「ザイム真理教―それは信者8000万人の巨大カルト」森永 卓郎
2024/11/14公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★★(90点)
要約と感想レビュー
ザイム真理教とは
ザイム真理教の教義は、財務省が国民に訴え続けてきた「日本財政は借金漬けで、増税しないと破綻する」というものです。実際日本は、国債987兆円、借入金や未払金も加えると1661兆円の負債を抱えています。ところが、資産のほうを見ると1121兆円で差し引くと、540兆円となり、GDP比は102%。先進国ではごくふつうの水準なのです。
財政均衡主義の人は、日本の資産1121兆円は数値上あるが、実際には売れないのだと説明します。これはある意味事実であり、ある意味嘘なのです。日本の資産が売れないのは、天下り先である特殊法人や独立行政法人に天下り先に金融資産に置いていること。金融資産を引き上げれば、天下り先が減ってしまうのです。
また、政治家や官僚が低家賃で事務所や住宅を借りることができるという利権が、不必要な国有不動産や資産を抱えることの背景になっているという。
財政均衡主義・・われわれの暮らしになぞらえると、至極当然のことだ・・しかし、国全体の財政、特に自国通貨を持つ国の財政にとって、財政均衡主義は誤っている(p4)
財政均衡主義とは
財務省の都合の悪いことに、新型コロナ対策で日本は、2020年度に80兆円もの赤字を出したのに、国債市場や日本経済に大きな影響はありませんでした。著者が言いたいのは、財政のプロであるはずの財務省がなぜ、海外には日本財政は問題ないと言いながら、国内では「財政が危ないので、増税が必要」と説明しているのかということです。
財政均衡主義とは、会社でいえば無借金主義であり、確かに倒産のリスクはほぼなくなりますが、将来へ向けた大きな投資ができず、会社としてはゆっくり成長を目指すことになるのです。著者は、なぜ財務省が景気が悪くても、財政均衡主義を堅持するのか、回答を書いていません。
ここからは私の推察になりますが、財務省としては景気が悪くなっても、自分たち官僚は安泰だし、少し景気が悪いほうが、民間が調子に乗ってバブル時のように堕落するより、地道に頑張るのではないかと考えているのではないでしょうか。官僚は決まった仕事をやっていれば、民間の大企業レベルの待遇を維持することができるから、民間企業の華やかな暮らしは目障りなのです。
国家公務員の・・平均年収は681万円と推計される。国家公務員の年収は、民間よりも54%も高いのだ・・人事院の民間企業給与の調査が「50人規模以上」の事業所に限られているからだ(p140)
反対すると出世コースから外される
財務省としても国を滅ぼすために、財政均衡主義を取っているのではないと思います。もし財務省が悪いとすれば、財政均衡主義をマスコミを利用して情報拡散し、反対論を圧殺していることでしょう。実際、この本も出版してくれる出版社はほとんどなかったという。また、財務官僚が省内で財政均衡主義に反対の意見を口にすると、出世コースから外されるというのです。
マスコミが財政均衡主義の報道ばかりである理由は、そもそも新聞記者は勉強不足で財務省のレクの成否を判断できないので、財務省の提供資料をそのまま報道しているからでしょう。
また、新聞社の本社はすべて東京都心の一等地の払い下げを受けたものであり、消費税率10%へ増税の際も、食料品と新聞に軽率減税が適用されることになったのも、マスコミを支配下に置くための手法であると著者は説明するのです。
景気が悪化・・・政府が公共事業を増やしたり、減税を行って、需要を拡大すべきだというのがマクロ経済学の教えだ(p4)
財務省の本音
後半は著者の推測も含めて、富裕層の税負担が低いことや、税負担率が50%を超えていることなど、財務省批判が続きます。著者の推測も多かったのですが、それを割り引いても森永さんの死を直前に自分の財務官僚との経験などぶっちゃけぶりが面白く読めました。
財務省が間違っているとすれば、他国が不景気で金融緩和を行っているときに、金融緩和を行わず、日本だけがデフレが継続したことではないでしょうか。不景気から回復傾向になると、すぐ消費税増税で景気の腰を折るなど、本当に民間の景気がよくなっていくことが財務省は許せないように見えるのです。
財務省の本音はわかりませんので、もう少し勉強していきたいと思います。森永さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・なぜ、こんな「富裕層優遇」の税制が生き残っているのか・・高級官僚の場合は、「わたり」で退官後に民間企業の役員をいつくか経験し、そのたびに巨額の退職金を得ていく(p162)
・オーストラリア準備銀行の純資産がマイナスになったことが2022年9月21日に明らかになった。大量に買い入れた国債などの債権の評価損が膨らんだ・・債務超過に陥ったのだ・・市場参加者は、中央銀行の債務超過には関心を持たなかった(p82)
・太平洋戦争の戦費はGDPの9倍程度だったと言われている・・いまの物価で言うと5000兆円程度・・年平均の物価上昇率は43%だ・・いま日銀が保有している国債は500兆円程度だから、まだまだ行けそうなことは見当がつく(p69)
【私の評価】★★★★★(90点)
目次
第1章 ザイム真理教の誕生
第2章 宗教とカルトの違い
第3章 事実と異なる神話を作る
第4章 アベノミクスはなぜ失敗したのか
第5章 信者の人権と生活を破壊する
第6章 教祖と幹部の豪華な生活
第7章 強力サポーターと親衛隊
第8章 岸田政権は財務省の傀儡となった
著者紹介
森永卓郎(もりなが たくろう)・・・経済アナリスト。1957年、東京都生まれ。経済アナリスト、獨協大学経済学部教授。1980年に東京大学経済学部を卒業後、日本専売公社(現在のJT)に入社、「管理調整本部主計課」に配属となる。当時の専売公社はすべての予算を大蔵省(現・財務省)に握られており、「絶対服従」のオキテを強いられることになる。経済企画庁総合計画局、三井情報開発(株)総合研究所、(株)UFJ総合研究所を経て、獨協大学経済学部教授。専門は労働経済学と計量経済学。堅苦しい経済学をわかりやすい語り口で説くことに定評がある。
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