボーナスはないものと思え」などパワハラ、強迫まがいの指導が行われているという。そのため、農協の金融部門では転職する人が多くなり、現場の人員不足と、専門知識を持った人材の不足に拍車がかかっているという。


ライフネット生命保険に転職した人がいるんです・・引き抜かれる人が結構いますね。なにせ農協と同じだけ仕事をこなせば、余裕で年収1000万円を超える(p89)

農協の経営層は業界で顔が利く人

著者は現状の農協の不振の原因を2つ説明しています。


1つ目は、農協の経営層が経営の能力ではなく、業界で顔が利く人が選ばれることが多いことです。したがって、経営層が行うのは、金融事業で厳しい販売ノルマを設定して、職員を追い立てることだけで、現場では不正でも何でもしてノルマを達成している状況らしいのです。


2つ目は、みのり監査法人が行っている監査がいい加減で、不正をチェックできていないことです。


実は農協の監査については以前から問題視されており、安倍内閣の農業改革で2019年から公認会計士監査が導入されました。ところが、それまで監査を行っていた農業監査士が、2019年から監査を行う監査法人に出向して、改革前と同じ人が監査しているだけだという。


著者は郵政グループによる「かんぽ不正販売」と全く同じ状況、つまり経営者の無能とチェック不在で顧客不在の「JA不正販売」が今でも続けられていると解説するのです。


毎月の掛け金は職員に手渡していたけど、職員がそれを使い込んでいたらしいんだ。どれも農協が弁済して、握りつぶしたよ(p280)

JA秋田おばこの62億円不正会計

農協の不正のチェック不足の事例として、JA秋田おばこの62億円もの不正会計を説明しています。JA秋田おばこの巨額の損失の内訳は、一つは農産物の「共同計算」による精算の誤差による赤字。もう一つは、宮城県の卸売業者からの未収金です。


農産物の「共同計算」については、出荷時に概算金を支払い、販売が終了した時点で本精算を行う方法です。この精算するためのデータは手書き伝票で、書き間違いがあってもチェックされず、在庫データの本部への提出も月1回で会計不正、誤差が大きくなったという。


例えば、不慣れな職員が入庫データを記載したのに間違って、もう一度記載するという二重計上が頻発し、チェックされていなかったというのです。また、後で合併した他の農協の共同計算の赤字が粉飾されたまま、合併によってうやむやになり、結局詳細は誰もわからない状況だというのです。


宮城県の卸売業者からの未収金についても、2005年に約1億円、2008年に約2億円の未収金が発生したにもかかわらず、JA秋田おばこは取引を続けたというのです。普通の会社取引であれば、取引停止でしょう。意味がわかりません。


62億円の不正会計が表面化し、2018年JA秋田おばこの総代会は、組合長であった藤村正喜氏と歴代の役員57人に、約27億円の損害賠償を請求。ところが、当時の役員は理事会で2.5億円への減額を逆提案し、なぜか総代会で承認されてしまったというのです。さらに、当時常勤役員だった人が役員にとどまっていたり、事件の隠蔽に関わった中心人物が、次の役員選挙に出馬予定だというのですから、闇は深いのです。


本店にあるコメ業務の本部に各倉庫の在庫データが上がってくるのは月に1回・・伝票に手書きするので、記載に間違いがあったり、最新のデータに更新されていないことが常態化(p212)

中家徹氏からの圧力

著者は日本農業新聞記者時代、梅干し用の梅を巡る価格カルテルを報道しています。なんとJAが、梅を不当な安値で農家から買い取るためにカルテルを結んでいたのです。梅の価格カルテルの疑惑を報じた後、「JA紀南」の組合長の中家徹氏から続報を報道しないよう圧力がかかったという。なんと、中家徹氏はその後「JA全中」会長となっているのです。


どうやら農協とは、そういう人が上に行く組織のようです。外国債券投資の失敗も、そこに原因があるのでしょうか。もう少し調査を進めます。窪田さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言


・JAは准組合員の勧誘に勤しみ、国民の12人に1人が組合員という巨大組織に発展することに成功した。JAが国民最大手の銀行や保険会社と比肩しうる存在になれたのは、准組合員のおかげといえる(p199)


・出資金が減っている・・JA大潟村では、正組合員が100万円なのに対して、准組合員は5万円である(p187)


・2022年・・JA青森中央会が臨時総会を開いて、会長には津軽側の雪田氏が就任・・おまけに副会長には、津軽側の「JAごしょつがる」」の斉藤勝徳組合長が専任されている。会長と副会長の席を津軽と南部で分け合うという暗黙の了解も破られた・・南部側のJAは6月、「決議不存在の」確認と、取り消しを求めて、青森地裁に提訴している(p243)


▼引用は、この本からです
「農協の闇(くらやみ)」窪田 新之助
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窪田 新之助 (著)、講談社


【私の評価】★★★★☆(86点)


目次

第一章 不正販売と自爆営業
第二章 金融依存の弊害
第三章 裏切りの経営者たち
第四章 JAはなぜ変われないのか


著者経歴

窪田 新之助(くぼた しんのすけ)・・・1978年、福岡県生まれ。農業ジャーナリスト。明治大学文学部を卒業後、日本農業新聞に入社。記者として国内外で農政や農業生産の現場を8年間取材し、2012年からフリーランスに。


農業関連書籍

「農協の闇(くらやみ)」窪田 新之助
「バターが買えない不都合な真実」山下 一仁
「農家はもっと減っていい 農業の「常識」はウソだらけ」久松 達央
「日本は世界5位の農業大国 大嘘だらけの食料自給率」浅川 芳裕
「農!黄金のスモールビジネス―すごい経営 余裕の黒字!」杉山 経昌


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