【書評】「維新政治の内幕:「改革」と抵抗の現場から」小西 禎一
2025/10/28公開 更新
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【私の評価】★★★★☆(85点)
要約と感想レビュー
大阪府の改革プロジェクト
大阪維新の会を作った橋下徹氏の本を紹介しましたので、大阪府で改革プロジェクトチーム長、副知事を歴任、「大阪都構想」の制度設計を行った小西さんの本も紹介します。小西さんは実は、地方分権に反する「都構想」には反対であったという。2019年には「都構想」に反対の立場で、大阪府知事選挙に立候補し、落選しています。
大阪府の改革プロジェクトチームでは、年間1100億円の収支改善を行いました。給与削減は、知事30%、副知事20%、管理職14~16%、管理職以外4~10%、退職手当5%減で年350億円を削減しました。さらにスポーツセンター、青少年会館などの施設の廃止・売却も実施しています。
こうした費用削減を原資に、橋下知事は私立高校の授業料無料化(所得制限あり)を実施しました。このような成果が、「大阪維新の会」への府民の支持を高めたのです。
ただ、著者はこうした成果は、「行政改革や市場原理の名の下に公的事業の民営化や規制緩和を進める新自由主義的なポピュリズムだ」と批判しています。
ムダを減らすことを、不平・不満を持つ国民の支持を狙ったポピュリズムと批判するとは、市民の声を理由に施設の廃止に反対した公務員として矛盾しています。本心はどこにあるのでしょうか。
私はそもそも、基礎自治体の強化という地方分権の方向に反する「都構想」なる地方自治制度の改革に反対でした(p104)
大阪府や大阪市の戦略
それまで著者が勤めていた大阪府や大阪市は、どのような組織だったのでしょうか。
有名なのは、2004年頃に発覚した大阪市職員によるカラ残業でしょう。大阪市では1960年頃から残業をせずに残業代を受け取る「カラ残業」が約9000件も発見され、条例に基づかない「ヤミ年金・退職金」も1993年~2003年だけで約304億円が支出されていたという。
また、元大阪市幹部のコメントから、大阪市には「一区一館」という暗黙の方針があり、一つの区に温水プールを作ったら、他の区も全部温水プールを作っていたというのです。ムダと思っても、誰からも批判されないようにすることが、役人の生き残る道なのです。
また、組合事務所が市役所にあり、賃料は無料でした。その後、2分の1の支払いになり、橋下知事のとき、普通の賃料を取るようにしたという。
橋下知事の言葉を借りると、大阪市役所OBが仕切る地域振興会、地域ネットワーク推進委員会、赤十字奉仕団、地域コミュニティ協会などの組織があり、市役所から補助金を受け、随意契約で独占的に仕事を受けて何十億円という資金を受領していたという。
その資金と組織を使って大阪市役所OBと職員組合とが一体化して、従属する市長を選挙で担ぎ出していたのです。結果して、当時、大阪市職員の給与水準は政令指定都市の中で二番目に高く、福利厚生費は日本一でした。
また、橋下知事が青少年会館を視察したとき、施設を管理する民間団体職員が、それまで管理していた府の外郭団体の職員がつなぎとして入っていることに「私たちより高い給料をもらっているが端的に言ってじゃま」と発言したという。つまり、大阪府では施設を作り、外郭団体を作って管理させ、OBは外郭団体に天下っていたのです。(2024年から天下りは禁止)
(橋下知事の質問)公務員は民間の採算性の感覚を身につけることができるのか?・・・(著者の回答)採算性の切り口で言えば、民間のほうが優れていることは当然ですが、行政はそもそも利益を上げることを目的としていません(p41)
大阪維新の会の戦略
このような大阪府・大阪市の状況について、大阪維新の会は、どう対応したのでしょうか。面白いのは、2012年に大阪維新の会が主導して公布した「職員基本条例」です。
その条例案には、「「民」が求める政策を実現することを阻む硬直化した公務員制度を再構築する・・公僕である「公」が主役となって権力の中枢に座り、「民」がその決定に従属しており、これは是正されなければならない」と書いてあったという。
「公」が主役となって地域振興会に金を出して「公」に従属する市長を担ぎ、「公」が権力の中枢に座っているというのが大阪維新の会の認識だったのです。
さらに、大阪維新の会が大阪府議会に議員提案したのが、君が代の起立斉唱を義務づける条例案と、大阪府議会の議員の定数21削減案です。
注目すべきは議員数の削減でしょう。大阪維新の会は、定数1の小選挙区はほぼすべてで勝利していました。議員数の削減で小選挙区が増え、さらに大阪維新の会が躍進する起爆剤になったのです。今回も、日本維新の会は連立政権入の条件として「衆院議員定数の1割削減」を条件としていますが、同じ効果を狙っている可能性があります。
大阪では維新の会の市長が増えることで、職員削減や公共サービスの民営化・廃止が相次いで行われ、結果として大阪府の労組の弱体化を招いたという。
