増税は本当に必要なのか?「新・国債の真実」高橋洋一
2023/01/21公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★★(92点)
要約と感想レビュー
財務省はスキあらば増税しよう
防衛費の増額のために、岸田政権は増税を計画しているようですが、著者の高橋さんは増税に反対です。元財務官僚の高橋さんのロジックはどこにあるんだろうと、手にした一冊です。まず、高橋さんは財務省で国債売買の担当者となったくらいの専門家です。高橋さんは長期金利、短期金利を分析して国債の長期、短期のポートフォリオを最適化して、年1000億円以上の利払いを減らしたという。いかに、それまでの担当者が適当にやっていたのかということなのでしょう。
元財務官僚の高橋さんが強調するのは、財務省はスキあらば増税しようと考えているということです。増税すれば、財源が増え、各省庁に配分し恩をきせられ、天下り先が増えるからです。例えば、東日本大震災後の2014年消費増税は、民主党の無知と被災者を支えようという国民の道徳や良心につけこんだ財務省お得意の手法だというのです。災害で経済が打撃を受けているときに増税すれば消費が冷え込むだけであり、このタイミングでの増税は世界的に聞いたことがないとしています。
こうしたことを公言するだけでなく、高橋さんは安倍政権のときに天下りの法規制を担当しており、役人にとっては百回殺しても足りないくらい恨みを買っているようです。
・私は第一次安倍政権の内閣参事官だったころに、天下りの法規制の企画立案担当者だった・・・天下り先には手加減したりといった経験のある役人は多いはずだ(p112)
財務省は海外には日本財政バランスシートは健全と説明
国家財政について世界の標準は、企業が連結決算を基準としているように日銀と政府を一体とした統合政府としてバランスシート(負債と資産)を基準とします。財務省は日本政府の借金(国債)が1000億円とGDPの2倍と警鐘を鳴らし、子孫に負担を残さないように増税を主張しますが、実際には金融資産が500兆円あります。また、日本銀行の国債引き受け分が相殺できるとすれば、日本政府の借金はさらに減ることになるのです。
財務省の主張は、例えば売上3兆円の電力会社の借金が6兆円だったら、2倍なので電気料金を値上げしましょうと主張しているのと同じことなのです。電力会社には発電所などの資産もあるし、収支のバランスが取れていれば、電気料金はそのままでよいはずなのにです。
実際、海外の金融関係者から見れば、「日本政府は、売ろうと思えば売れる資産がたくさんあるのに、まったく売ろうとしないのだから、財政破綻するはずがない」と考えられているという。財務省は海外に対しては日本財政のバランスシートは健全と説明し、日本国内では借金がGDPの2倍で危機的な状況と説明しています。高橋さんはこの矛盾を許すことができないし、それを報道しないマスコミに落胆しているように感じました。
なお、高橋さんの解説では、日本政府が金融資産を売ろうとしないのは、その多くが天下り先への出資金や貸付金なので、自分の将来の行先をつぶしたくないので、売ろうとしないだけだと、役人の本音を暴露しています。
・日本政府の金融資産は、じつは天下り先への出資金、貸付金が非常に多い(p111)
外国がインフレで日本だけがデフレ
日本はこれまでデフレでしたので、資源価格の上昇によってやっとインフレ基調になってきました。急激なインフレは国家破綻の原因ともなりますが、数%のインフレを日本も外国でも目標にしてきたのです。金利1%が5%になるということは、デフレからインフレとなり、不景気から好景気へとなり、給料が上がり、消費と投資が増える時代になるということなのです。
財務省は財政健全性のために着実に消費増税を実施してきましたが、これは間違っていないと思います。ただ、諸外国が金融拡大させている中で日本だけが緊縮であることがよくないように感じました。つまり諸外国がインフレで、日本だけがデフレだとバランスがとれないので、調整が入らざるをえないということです。
高橋さんは、日本の将来の安全を守る防衛国債と、将来の成長に投資する教育国債の発行を主張しています。財務省は国債発行は将来への負担の先延ばしとしていますが、高橋さんに言わせればこれらは将来への投資なのです。財政については会社の財務にも役立つので、もう少し勉強してきたいと思いました。高橋さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・教育国債がいい・・他の先進国に比べて、日本は高等教育における公的負担が圧倒的に低い(p151)
・国債発行を控え政府需要が減ることは、失業率アップにつながる・・国債を発行して雇用を生み出すほうが、よほど責任ある政策であり、道徳的だと思える(p132)
・元アメリカ財務長官のローレンス・サマーズ・・・日銀関係者などから「日銀の評価損は問題ではないか?」という質問・・サマーズ氏の答えはひとこと、「だから何?」・・・日銀資産の評価損は、政府負債の評価益だから問題ない(p107)
【私の評価】★★★★★(92点)
目次
1章 まず「これ」を知らなくては始まらない―そもそも「国債」って何だろう?
2章 世にはびこる国債のエセ知識―その思い込みが危ない
3章 国債から見えてくる日本経済「本当の姿」―「バカな経済論」に惑わされないために
4章 知っているようで知らない「国債」と「税」の話―結局、何をどうすれば経済は上向くのか
5章 「国債」がわかれば、「投資」もわかる―銀行に預けるくらいなら国債を買え
著者経歴
高橋洋一(たかはし よういち)・・・1955年東京都生まれ。数量政策学者。嘉悦大学ビジネス創造学部教授、株式会社政策工房代表取締役会長。東京大学理学部数学科・経済学部経済学科卒業。博士(政策研究)。1980年に大蔵省(現・財務省)入省。大蔵省理財局資金企画室長、プリンストン大学客員研究員、内閣府参事官(経済財政諮問会議特命室)、内閣参事官(首相官邸)などを歴任。小泉内閣・第1次安倍内閣ではブレーンとして活躍。2008年に退官。菅儀偉内閣では内閣官房参与を務める。
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