【書評】「ルポ 大阪・関西万博の深層 迷走する維新政治」朝日新聞取材班
2025/10/03公開 更新

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【私の評価】★★★☆☆(70点)
要約と感想レビュー
朝日新聞が報道した万博問題
大阪・関西万博の入場者が2207万人で、黒字ライン1800万人超え!との報道を見て、大阪・関西万博の失敗を予想していた人の思考を検証しようと手にした一冊です。
大阪・関西万博の批判キャンペーンがピークだったのは、2023年7月に海外パビリオンの遅れが表面化し、建設現場でもメタンが爆発しさらに会場建設費が2倍の2350億円となったことが公表された頃でしょうか。
この本は2025年2月時点で大阪・関西万博のあらゆる問題を集めた一冊になっています。大阪・関西万博が「国民から大きな批判を招いた」と記載されていますが、正確には「朝日新聞が報道して話題になった」でしょう。
2023年7月1日、朝日新聞は「海外パビリオン、建設申請「ゼロ」開幕間に合わぬ恐れ、政府が対策へ 2025年の大阪・関西万博」と報じています。
2023年9月24日、朝日新聞は「万博建設費450億円増案 当初の1.8倍2300億円見積もり 2度目上ぶれか」と報じているのです。
2023年7月・・各国が独自に立てるパビリオンの建設遅れが表面化し、国民から大きな批判を招いた。さらにその後、公費が3分の2を占める会場建設費の2回目の上ぶれが決まり、当初想定の2倍に近い最大2350億円に膨らんだ。建設の現場では爆発火災が起きた(p7)
外国パビリオンは間に合った
大阪・関西万博で最初に取り上げられた問題は、パビリオンの建設遅れです。
2022年3月に閉幕したドバイ万博と2025年の大阪・関西万博は、同じチームが準備を担っていることが多く、前回のドバイ万博が1年半延期されたため、チームの大阪・関西万博の準備着手が遅れることになったのです。
受注する建設会社も、外国政府の仕事を受けた経験がない、人手不足が深刻、建設基準法に合わなければ再設計の恐れ、建設が間に合わないと違約金を請求される恐れなど、リスクが大きく、多くの建設会社は受注をためらったという。
関西のある中堅ゼネコン幹部のコメントとして「ほんとに万博やるの?」「開幕を1年延期してもいいと思う」とまで、この本では紹介しています。
しかし、不思議なのは、この本が書かれた2025年2月時点では4月からの開幕には、一部パビリオンを除いて間に合うことがわかっているはずなのに、この批判的な内容で出版したということです。
「ほんとに万博やるの?」「開幕を1年延期してもいいと思う」・・関西のある中堅ゼネコン幹部は、そう語った(p133)
大阪・関西万博のチケットは売れるのか?
現実問題としての大阪・関西万博の課題は、人が集まるのかということでしょう。2025年2月時点では、チケット販売数が黒字ライン1800万人に対し、半分以下の800万枚でしたから、課題だったのは事実です。
この本では、多くの人からの批判コメントを集めています。
大阪経済大学の泰正樹・准教授は「万博が大阪の話になってしまい、国全体に広がっていない印象がある」と指摘したと紹介しています。
また、関西大学教授 岡田朋之は、「元凶は、万博誘致を進めた政治家が「そもそも大阪や関西、そして日本は世界的な課題の解決にどんな役割を果たすつもりなのか」という基本的理念を語っていないことにあります」と紹介しています。
さらには、ノンフィクション・ライター松本創の発言として、「万博会場を夢洲にしたのも、挫折した湾岸開発の延長線上にあります。こうした事情から、今回の万博において「誰のため、何のため」という理念や意義が見出しにくく、関心が高まらないのは必然と言えます」と紹介しているのです。
結局は、関心が高まりチケットは売れたわけで、何がなんでも大阪・関西万博を「失敗」に思わせたいという意向があるように感じるのは私だけでしょうか。
低い機運、宣伝も難航・・イベント業者からも「万博を日本中で盛り上げる仕組みが無い」と嘆く声が漏れている(p232)
大阪・関西万博は失敗しなかった
ここまで大阪・関西万博の失敗の理由を集めた情熱は、どこから来ているのでしょうか。
東京五輪後の経済の起爆剤として、大阪の夢洲へ万博誘致したのは、大阪維新の会です。次のような記載が気になりました。
安倍、菅両氏にとって維新は利用価値の高い存在でもありました。安倍氏の悲願だった憲法改正を実現させるための貴重な「改憲勢力」・・橋本氏が万博構想を掲げてわずか3年。閣議了解まで7年かかった2005年愛知万博と比べても駆け足で進んだのが分かります(池尻和生)(p268)
朝日新聞取材班は、大阪・関西万博を失敗と思い込ませることができませんでした。その過程をしっかり検証して、今後に生かしていただきたいと思います。朝日新聞取材班さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・万博のシンボル・大屋根リング。1周2キロ(直径675メートル)で高さは12~20メートル・・建設費は344億円に上り、野党の国会議員(立憲民主党の泉 健太)が「世界一高い日傘」と批判(p3)
・市民参加には高い壁・・万博期間中に会場でブース展示を行う場合、1日あたり最低でも11万円、15分のステージ発表を含む場合は同22万円が必要になる・・多くのNGOにとっては決して安くない金額だ(p247)
・万博協会の職員構成、遠い多様化・・万博教会の職員は日本人で占められ、男女比もおおむね8体2で男性が圧倒的多数を占める・・有識者委員会の9委員や、四つあるWGの委員にも外国人はいないという(p261)
▼引用は、この本からです
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朝日新聞取材班 (著)、朝日新聞出版
【私の評価】★★★☆☆(70点)
目次
第1章 維新混迷
第2章 膨らみ続けた経費
第3章 海外パビリオン騒動
第4章 夢洲が招いた危機
第5章 万博への直言
著者経歴
朝日新聞取材班(あさひしんぶんしゅざいはん)・・・監修:ネットワーク報道本部の池尻和生・柳谷政人、経済部の伊澤友之、大阪社会部の坂本泰紀の各次長が担当。記事:府庁担当キャップの吉川喬、大阪市役所担当キャップの菅原晋、大阪経済部キャップの西村宏治、記者として箱谷真司、諏訪和仁、山根久美子、野平悠一、岡純太郎、西晃奈、原田達矢、松岡大将。
偏向報道関連書籍
「ルポ 大阪・関西万博の深層 迷走する維新政治」朝日新聞取材班
「「官僚とマスコミ」は嘘ばかり」髙橋 洋一
「永田町・霞が関とマスコミに巣食うクズなんてゴミ箱へ捨てろ!」ケント・ギルバート
「朝日リスク 暴走する報道権力が民主主義を壊す」櫻井 よしこ、花田 紀凱
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