【書評】財務省の闇「財務省亡国論」高橋 洋一
2025/05/30公開 更新

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【私の評価】★★★★★(95点)
要約と感想レビュー
財務省の建前と本音とは
元財務相官僚が教える財務省の建前と本音です。財務省が外国と違う政策を提言しているときは、財務省の権益を広げるという裏の目的があると、著者は断言しています。
例えば、諸外国では経済が冷え込んでいるときは減税,過熱したら増税を行います。ところが日本では、デフレ脱却のためにアベノミクスを行っている最中に消費増税を行いました。
財務省は「財政再建のための増税」と主張していますが、そもそも金融政策によって経済全体を上向きにして税増収を増やすというのが諸外国の考え方なのです。
3%から5%への消費税増税時には,翌年の税収は減少しています。消費増税すると経済成長が抑えられて,法人税や所得税の税収が減り、それを補うために歳出増が求められ,財政再建は遠のくのです。
つまり、財務官僚は本音では財政再建など考えておらず、歳出権という権益を広げるために増税を説いているだけで、権益を減らす「経済成長による税増収」などもってのほかだというのです。
増税すると財務省の予算権限が増えて,各省に対して恩が売れて,はては各省所管の法人への役人の天下り先の確保につながるからだ(p25)
国家財政リスクはCDSレートでわかる
財務省は増税のために、日本国の負債1442兆円を強調してきました。
著者の主張は、会社と同じように国家も貸借対照表の資産と負債を見るべきだということです。さらに、単独決算ではなく日本銀行を加えた連結決算が望ましい。
日本単独では、負債1442兆円に対し資産総額は740兆円。差し引き702兆円が日本の借金となります。政府と日本銀行の貸借対照表を合体させた「パブリックセクターバランスシート」では、資産と負債はほぼ同じで、「日本は財政難」と考える関係者はいないのです。
その証拠に日本国債のクレジット・デフォルト・スワップ(Credit default swap, CDS)は、デフォルトに備える保険ですが、日本国債のCDSレート(保険料)は低いままで、だれも「日本は財政破綻する」とは思っていないことがわかります。
財務省が日本の負債1442兆円だけを強調し、日本の資産を言わないのは、日本の資産740兆円のうち542兆円が金融資産で、その多くが天下り先である独立行政法人や特殊法人に渡っているため、その資金が引き上げさせられるのを恐れているのだ、と著者は解説するのです。
国が財政難だというのなら,まずはムダな資産を処分すればいい。ただそれは,財務官僚にとっては自らの天下り先を処分することになる。だから財務省は,資産総額を明らかにすることで処分可能資産の存在が知れてしまうことを,極力避けたかったのだ(p41)
日本銀行とアメリカFRBの違い
最近、日本銀行は政策金利を0.5%程度に引き上げて、金利をさらに引き上げようとしています。これは、どう見ればよいのでしょうか。
まず、日銀が国債購入を縮小したり、金利を引き上げすることで、量的緩和から引き締めへ移行しようとしていることは、アメリカとは異なる対応だとしています。
著者は2024年と2025年の日本とアメリカのインフレ率とGDP成長率を示したうえで、インフレ率は似たような数字だが,日本は利上げし,FRB(連邦準備制度理事会)は利下げしようと真逆のことをいっていると解説します。
日銀とFRBの発表内容
日銀 | インフレ率 | GDP成長率 |
---|---|---|
2024年 | 2.8% | 0.8% |
2025年 | 1.9% | 1.0% |
FRB | インフレ率 | GDP成長率 | 失業率 |
---|---|---|---|
2024年 | 2.4% | 2.1% | 4.0% |
2025年 | 2.2% | 2.0% | 4.1% |
つまり、アメリカではここで引き締めると失業率が上がってしまうため,FRBは「利下げすることで,失業率を上げない」ように誘導しているというのです。
一方,日本は「失業率に触れず,自分たち(財務省や日銀)の天下り先である金融機関の利益だけ考えて,失業率が下がっても労働者(国民)の生活がどうなろうと眼中にないから平気で利上げできるのである」と解説するのです。
さらに、財務省は金利が高い方が公共投資も出にくくなり,予算が抑えられ、さらに利払いが増えて財政危機を煽って増税も可能になるのでありがたいと、著者は解説するのです。
