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【書評】「ゲームチェンジ :トランプ2.0の世界と日本の戦い方」大前研一

2025/07/02公開 更新
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「ゲームチェンジ :トランプ2.0の世界と日本の戦い方」大前研一


【私の評価】★★★★☆(86点)


要約と感想レビュー


トランプの要求は受け流す

元マッキンゼーのコンサルタント大前研一さんは、トランプ大統領をどう見ているのでしょうか。


トランプ大統領はアメリカの貿易赤字を製造業の空洞化の原因と考え、中国、日本だけでなく、すべての国の製品に関税をかけて貿易赤字を削減しろ!と脅しています。大前さんは、貿易赤字を問題視するのはまったくの誤解としています。基軸通貨であるドルはいくら発行しても世界を流通し、アメリカに投資として戻って来るので、貿易赤字は問題とならないのです。


逆に、トランプ大統領が輸入品に関税をかけることで、ただでもインフレ傾向にあるアメリカの物価がさらに上がり、金利が高止まりさせざるをえなくなり、景気後退のリスクがあります。


さらに、中国との貿易戦争が激しくなれば、中国が保有する米国債を投げ売りしてしまう可能性もあり、トランプ大統領は基軸通貨であるドルの信用を落とすようなギャンブルをしているわけです。


大前さんは、トランプ大統領の特徴は、「悪いことはすべて人のせいにする」ことであり、こうした愚かな人物を大統領に選ぶとは、アメリカ人は変わってしまったと嘆くのです。日本としては、トランプ大統領に強く反発すれば、ますます理不尽な要求を強めるだけなので、正面からぶつからず、逆らわずにうまく受け流して時間を稼ぐしかないとしています。


約120年前、・・・関税は強化されて、世界はブロック経済化していった。そして、第一次世界大戦の賠償金を支払うことができないドイツで、アドルフ・ヒトラーが登場し、第二次世界大戦に突入していった過去の歴史を真摯に受け止めるべきである(p45)

日本の観光立国化

このような国際環境の中で、日本はどうすればよいのでしょうか。大前さんの提案は、日本の観光立国化です。


今、日本には毎年4000万人の外国人旅行者がやってきます。もし仮に、5000万人が一人100万円使えば、50兆円の売上です。1億人に増えて、一人50万円使えば50兆円になるのです。


外国人旅行者の消費を50兆円規模にするために、国土交通省観光庁を観光省に格上げします。総務省の地方創生予算は2000億円ですので、この予算を観光省の予算にすれば、よほど地域活性化に資するはずという理屈です。


高野山恵光院の宿坊は一人1泊4万円です。愛媛県の大洲城では、一人1泊110万円で城に泊まることができます。こうした日本の素晴らしい文化を、外国人旅行者に体験してもらうのです。

 
私の提案は、短期的には、コロナ禍を経て回復したインバウンド需要のさらなる増進を含む、「真の観光立国」を目指すことである。海外富裕層を呼び込めれば50兆円規模も夢ではない(p3)

日本の教育の問題点

根本的な日本の問題は、教育にあるというのが大前さんの考えです。


日本では家で子どもの教育をせず、親は「学校に行ったら先生の言うことをよく聞くのよ」と子どもに伝えます。「これは最悪の教育だ」と大前さんは断罪します。つまり、先生の言うことを聞いて、試験の問題の解き方を暗記していたら、先生程度の人間にしかならないというのです。


日本と正反対なのは、ユダヤ人の家庭教育です。ユダヤの家庭で教えるのは、「個性を大切にする」「得意分野で優越する」「全人格を向上させる」「想像力を養う」「生涯を通じて学ぶ」ことです。


大前さんはユダヤ人のように本人の個性と得意なことを伸ばすため、好きなことを学ばせればよいとしています。実際に、大前さんの次男はゲームばかりして12歳頃から学校に行かなくなり、独学でゲームをつくるようになったという。22歳のときには、業界で有名なベテランプログラマーになっていたのです。


また、日本の教育の構造的な問題は、高校2年生のときに、文系と理系のいずれかを生徒に選択させることです。65%以上の生徒が大学受験が楽だからという理由で文系を選びますが、結果的に日本でIT人材が極端に不足している決定的な原因になっているという。世界の多くの国では、人材は理系科目で育て、文系科目は一般教養で学ばせるのが普通なのです。


親ができることは、子どもの「Inquisitive mind(探求心・好奇心)」すなわち「質問する力」を養い育てることだ(p322)

最後は日本の政治家の問題

日本の政治家の人材不足については、小選挙区にあるとしています。小選挙区制度では、どうしても地元に利益を持ってくる人が当選するという構造になります。中選挙区時代は、地元のことよりも経済や外交を優先して考える議員がいたというのが大前さんの印象なのです。


ついでに言えば、衆議院の3分の1は小選挙区で落選したにもかかわらず、比例で復活した落選議員であり、議員の質の低下を大前さんは嘆いているのです。


ネタニヤフの暴発を予想しており、国際環境の見立ては参考になると思いました。大前さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言


・中国経済は現在、絶望的な状況にある。GDPの伸び率は5%を切った・・・その背景には「中国不動産バブルの崩壊」「対内直接投資の減少」「米中対立・貿易問題」「中国国内のスタートアップ企業への締め付け」がある(p105)


・反日・抗日教育によるヘイトクライムが多発する中国・・・愛国のために日本人を殺しても無罪になるという状況だ・・・日本の外務省はこのような反日キャンペーンを即刻やめさせるべきだ。しかし、外務省のいわゆるチャイナスクールの人々は、中国を批判すると、将来、中国大使になる際に中国政府から承認をもらえないことを恐れて、中国に対して反対の意思表示をしようとしない(p111)


・ロシアの軍事力は枯渇しつつある・・・110万人の総兵力のうち、69%に相当する約76万人が今回のウクライナ侵攻で死傷しているとされている・・・これ以上、戦争を続けるのは難しいので、名誉ある停戦案が出てくれば、プーチン氏も交渉に応じるだろう(p86)


・ネタニヤフ氏はやりたいことをやるだろう・・・中東平和の第一歩は、ネタニヤフ首相の失脚だ。国際世論が彼の失脚を後押しし、国連による信託統治を働きかける以外に平和は実現できないだろう(p89)


▼引用は、この本からです
「ゲームチェンジ :トランプ2.0の世界と日本の戦い方」大前研一
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大前研一(著)、プレジデント社


【私の評価】★★★★☆(86点)


目次


巻頭言 「トランプ2.0」の100日 ―日本と世界はどうする
第1部 「世界の潮流」―大激変する世界情勢
第2部 「観光立国論」―インバウンドで50兆円を目指せ
第3部 「新・教育論」―答えなき時代の教育のあり方


著者経歴


大前 研一(おおまえ けんいち)・・・早稲田大学卒業後、東京工業大学で修士号を、マサチューセッツ工科大学(MIT)で博士号を取得。日立製作所、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長。趣味はスキューバダイビング、ジェットスキー、オフロードバイク、スノーモービル、クラリネット。ジャネット夫人との間に二男。


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