橋下徹大阪市長は、大阪市から地域振興会に支出されていた補助金4億3600万円を一時的に凍結し、すべて領収書提出が必要な補助金制度へと変えました。そして、地域活動協議会の補助金での政治活動が禁止されたのです。
公務員労働組合の適正化・・職員が民意を語ることは許さない。自宅で語ることは自由だが、市役所内で公務員として政治的民意を語ることは許さない・・市役所の組合を徹底的に市民感覚に合うように是正・改善していく(橋下徹)(p201)
「大阪維新の会」反対派の論理
著者や元大阪市幹部が、「大阪維新の会」の悪い点を指摘している理由が面白いと思いました。例えば、「奇をてらった「思いつき」」。私も仕事でアイデアを出すと、よく言われることです。
「異なる意見を否定する強権的体質である」これも、実は言っている人のほうが、異なる意見を否定するための方便だったりします。
「大阪市をなくさないと解消できないような二重行政はありません」は、二重行政はあるのです。別の方法もあると言いたいのでしょうが、具体例を示していませんので、大阪市をなくさないための方便に見えます。
「変えるべきものは「制度」ではなく「政策」です」については、政策として制度を変えるのです。つまり、すべての反対の理由に合理性と説得力がないのです。
「大阪都構想」住民投票では、反原発、反安倍政治、反特定秘密保護法、反集団的自衛権行使の活動家も大阪に入って活動していたようです。背景に何があるのか、もう少し調査が必要なようです。小西さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・(改革案に対して)部長からは「どういう哲学でやるのか見えない」「改革は理解するが、府民の命や生活を削ることのないよう議論したい」「切る理由として「他の都道府県はやっていない」というのは禁句だ。オンリーワンの魅力がなくなる」「切るにも理念が必要。ない袖は振れないというだけでは府民を説得できない」(p43)
・公開討論は橋下府政初期からの特長でした・・抵抗する必要のある部長は困ったと思います。抵抗しすぎるとプロジェクトチーム案に着地できなくなるので、どこまで言ったらいいのか、と(p149)
・元(大阪)市幹部A・・組合との折り合いは平松さんの時も悪かった。平松さんはどちらかといえば右寄りで、国旗に向かって敬礼する方ですから(笑)。組合のほうとしては選挙時から応援していたわけですから、「足並みを揃えてくれ」という感じでした(p157)
・原発再稼働反対のデモを行った人たち・・・安倍政権発足後、強行された特定秘密保護法や集団的自衛権行使容認の閣議決定に反対する・・・大阪市廃止を問う住民投票で賛成多数となることが安倍政権による改憲の動きを勢いづかせてしまうという政治的な文脈によって、反対運動に立ち上がる(p219)
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小西 禎一 , 塩田 潤, 福田 耕 (著)、花伝社
【私の評価】★★★★☆(85点)
目次
第一部 橋下知事・松井知事の下で垣間見た維新政治
第一章 財政再建
第二章 職員給与の削減
第三章 庁内意思決定システムについて
第四章 地方分権から庁舎移転へ
第五章 「職員基本条例」を巡る橋下知事・維新との攻防
第六章 「都構想」
第七章 知事選挙出馬
第八章 二度目の住民投票
第二部 維新政治と対抗運動
第一章 大阪府政における維新政治と対抗勢力
第二章 大阪市政における維新政治と対抗勢力
第三章 大阪維新の会と対抗運動の攻防史
著者経歴
小西禎一(こにし ただかず)・・・1954年生まれ、元大阪府副知事。1980年、大阪府入庁。2008年2月、橋下徹知事(当時)より改革プロジェクトチームの長として抜擢、「大阪都構想」の制度設計も行った。2009年~総務部長。2012年~2015年、松井一郎知事の下で副知事。辞職に際して、松井知事からは「財政再建の立役者」と評された。2019年4月、大阪府知事選挙に無所属(自民党と公明党府本部、連合大阪の推薦)で立候補。
塩田潤(しおた じゅん)・・・神戸大学大学院国際協力研究科部局研究員、龍谷大学法学部非常勤講師、法政大学キャリアデザイン学部兼任講師。専門は政治学、政党論および社会運動論。博士。
福田耕(ふくだ こう)・・・大阪市内勤務。2015 年の「大阪都構想」の賛否を問う住民投票では市民有志でつくる「SADL」(民主主義と生活を守る有志)を、2020 年の同住民投票では「残そう、大阪」を立ち上げ、大阪市存続の運動に関わった。
維新の会関連書籍
「維新政治の内幕:「改革」と抵抗の現場から」小西 禎一
「大阪都構想&万博の表とウラ全部話そう」橋下 徹
「ルポ 大阪・関西万博の深層 迷走する維新政治」朝日新聞取材班
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