【書評】「小心者のままでいい:「臆病」「過敏」を強みに変える25の方法」湯澤 剛
2025/09/25公開 更新

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【私の評価】★★★★★(90点)
要約と感想レビュー
年商20億円と借金40億円
10月1日に宮城県で湯澤剛さんの講演会に参加するので、未読だった本書を読んでみました。この本では小心者で臆病な著者が、嫌いだった自分の性格が、実はリスクを前もって察知し、トラブルを防ぐ強みになることを教えてくれます。
キリンビール社員として順風満帆だった著者が36歳のときに、父が急逝。著者が父から引き継ぐことになったのは、年商20億円の飲食店33店と借金40億円だったのです。借金40億円の返済は、元本が毎月2100万円、利子が1000万円です。加えて、未払金が約1億円もあり、飲食店は自転車操業だったのです。
あるお店に行ってみると、調理場には板前がおらず、料理を頼むと2階から降りてきて料理を作るのです。2階に上がってみると、板前たちが麻雀をしていたという。著者は板前たちを怒ることができませんでした。怒れば辞めてしまい、お店を開店できなくなり、借金を返せないという恐怖から何も言えなかったのです
板前たちが営業中にも関わらず麻雀をしていました・・私は彼らを怒ることができません。怒れば辞めてしまうからです(p42)
最悪の事態に腹をくくる
何も分からない中で33店舗を運営しながら、月3000万円を金融機関に返済し、社員の給与を出せるよう資金繰りに奔走して1年たった頃、著者は地下鉄のホームに立っていました。電車がホームに入ってきた瞬間に、身体が勝手に動き出し、線路に飛び込みそうになったという。
当時は著者の子どもが生まれたばかりで、赤ちゃんの夜泣きにイライラし、家には未払金の催促の電話がかかってきて、妻が何もわからないのに謝っているという地獄のような毎日でした。
電車に飛び込みそうになった自分、未払いの催促の電話におびえる妻。そんな状況に、「もうウジウジ言っている場合ではない。一歩を踏み出そう」と、フッ切れるような気持ちになったというのです。
著者がやった一歩は、最悪の状況を紙に書き、対応計画を書くことです。例えば、自分にとって「最悪の状況」である破産したら、どうなるのか「破産計画」を作ったのです。作ってみると、「なんだ最悪の事態でもこんなもんか」と拍子抜けして、気持ちが楽になったという。
そして、頑張る期限を決めました。妻と相談して、五年間1827日は、とにかく何でもいいからがんばり抜くと決めたのです。
地下鉄のホームに立っていました。そのときです。電車がホームに入ってきた瞬間に身体が勝手に動き出し、スウッと線路に飛び込みそうになったのです(p47)
一点突破で出口が見える
著者がやったことは、一点突破全面展開です。1店舗でいいから良い店をつくり、他の店も同じ形態にして全体の底上げを図る作戦です。
何とか500万円の改修費を捻出し、メニュー一新、店長も雇って家族向けの居酒屋としてリニューアルオープンしました。ところが、目新しさから順調だった売上がだんだん下がっていくのです。よく考えれば、これまでの顧客は中高年男性でしたが、家族向けの居酒屋に転換したことで、どっちつかずの店になっていたのです。
そこで、著者はターゲットはこれまでどおり中高年男性向けとし、再リニューアルすることで、売上が安定することになるのです。良い結果が出始めると、不思議なことにメンバーの半分くらいが目の色を変えてがんばってくれるようになったという。
もちろん、残りの半分くらいの人はやる気を出してくれず、辞めていくのですが、光が見え始めたのです。トラブルや事件は起きるのですが、著者の持ち前の小心者の気配りで乗り越えていくのです。
例えば、著者は幹部社員全員と,交換ノートでコミュニケーションしていたという。ノートのほうが幹部が問題などを報告しやすいし、自分も口頭でいきなり悪い報告されると狼狽えてしまうので、冷静に考える時間を作りたかったのです。
社員の離反もありましたし,会社をほぼ立て直した後でさえ,幹部社員の退職がありました(p91)
会社を止めようと思った事件
しかし、悪いことが続きます。お店で食中毒が出る、火事は起こる、板前が病気で亡くなる。それも、原因は借金返済のためコスト削減ばかり気にしていたので、人員がギリギリで具合の悪い社員が休めないのです。
