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抵抗勢力は何をするのか「V字回復の経営」三枝匡

2024/05/20公開 更新
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「V字回復の経営」三枝匡


【私の評価】★★★★★(93点)


要約と感想レビュー


コマツの業務改革の内実

ブルドーザーなどの建設機械で有名な「コマツ」の売上高は現在2兆円ですが、2000年当時は売上高1兆円。公共事業が低迷する中で、リストラしながらなんとか黒字を維持している状況でした。コマツの主な事業部はブルドーザーの建設機械と、プレス機械と板金機械を販売する産業機械、そしてエレクトロニクス事業部の3つでした。


この本は、著者がコンサルタントとしてコマツで実際に行った業務改革の内実を、小説形式で表現したものなのです。小説の中では赤字事業を2年で黒字化しなければ閉鎖するという条件で、若い事業本部長が改革に取り組んでいきます。当時のコマツでも産業機械事業は実質赤字で、本業である建設機械の足を引っ張っていました。


コマツの業務実態を調査してみると、商品別の損益が半年後にわかり、その損益も細かい費用はざっくりとした商品グループ別でしかわからないといったドンブリ勘定であったという。またリストラによって人員が減ったにもかかわらず開発テーマが増えて、どの商品を重点に開発し、販売するのか会社の方針がない状況だったのです。


商品別の損益が半年待たなければ分析できない・・ドンブリ勘定から進化していないということ(p55)

責任体制の明確化

つまり、誰もが事業部として赤字であることを知りながら、どの商品がどれだけ赤字であるかわからず、自分の責任であると思っている人が事業部長一人だったのです。また、開発・生産・営業という職能別組織となっており、事業別、商品別の戦略を立て、損益に責任を持つ人が明確になっていませんでした。


そのような緩い組織風土の中で、正論を主張したり、問題提起するような人ほど出世できない状況だったのです。また、事業部が現場の実態を把握せず、場当たり的な方針を出すため、現場では本店の方針はあるけれども、やってもやらなくても問題ないといった具合だったのです。


改革にあたっては商品別のBU(ビジネスユニット)に分けて、BUが戦略を決定し、収益に責任を持つ体制に変更しています。収益に責任を持つ人が、戦略を決定・実施できる、そしてその結果に責任を持つという体制が必要だったのです。JALで稲盛さんが路線別の収益を明確化して責任者を配置したのと、同じような内容でした。
 

調子の悪い会社は「上層部で大局的に語られている戦略」と「現場の実態」がつながっていない(p78)

抵抗勢力の存在は想定内

この本を読んでわかるのは、既存組織の中に存在する抵抗勢力への対応の難しさです。まず、プロジェクトチームを作って、社内の現状を把握しようとすれば、「何かわけのわからないことをしつこく聞いてくるので、うるさい」などと陰口を言う人が出てきます。
 

また、改革案を作っても、「そんなことをやっても無意味だ」「どうせ失敗する」「やめておけ」と、大ぴらに言う人が出てくるのです。つまり、改革をしようとすれば、さぼり、悪口、妬み、足の引っ張り合い、ブラックレター、無言電話など、不愉快な抵抗があるのは想定内なのです。


そうしたときに、改革推進役である社長などが改革リーダーを支援しなければ、改革リーダーは説明不足、詰めの甘さ、急ぎすぎなどを理由に確信抵抗型の勢力によって抹殺されることもあるという。コマツの場合は、スポンサーである社長が改革リーダーを守ったのです。


改革リーダー予備軍・・この類型の人が早すぎる時期に経験不足のままリーダーになると、しましば自分だけが突出して「ひとりよがり」「やりすぎ」・・時に自滅、放逐の目に遭う(p85)

改革は恐ろしい

日本の会社で業務を変えていくということは、恐ろしく壁が高いのだと思いました。一つのツッコミどころがあれば、すぐに改革リーダーは足を引っ張られ、追放されてしまうのです。梯子を外されること、後ろから撃たれるのも想定の範囲内です。


また、改革が大きければ大きいほど、業績は一時的に悪化します。改革の成果はすぐに出ないので、既存業務の停止とのタイムラグで、業績が落ち込むのは当然なのです。最終的には大きな改革は、経営層の覚悟が試されるのだと思いました。


著者も若い頃には、態度が傲慢で協力してもらえなかったり、抵抗勢力の反抗によって前向きな雰囲気が崩れたり、改革の手順を間違って苦しい時期を過ごしたときもあったという。そうした失敗を反省しながら、大きな成功の実績を作ってきた著者がうらやましく感じられました。三枝さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言


・顧客の不満は何か。なぜわれわれはそれを満たせないのか?(p103)


・常に成長分野に参入してきただろうか・・勝ちを収めるまで執拗かつ集中的な勝負をかけてきただろうか(p138)


・BU(ビジネスユニット)社長が・・こう言いました。「この部屋にいる144名が変われば、BU2事業は変わる・・誰のせいにもできない。ここから先、そういう単純な図式です」(p203)


▼引用は、この本からです
「V字回復の経営」三枝匡
三枝匡、日本経済新聞出版


【私の評価】★★★★★(93点)


目次


プロローグ 不振事業をいかに蘇らせるか
第1章 見せかけの再建
第2章 組織の中で何が起きているか
第3章 改革の糸口となるコンセプトを探す
第4章 組織全体を貫くストーリーをどう組み立てるか
第5章 熱き心で皆を巻き込む
第6章 愚直かつ執拗に実行する
エピローグ 事業変革の成功要因


著者経歴


三枝匡(さえぐさ ただし)・・・1967年一橋大学経営学部卒業後、三井石油化学を経てボストン・コンサルティング・グループ勤務。1975年スタンフォード大学でMBA取得後、30代から経営の実践に転じ、赤字会社再建やベンチャー投資など三社の代表取締役を歴任。1986年、株式会社三枝匡事務所を設立。上場会社ないし同等規模の企業を対象に不振の事業部・子会社の再建支援を行うターンアラウンドスペシャリストとして活動する他、数社の社外取締役や監査役なども務めていた。現在、株式会社ミスミグループ本社代表取締役・CEO。一橋大学大学院客員教授


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