私の見通しでは,2025年の失業率はたぶん2.5~2.6%ぐらいまで上がると思う。つまり,失業率が上がってしまうのがバレるから,わざと日本はそれに触れないのだ。世界の中央銀行は書くのに,わざとそれを書かない(p187)
国土交通省の社会的割引率がやばい
元財務相官僚の著者は、財務省は自分の権益だけ考えて、国家のことなど一つも考えていない理由として、もう一つの事例を紹介しています。
それは、国土交通省が公共事業を行うこときの判断基準となる、「社会的割引率」です。
実は、著者が国土交通省に出向しているときに作った制度で、当時の国債の金利4%に合わせて社会的割引率を4%として,コストベネフィット分析をやることにしたのです。なぜなら公共投資は投資効率が高いものだけを厳選して行えば,経済成長につなげることができるからです。
したがって、国債の金利が0%ならば「社会的割引率」は0%のはずなのですが、なぜか今も4%のまままのです。著者は財務省に社会的割引率を下げ、公共事業を増やすうに提言し、財務省も「やります」と回答していたのに、放っておかれて、今も4%のままだというのです。財務省の「やります詐欺」です。
デフレで国民が苦しんでいるときに、アベノミクスで金融緩和し、後は公共事業を増やすべきなのに、公共事業を減らし、消費増税したのが財務省ということなのです。
著者は「増税なら責任は政治家にとらせることができるし、税収が減ったとしても,財務省にしてみれば足りないぶんの国債発行額が増えるだけ」と財務省の頭の中を解説しています。
著者は財務省幹部から「タカハシは三度殺しても殺したりない」と言われたそうですが、この本に書いていることが本当であるとしたら、財務省こそそうなるかもしれません。
高橋さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・財務省出身の社外取締役報酬ランキング・・・多額の報酬は,天下り官僚の「毒まんじゅう」だと私は思っている。じつは私自身も官僚のときに,「ここに行ったらどう?」と,ずいぶん天下りをすすめられた。でも,受けなかった。これを食っ(受け)たら,財務省の意に沿わないことはいえなくなる(p28)
・GDPを増やしたいなら財政出動と金融緩和をセットで行うのが正解である(p199)
・私は官僚時代,金利が上がったときに財政の状況がどうなかという,「感度分析」を計算していた。その当時から,資産の運用利回りが増えるから,金利が上がっても財政は悪くならない(p213)
・日本政府の外為特会が持っている外貨債・・200兆弱ドルを持っていて,その含み益は,少なく見積もっても40兆円ぐらいある・・含み益が出るとわかったら,財務省が困る・・なぜ日本だけが外貨準備が飛びぬけているかといえば,これまた天下りのためである・・保管手数料として財務省から金融機関へ何億円もの支払いが発生する。保管料を払いつつ,そこに天下るから,財務省はドル債をもっていたいのだ(p258)
▼引用は、この本からです
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高橋 洋一 (著)、あさ出版
【私の評価】★★★★★(95点)
目次
1章 大義名分にゴマかされるな!財務省のエゴとは?
2章 財務省の口車に乗らないために知っておきたい経済の基礎知識
3章 日本をわざと経済成長させない財務省
4章 親玉「財務省」子分「日銀」─その本当の関係とは?
5章 「金利」からも見えてくる! 財務省の大好きな増税は「意味不明」で「愚かな策」
6章 何が何でも増税したい! 「財務省のウソ」
7章 「円安で儲かる」は世界の常識。 でも財務省は動かない
8章 「国債がまた増えた!」と騒ぐウラにある財務省の思惑とは
著者経歴
髙橋 洋一(たかはし よういち)・・1955年東京都生まれ。都立小石川高校(現・都立小石川中等教育学校)を経て、東京大学理学部数学科・経済学部経済学科卒業。博士(政策研究)。
1980年に大蔵省(現・財務省)入省。大蔵省理財局資金企画室長、プリンストン大学客員研究員、内閣府参事官(経済財政諮問会議特命室)、総務大臣補佐官、内閣参事官(総理補佐官補)等を歴任。
小泉内閣・第一次安倍内閣ではブレーンとして提言。「霞が関埋蔵金」の公表や「ふるさと納税」「ねんきん定期便」など数々の政策提案・実現をし2008年に退官。第二次安倍内閣ではアベノミクスによる大規模な金融緩和や機動的な財政出動の理論的支柱となり、コロナウイルス感染症対策においては、前代未聞の100兆円規模の公的資金捻出を提言。
その後、菅政権では内閣官房参与もつとめ、現在嘉悦大学経営経済学部教授、株式会社政策工房代表取締役会長。
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