ある社員はノロウイルスにかかっていて具合が悪かったのに、出社して食中毒を起こしました。板前も調子が悪いのに、仕事をして亡くなってしまったのです。火災もコスト削減で、換気扇の油の掃除を怠っていたため、発火したというわけです。
さすがの著者も、借金という恐怖から利益至上主義に陥った自分が原因でトラブルが起きることに、もう経営なんてやってられない、こんな恐ろしいことはやれないと考えてしまったのです。
幹部に会社の清算について相談してみると、「僕はこの会社に人生を賭けているんです。この会社で何とか自分の人生を立て直したいと思っているんです」「社長,もう一回やりましょうよ。こんなことを起こさない会社をつくりますから」と反対されたという。
著者にとっては40億円の借金を返すだけの、嫌で仕方のない会社だったのですが、社員たちにとっては,会社が彼らの人生の舞台だったのです。
同時期に中小企業家同友会で先輩から,「あなたいったい何のために経営しているの?」聞かれて、著者は答えられなかったという。著者は、借金を返すための利益至上主義から、「人材が一番大事」と方向転換することになるのです。
私のことが強く見えるのは、たまたま結果が「吉」と出たからにすぎません。良くも悪くも、すべては私の弱さが招いたことなのです(p19)
最後はなんとかなる
著者は小さいころから臆病で、何でもすぐくよくよして、他人の顔色ばかり窺って生きてきました。そんな著者が、逆境の最中にある人にアドバイスをするとすれば、「すべては過ぎ去っていきます」ということです。
「あの頃は本当に大変だったな」と懐かしく思い出す日が必ずやってくるということです。著者は父の形見である金無垢のロレックスに手をやりながら、父の「なんとかなる」という口グセを自分も言うようにしているという。
苦しいときは、ノートに自分の悩んでいること、怒り,苦しいこと,不安なこと,他人の悪口、何でも書いたという。ノートに書くことで、小心者の自分の心が落ち着き、客観的にみることで,冷静に状況が分析ができ,頭の中が整理されたという。続けているうちに、自分の感情や思考の癖さえわかってきたというのです。
自分の性格を直そうとするより、受け入れて、良い方向に使う方法を探っていけばいいのです。湯澤さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・問題の渦中にいるときはなかなか気づかないのですが,物事を判断するときには感情に流されてはいけないのです(p114)
・何かの問題で衝撃を受けたとき,大体10分程度何かに集中し,まずは心を落ち着けます(p175)
・お客様からのクレームや,お客様への謝罪,従業員への指導,そして,銀行とのやりとりなど,私は悶々と心配しているくらいなら直接会って話をすることを心がけていました(p188)
・私が素直というよりは小心者だからなのですが,・・自分の店を回り,皆の話に耳を傾けていろいろなことを教わりました。気難しい板前たちとの関係を築けたのは,わからないので教えてほしい,助けてほしいという私の姿勢でした(p149)
▼引用は、この本からです
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湯澤 剛 (著)、小学館
【私の評価】★★★★★(90点)
目次
序章 金無垢のロレックス
第1章 突然降りかかった借金40億円
第2章 巨額の借金を返せた理由
第3章 「小心者」の特性を受け入れる
第4章 「臆病」「過敏」を強みに変える処方箋
終章 ものごとはただ過ぎていく
著者経歴
湯澤剛(ゆざわ つよし)・・・株式会社ユサワフードシステム代表取締役。1962年神奈川県鎌倉市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、キリンビールに入社、国内ビール営業を経て、ニューヨーク駐在、医薬事業本部海外事業担当などに従事。1999年、創業者であった父の急逝を受けて、株式会社 湯佐和を引き継ぐ。40億円という莫大な負債を抱え、倒産寸前の会社を再生、2018年に株式会社ユサワフードシステムを設立した。現在は神奈川県下で海鮮居酒屋を経営するかたわら、「あきらめなければ道は拓ける」をテーマに、全国各地で講演活動を行っている.
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