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「安倍晋三vs財務省」田村秀男,石橋文登

2024/08/27公開 更新
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「安倍晋三vs財務省」田村秀男,石橋文登


【私の評価】★★★★☆(82点)


要約と感想レビュー

金融緩和でデフレ脱却を目指す安倍晋三

産経新聞の元政治部長と論説委員が、消費増税しようとする財務省と、金融緩和でデフレ脱却を目指す安倍晋三の戦いを解説した一冊です。


財務省の姿勢がよくわかるのは、2021年10月コロナ禍の中で財務省の矢野事務次官が「財務次官モノ申す「このままでは国家財政は破綻する」」を公表したことでしょう。安倍元総理は、「トヨタ自動車の財務担当者が記者会見で「我が社は債務超過です」と言ったら,どうなる?矢野は,それと同じことをやったんだよ」と怒っていたという。


正確な例えは、「トヨタの役員会で新車開発に投資を決定したら、役員でもない経理部長が「この新車開発投資で、我が社は倒産する」と週刊誌に投稿した」でしょう。財政規律のみ注目して増税したい財務省と、まず、金融緩和で景気をよくして、デフレを脱却し、2%程度のインフレ目標を達成することで、税収を増やしていくという安倍元総理の考え方は順番が逆なのです。


また、財務省が日本をコントロールしていると考えているとすれば、経理部長がトヨタをコントロールしているのと同じわけです。当時の岸田首相は、矢野事務次官を更迭しませんでした。私達は、その意味を考えるべきなのでしょう。


安倍さんも「回顧録」で,〈財務省は税収の増減を気にしているだけで,実体経済を考えていない〉と痛烈に批判しています(p55)

日銀は金融緩和反対

元々、1990年代のバブル崩壊は、大蔵省土田正顕銀行局長の「不動産融資総量規制」と地価税導入と日銀の金融引き締めによるものでした。担保となっていた不動産価値の下落と一緒に株式市場も暴落し、デフレがはじまったのです。


日本はゼロ金利政策や量的金融緩和を導入してデフレ脱却を目指しますが、2006年には量的金融緩和を日銀は解除しています。その結果、物価は下落したのです。


そもそも日銀は,金融緩和反対だという。日銀法では日銀の役割は、物価の安定と金融システムの安定なのですが、2008~2013年に日銀総裁であった白川氏は「金融政策で物価を押し上げることはできない」というのが持論だったというのです。そのためか、2008年のリーマンショックでは、欧米の中央銀行が大規模な量的金融緩和策に踏み切ったのに,日銀は量的金融緩和に動かなかったのです。


「金融政策で物価を押し上げることはできない」というのが白川さんの持論でした(p125)

法人減税は消費増税とセット

消費税増税が民主党野田内閣で検討されていたとき、財務省内では消費税5→8→10%の二段階消費税引き上げ案について、欧州でも3%もの税率引き上げは前例がないし,景気への衝撃が大きすぎるとの意見があったという。当時の勝栄次郎事務次官に伝えると,「いまは民主党政権だから千載一遇のチャンスだ。それを逃すわけにはいかない」と一喝されたという。


安倍総理は、2014年4月の消費税8%への増税を了解します。その理由は、当時,平和案税法制の制定に動いていたため、消費税で自民党内を分裂させることができなかったと、この本では解説しています。


また、安倍総理は消費税10%を2回延期させていますが、財務省事務次官の香川俊介氏が、銀行,財界,新聞・テレビなどは「先送り反対」を報道するように働きかけていたという。「先送り反対」の合唱の中で、安倍総理は消費増税を2回延期したのです。


法人税を,安倍政権では三回引き下げています・・これに財務省は怒っていました・・しかし実際は,税収は上がっています・・法人税率引き下げは消費増税とセットです(p225)

財務省は財政規律しか頭にない

岸田首相は、宏池会に属していました。そして宏池会は,官僚出身の政治家が多く,財務省とほぼ一体と考えられています。その影響のためか、岸田首相が日銀人事に金融緩和反対派の人を押し込んだりしたことに、安倍元首相は怒っていたという。


元財務官僚である高橋洋一さんの「新・国債の真実」などで読者の皆さんも既知の内容だと思いますが、産経新聞記者から見ても、財務省は財政規律しか頭の中にないように見えるのです。


私個人の考えとしては、財務省の消費増税と法人減税は、世界的な法人減税に合わせるために必要なことだったと思います。しかし、消費増税のタイミングが早すぎた。海外が2%インフレ目標にやっているときに 日本はデフレが継続し、海外との物価の差が大きくなりすぎてしまいました。


また、「金融政策で物価を押し上げることはできない」というのは正論ですが、世界が金融緩和しているときに、日本だけ金融緩和しなければ、一時的には円安になりますが、通貨の量の差、物価の差が開き、円高になるのは目に見えているのです。


もう少し経済について、勉強していきたいと思います。田村さん,石橋さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・財務官僚は・・傲岸不遜なイメージが強いと思います。しかしながら,政治家の前では異様なほど腰が低い(p67)


・財務省の部署名は特殊で,秘書課と名乗っていますが,人事を扱うセクションです。文書化は,他省庁の官房総務課にあたり,国会対応を手がけます(p121)


・財務省がバランスシートを説明したがらないのは,本当のことがバレたら省是にかかわるからでしょう。財政再建路線は根拠を失い,増税は困難になります(p150)


▼引用は、この本からです
「安倍晋三vs財務省」田村秀男,石橋文登
田村秀男,石橋文登、扶桑社


【私の評価】★★★★☆(82点)


目次

第1章 安倍さんを目覚めさせたのは、何か?
第2章 財務省の政界工作
第3章 財務省の"真の事務次官"
第4章 財務省と新聞社、政治家
第5章 財務省と日本銀行
第6章 財務省とアベノミクス
第7章 財務省と岸田首相



著者経歴

田村秀男(たむら ひでお)・・・産経新聞特別記者・編集委員兼論説委員。昭和21(1946)年、高知県生まれ。昭和45年、早稲田大学政治経済学部卒業後、日本経済新聞社に入社。ワシントン特派員、経済部次長・編集委員、米アジア財団(サンフランシスコ)上級フェロー、香港支局長、東京本社編集委員、日本経済研究センター欧米研究会座長(兼任)を経て、平成18(2006)年、産経新聞社に移籍


石橋文登(いしばし ふみと)・・・元産経新聞政治部長、千葉工業大学特別教授、ジャーナリスト。昭和41(1966)年、福岡県生まれ。平成2(1990)年、京都大学農学部卒業後、産経新聞社に入社。奈良支局、京都総局、大阪社会部を経て、平成14年、政治部に異動。拉致問題、郵政解散をはじめ小泉政権から麻生政権まで政局の最前線で取材。政治部次長を経て、編集局次長兼政治部長などを歴任。令和元(2019)年、同社を退社


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