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【書評】農協の本当の闇「農協のフィクサー」千本木 啓文

2025/04/28公開 更新
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「農協のフィクサー」千本木 啓文


【私の評価】★★★★★(90点)


要約と感想レビュー


JAグループ京都の外国産コメ混入事件

「農協のフィクサー」とは、中川 泰宏(なかがわ やすひろ)、JAグループ京都会長(JA京都中央会会長理事)、京都府信用農業協同組合連合会(JAバンク京都信連)経営管理委員会会長です。


2008年、JAグループ京都の米卸「京山」は、農薬汚染で食用を禁じられていた事故米をもち米として流通させていたことが発覚。その結果、「京山」の売上高は約半分の84億円に減っていたという。


2017年には『週刊ダイヤモンド』が、JAグループ京都の米卸「京山」の販売した「滋賀こしひかり」の10粒中6粒が中国産米と判別されたと報道。この記事に対し、JAグループ京都は中川 泰宏の長男が所属する弁護士事務所を使って、ダイヤモンド社に6億9000万円の損害賠償を起こすのです。


裁判の判決では、同位体研究所によるコメの産地判別の精度が92.8%であり、外国産米が混入していたことを認め、JAグループ京都敗訴となっています。


この訴訟の経緯を見ると、JA京都を支配する農協のフィクサー中川泰宏は、誤りを認め反省する人間ではなく、自分に逆らう人間に対してスラップ訴訟を含めてあらゆる圧力をかけてくる人間だとわかります。


訴訟をちらすかせてメディアを威嚇するJA京都中央会という組織の裏に闇がある(p19)

中川泰宏ファミリー企業「伊藤土木」

この本では、中川泰宏ファミリー企業「伊藤土木」へのJAグループ京都からの利益供与の事例を紹介しています。「伊藤土木」の代表取締役は中川泰宏の長女、監査役は中川泰宏の妻です。


京都市中央卸売市場の地上げの事例では、市場の一画3815平方メートルの土地がJA京都市から「伊藤土木」へ移っています。「伊藤土木」は、京都市中央卸売市場の一画を賃貸契約を結んでいた卸売業者に嫌がらせをして地上げをはじめるのです。


不自然なのは、JAバンク京都信連が、「伊藤土木」に市場の不動産の取得費用として2億円を融資していることでしょう。「伊藤土木」はそれまで三期連続で営業赤字となっているのにです。


その融資以外にも、「伊藤土木」は京都府亀岡市に賃貸マンションを所有し、JAグループ京都や京都府農業信用基金協会が入居していますが、その賃貸マンションに対してJAバンク京都信連は、3億3000万円の抵当権を設定して、「伊藤土木」に資金提供しているのです。


さらに「伊藤土木」は、経営が悪化した京山から土地と倉庫を買い取り、JAグループ京都の京都食料に貸して賃料を得ています。経営が悪化するJAグループの中で、中川泰宏ファミリー企業は確実な利益を確保しているというわけです。


中川ファミリー企業・・伊藤土木が、農協やその関連組織に賃貸している物件は、取材でわかっただけでも5つもあった・・借り手は中川が経営管理委員を務めるJA全農である・・しかも中川が会長を務めるJAバンク京都信連が・・3つの物件それぞれに3億3000万円の抵当権を設定している(p120)

JAグループ農協の恐怖支配

どうして中川泰宏がファミリー企業に利益供与できるかといえば、自分に逆らう者を徹底的に叩いてきたからです。中川泰宏を批判できるのは野中広務・元自民党幹事長ぐらいしかいなかったと著者は説明しています。


中川泰宏の農協の恐怖支配の実例は、JA京都に吸収合併されたJA京都丹後の労働組合潰しが紹介されています。中川泰宏は、遠隔地配転を示唆して労働組合からの脱退を組織的に促していたという。労働組合は不当労働行為の訴訟には勝ちましたが、実質的には労働組合員は減少し、労働組合は中川泰宏に潰されてしまったのです。


同じように中川泰宏の怖さは、2014年からの政府による農協改革に反対し、改革を主導した自民党農林部会長の小泉進次郎や農水省事務次官の奥原正明に圧力をかけていたことでもわかります。農水省事務次官である奥原の解任まで画策していたと、著者は解説しているのです。


農協改革が骨抜きになった結果、JAグループは正組合員の要件緩和による水増しや、農業ではなく金融事業の金儲けに走り、政治力を使った米価の高値誘導などによる小規模農家の温存など、問題を先送りにしてきたことで、農業はゆでガエル的な自然死に向かっているというです。


農家にアンケートで実態を聞いてみると、JAグループ京都の盟主的存在であるJA京都(会長=中川)への農家からの評価が極めて低い・・農協への支持率はたった18.4%だった(p18)

院政および世襲に向けた準備

JAグループで中川泰宏の支配は、絶対的なものであるという。JAグループでは幹部社員がJAグループ京都を訪れることを「京都詣で」と表現しており、支配の実態を示唆しているのです。農水省も、JAグループ京都が世界七カ所で京野菜を振る舞う晩餐会に一回当たり約2500万円の補助金を出しています。


そして、74歳となった中川泰宏は、農協組合長が就任するのが一般的なJAバンク京都信連、JA全農京都、JA共済連京都の副会長に子飼いの牧克昌を据えました。また、中川泰宏の次男の中川泰國をJA京都の常勤監事から常務理事にしたのです。


JAグループ京都では、選挙や仕事で中川泰宏に貢献した職員が登用される異常な人事が行われてきたと言われています。今後の院政および世襲に向けた準備も完了しているというわけです。


農協関係については、もうすこし事実関係について調査を進めたいと思います。千本木さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言


・彼(中川)は衆議院議員時代、自宅不動産を未登記のままにし、固定資産税を納めていなかったことが発覚(p58)


・中川がトップを務める組織は、農業関連だけで15以上あり・・1995年から会長を務めるJAバンク京都信連が集める貯金残高は1兆2567億円。6年間以上、副会長を務めるJA共済連の保有契約高は227兆円を超える(p62)


・中川泰宏が会長を務めるJA京都では、農業者ではない地域住民を農協の経営に関与する正組合員にしてしまう「農家数の水増し」を行っている(p138)


▼引用は、この本からです
「農協のフィクサー」千本木 啓文
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千本木 啓文(著)、講談社


【私の評価】★★★★★(90点)


目次


プロローグ 農協の独裁者、中川泰宏とは何者なのか
第一章 「コメ産地偽装疑惑」報道、七億円裁判の顛末
第二章 いじめられっ子の変貌
第三章 農協の甘い汁
第四章 小泉チルドレンVS政界の狙撃手
第五章 京都のフィクサーとして支配体制を確立
エピローグ 子飼いたちに利用される昭和的「独裁者」


著者経歴


千本木 啓文(せんぼんぎ ひろふみ)・・・1980 年、栃木県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、JA グループの機関紙「日本農業新聞」の記者(国会、農水省担当)を経て、2014 年より「週刊ダイヤモンド」記者。前職での経験を活かし農業特集「儲かる農業」シリーズを 7 年連続で刊行


農協関連書籍


「農協のフィクサー」千本木 啓文
「農協の闇(くらやみ)」窪田 新之助
「バターが買えない不都合な真実」山下 一仁
「農家はもっと減っていい 農業の「常識」はウソだらけ」久松 達央


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