【書評】「松下幸之助 叱られ問答」木野 親之
2025/10/02公開 更新

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【私の評価】★★★★★(94点)
要約と感想レビュー
35歳で赤字企業を再建する
松下幸之助の本は50冊読んできましたが、この本は未読ということで読んでみました。
木野 親之(きの ちかゆき)さんは、松下電器(現パナソニック)に入社後、東方電機(現松下電送システム)の取締役として、ファクシミリを普及させてきました。東方電機の経営再建においては、松下幸之助から多くの助言・指導をもらったことがわかります。
著者は35歳のとき、赤字で給与も支払えない東方電機の再建のため、取締役として派遣されます。条件は、提供するのは資金ゼロ、社員の首を切らないこと、松下の経営理念だけで再建せよというのです。
東方電機に行ってみると、金もなければ、社員もやる気がない。絶望した著者は、再建できない理由をB4判のコピー用紙3枚に箇条書きにして松下幸之助に説明したのです。
すると松下幸之助は笑顔で、「これ一つ一つを解決すれば,全部財産に変わるんやで。欠陥は宝やで。欠陥のない会社なんて一つもあらへんで。人生や社会というものは欠陥ばかりや。だから,人生ちゅうのは面白いんや。やりがいがあるんだ」と言ったという。
松下幸之助に説得された著者は再建計画を作ります。計画で一番困難な問題を後回しにしていたら,松下幸之助に呼ばれて次のように叱られたという。
「木野君,問題解決には一番大きな,一番むずかしい問題から取り組まんとあかん。これができれば,あとは自然と解決するもんや」・・「社員が見てるで」というのです(p49)
国際規格を作ったらどうだろう
松下幸之助は、決して命令しませんでした。命令はしないが、質問したり相談だったり、提案しながら部下を誘導していたのです。
例えば、ファクシミリの規格の差でメーカーが違うとつながらないことを知ると、著者に対し、お客さまが困られる、重要問題だと指摘するのです。そのうえで、著者に対し、「君な,国際規格をつくったらどや。そうしたらどこの国のものでもつながるよ」と提案したという。これで今のG3,G4といったFAXの国際規格につながったのです。
また、松下幸之助の別邸は広大なため、著者は自社で作ったインターホンを設置していました。すると、松下幸之助は「便利に使わせてもらっているよ。君、あのままで放っておく気か・・これをもっと一般に普及させたらどうやねん」と提案し、ドアホンが生まれたというのです。
最後に恐ろしい話を一つ。会社の再建が進み、経営も安定してきたとき、著者は松下幸之助に呼ばれたという。「君,どうや」と訊かれるので、褒められるのかと思いきや、「君,ちょっと疲れとんのと違うか」と松下幸之助は言うのです。
そして、「君,社長を辞めたらどうや。ここで一度,社長を辞めたら,また新しい道が開けるで。いま限界と違うか」というのです。
つまり、会社再建はできたが、さらに会社を発展させていくためには今の君では不十分ではないか。さらに発展させるには社長を変えるか、社長である著者自身が変わる必要があるのではないかというわけです。
君らが一生懸命やってくれたから,東方山という山の頂上を極めることができた。しかし,限界はある。君らの力ではもうこれ以上,高い山には登れんということや。もっと高い山を目指そうとするならば,人が入れ代わらんといかん。入れ代われないのであれば,君らが自ら変わらんといかん(p66)
松下幸之助の事業成功の条件
松下幸之助は事業成功の条件を、著者に語っています。事業が成功するときとは、経営者の志や願望と社会からの要請が一致したとき,事業は初めて成功するというものです。
したがって、経営理念や志が確立されいることが絶対条件なのです。そのうえで、社員の個性を活かす環境が必要条件。最後に、付帯条件としての戦略・戦術があるのです。経営理念や志が確立されていれば、5割はうまくいく。後は、人に光を当てるだけで、会社の経営は根本的に好転するというのが松下幸之助の経営哲学なのです。
