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「中国経済衰退の真実」田村秀男

2024/09/24公開 更新
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「中国経済衰退の真実」田村秀男


【私の評価】★★★★☆(84点)


要約と感想レビュー

中国の不動産バブル崩壊

日経新聞OBである著者から、中国経済の現状について教えてもらいましょう。中国では住宅価格の指標であるマンション価格(全国平均)が2022年から下落傾向にあります。日本の不動産バブル崩壊に近い状態となっていると考えられているというのです。


そして、中国の地方自治体では、収入の半分近くを不動産に頼ってきたため、財政破綻に直面しているのです。実際、中国のノンバンク最大手である中植企業集団とその傘下の中融国際信託が2023年に支払いを中断して問題となりました。(その後、中植企業集団は破産。)この問題について、中国の新聞やテレビは一切報じないのです。


アメリカの2007年からのリーマンショックでは、ドルの量的緩和を行って、不動産バブル崩壊の悪影響を緩和しましたが、中国では外貨準備高が減少しており、中国元の量的緩和も難しいという。


なぜなら、中国では準ドル本位制をとり、中国人民銀行は保有するドル資産に応じて中国元を発行しているため、外貨準備高が減少する中で元の量的緩和が難しいのです。仮に、量的緩和を行えば、ドルの裏付けがないことから、インフレ、資産の海外への持ち出しが加速する可能性があるというのです。


中国住宅価格・・各年度末のマンション価格(全国平均)と外貨準備の推移・・2022年はいずれとも下落、中国経済停滞の長期化を告げる(p34)

米ドルに挑戦する中国元

中国では米国との貿易戦争後、米ドルを担保としてきた中国人民元を国際的通貨とするため、他国との人民元決済を増やしてきました。


ロシアとイランと石油の人民元取引で合意。2023年には、イラク、アルゼンチンが対中貿易で人民元決済を表明。ブラジルも人民元とブラジル通貨レアルの取引開始で合意。UAE産の液化天然ガスを人民元建てで購入。石油埋蔵量世界一のサウジアラビアも中国とドル以外の通貨での決済の検討をしているのです。


実際、中国の通貨別決済支払いのシェアは、2018年6月に人民元24%、ドル62%だったものが、2023年5月に逆転し、7月には人民元49%、ドル47%となったという。


また、中国は一帯一路政策により、発展途上国に人民元を高利で融資して、ドル建てで返済させています。その結果、、ベラルーシ、レバノン、ガーナ、スリランカ、ザンビア、アルゼンチン、エクアドル、スリナム、ウクライナの9か国が返済難に陥っているという。


著者の提案は、中国と距離を置き、アメリカと歩調を合わせて対応していくとなのでしょう。米ドルの基軸通貨に挑戦する中国を助けると言うことは、米ドルの崩壊を早め、中国の覇権と領土拡張の野望が加速することになるからです。2015年に発足した中国が3割出資するAIIBに日本が参加しなかったのは、正解だったというわけです。


軍事・外交面で中国と緊張関係にあるインドは、人民元決済を拒否している(p103)

ロシアと一体化する中国

ロシアのウクライナ侵攻では、中国はロシアを金融面で支援してきました。まず、中国はロシアの石油を国際相場よりもバレル当たり16~20ドルも高い値段で輸入しており、著者はその差額は年間182億ドルと計算しています。ロシアの戦費は200億ドル超と言われており、中国がその資金を提供しているのです。


ロシアに対する米欧日の金融制裁に対しては、中ロシア貿易はルーブルと人民元建てとして、ロシア中国人民銀行の人民元を使って、ルーブル相場を下支えしました。EUに対しても天然ガス輸出代金は、ルーブル建てを強制し、ルーブル需要を押し上げたのです。現在、ロシアの対外準備資産減少が止まり、ロシアの通貨ルーブルの為替レートが維持されているのは、中国人民元のおかげなのです。


中国はウラル原油の国際相場よりもバレル当たり16~20ドル余りも高い値段で輸入している・・年間では182億ドル・・ロシアのウクライナ戦費は200億ドル超と見られるが、その大半が中国の割り増し価格での輸入で賄える(p148)

デジタル人民元の未来

さらに中国は、デジタル人民元の導入を計画し、人民元取引をデジタルして把握し、資産隠しや海外への持ち出しを禁止しようとしています。中国の富裕層は、禁止される前に資産を海外に持ち出そうと頑張っているのです。海外から中国の投資した企業も、中国から撤退を進めており、海外からの投資の減少、資産逃避が中国元を弱くし、それを支えるために外貨準備が減るという状況だと著者は分析しています。


ここからは私見となりますが、中国市場は日本の生命線と主張する人がいますが、満州は日本の生命線と主張していた人のことを思い出しました。先の敗戦では、満州に固執したために、日本は敗戦したのです。もう少し、中国経済については調査を継続したいと思います。

 
中国経済が崩壊するのが早いのか、それとも中国が覇権国家となるのか、今が運命の分かれ道なのかもしれません。中国からすれば、アメリカとロシアが戦って、共倒れとなり、中国人民元が基軸通貨となるのが理想なのでしょう。田村さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・日銀は1990年初めから株価急落が止まらなくなっても、金利引き上げと金融の量的引き締めを続けた・・(リーマンショックでは)バーナンキ氏は前代未聞の大規模な量的緩和によって日本の二の舞を避けたわけである(p75)


・自国(日本)に関しては、ことあるごとに緊縮財政や消費税増税を求める一方で、「構造改革」を勧奨してきた日経が、こと中国に関しては財政出動の重要性を説く(p54)


・異次元緩和の結果、雇用が500万人増加し、新卒者の就職氷河期が昔話になった(p201)


・1997年度の橋本龍太郎政権の消費税増税と緊縮財政以降、政府債務が膨張し、国内総生産は長い間、萎縮し続けた。増税が財政規律を壊したのだ・・アベノミクスを立ち上げると、政府債務のGDP比率の上昇はぴたっと止まった。財政収支赤字のGDP比率は下がり、税収が増えた・・財務省は安倍氏に感謝してもよいくらいだ(p196)


▼引用は、この本からです
「中国経済衰退の真実」田村秀男
田村秀男、産経新聞出版


【私の評価】★★★★☆(84点)


目次

序 章 中国という時限爆弾
第1章 習近平バブルの崩壊
第2章 中国経済の逆回転が始まった
第3章 「人民元決済」を読み解く
第4章 「ドルVSモノ」消耗戦
第5章 米中金融戦争
第6章 なぜ日本は成長しないのか
終 章 日本は脱デフレの正念場



著者経歴

田村秀男(たむら ひでお)・・・産経新聞特別記者・編集委員兼論説委員。昭和21(1946)年、高知県生まれ。昭和45年、早稲田大学政治経済学部卒業後、日本経済新聞社に入社。ワシントン特派員、経済部次長・編集委員、米アジア財団(サンフランシスコ)上級フェロー、香港支局長、東京本社編集委員、日本経済研究センター欧米研究会座長(兼任)を経て、平成18(2006)年、産経新聞社に移籍。


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