そもそも経営とは、人の幸せのために確立された志によって行われるものである。ところが、一般的に会社が傾くと、経営者は人員削減やリストラを考えるが、人を切るということを考えるだけでも、本来の経営の定義から外れているということなのです。
経営とは、経営理念を明確にし、それに共鳴する人とともに考え、行動していくものだという確信が松下幸之助にはあると感じました。
君、人づくりは植木の手入れと一緒だよ・・まず第一に、太陽に当てる。くすぶっている人間のよいところを見つけ、それを高揚し、みなから認めてもらうようにする。第二に植え替える。つまり、適材適所への配置転換、転任をさせる。第三に、肥料を与える。経営理念という薬を注射する(p102)
PHP運動とは国民精神復興運動
1945年の終戦後、松下幸之助がPHP運動をはじめたと知りました。当時は、松下電器グループはGHQの財閥指定を受けており,松下幸之助にとっては仕事ができない理不尽な最も辛い時期でした。
それでも松下幸之助は、敗戦で物心両面ですさんだ日本社会を立て直したいという思いから、「物心両面の豊かさによって平和と幸福をもたらそう」というPHP運動をはじめるのです。PHP運動とは国民精神復興運動なのです。
当時、PHP活動に情熱を燃やす松下幸之助が、戦後で産業が何ひとつない、何も立ち上がっていない時代に,「ありとあらゆる職業が成り立つ国は本当に素晴らしい国なんだ」と,未来を夢を見るような話しをしていたのが印象的であったと著者は伝えています。
長期的な夢のような希望を持ちつつ、明日の打ち手を考え、実行していく松下幸之助に、背筋を伸ばして読みました。松下幸之助には、もう会えないことが残念です。木野さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・資本は「人」なり。カネは潤滑油。だから、潤滑油のために仕事をしてはならぬ(p170)
・事業は無理したらあかん。また、人に借りをつくってはあかん。人様には貸しをつくりなさい。ギブ・アンド・テイクというが、僕はこれまでギブ、ギブ、ギブでやってきたよ(p170)
・木野君、世の中には嫌なことや苦しいことがたくさんあるが、それから逃げたら負けやねん。経営者はそれを解決する義務があるのやと考えたら、楽になるで(p106)
・経営でも、実体が見えないと怖いで・・それを見えるようにするのは経営だ・・それを自分でわかるまで考えることや。それが経営者の第一歩だ・・現場に出ることや。現場に戦略ありや(p121)
・君、競争が激しいといっても値引きしたらあかんで・・君、関西弁に「勉強させていただきます」という言葉があるだろう。それや(p139)
・君、会社は放っておくと化け物になる・・・会社という化け物は一番大切なお客や従業員を二の次にして、会社サイドの発想でのし歩く化け物となるものや・・会社の規則だからと、何でも「会社」という二文字に押し被せて問題を解決しようとする風潮が横行するようになる(p129)
▼引用は、この本からです
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木野 親之 (著)、致知出版社
【私の評価】★★★★★(94点)
目次
第一章 経営の究極は人間学にある
第二章 日常会話で経営者教育
第三章 この一言でヒット商品が生まれた
著者経歴
木野 親之(きの ちかゆき)・・・1926年大阪生まれ。大阪大学在学中に松下幸之助氏の知遇を得て1951年に松下電器産業(現パナソニック)株式会社に入社。1962年には松下幸之助の名代として東方電機の代表取締役社長に就任、再建にあたる。以来20年間社長職にあって、同社を世界一のファクシミリ専門メーカーに育てあげる。 現在、パナソニック(株)(旧:松下電器産業)終身客員、(社)産業関係研究所会長、中国復旦大学顧問教授、 中国南京市政府顧問、中国上海市青浦区政 府顧問を務める。日本政府委員(電気通信審議会委員・防衛 施設中央審議会委員・工業所有権審議会 委員)を歴任。
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