日本の医療費をどうするか?「日本の論点2025-2026」大前研一
2024/12/25公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★☆(86点)
要約と感想レビュー
日本の医療費問題
大前研一さんが、雑誌「プレジデント」で連載している内容をまとめた一冊です。コンサルタントだけあって、本質を捉えて、具体的に提言しているところがすばらしい。問題は、誰がそれを実行するのか、ということなのでしょう。
まず、日本の医療費の問題です。2020年度の医療費は40.2兆円で、患者の自己負担額は14.5%、保険から給付が52.5%で、残りの33.3%は国や地方公共団体が補填しています。このまま医療費が増加すれば、補填にも限度があります。
大前さんの提案は、保険適用を「治療すれば治るもの」に絞ることです。例えば、腰が膝が痛いのであれば、命にかかわらないので自費診療にするのです。また、中国で普及している病院に行く前のオンライン診療も効率化に役立つでしょう。救急車については、他国と同じように有料化します。
薬についても、自己負担率を上げて、市販薬よりも高くなるように調整します。「投薬すれば完治する薬」以外は、保険適用を外すことも提案しています。
軽症者が病院に行く理由の一つに、「ドラッグストアで市販薬を買うよりも、医師に処方してもらったほうが安い」(p145)
日本の政治問題
政治については、はやり、日本には「地方自治」がないことを指摘してます。日本は地方が国に予算で縛られ、独自の戦略や計画を立て、予算を確保して動くことができない体制になっているのです。道州制は大前さんが東京都知事選挙に立候補したときから主張していることですが、ビジョンが大きすぎて具体化が難しいのかもしれません。
そもそも日本の選挙は人気投票であり、議員も口利きで金儲けに走っている実態を説明しています。ビジネスコンサルタントには手に負えない魑魅魍魎の世界だという。そのうえで、東京都の課題は、介護施設の入所待機者問題と墓不足であるとしています。しかし、そうした問題の解決を訴えて選挙に出ても、有名人でなければ当選しない日本の現状では何も変わらないというわけです。
最後に、今問題となっている政治とカネの問題については、政治のカネの流れを透明化することを提案しています。そのうえで、労働組合に人とカネを出してもらえる共産党や立憲民主党、創価学会から支援のある公明党も献金を受け取っていると同様であり、チェックの仕組みが必要としています。
1995年にオープンした東京都現代美術館に至っては、展示区画ごとに利権があり、都議とグルの画商が言い値で絵画を販売していた(p94)
日本の観光問題
日本への提案として面白そうなのは、観光立国として儲けることでしょう。日本の観光GDP比は2.0%ですが、スペインは7.3%、イタリアは6.2%、フランスは5.3%なので、観光には伸びしろがあるのです。
世界では1泊10万円のリゾートがあります。ところが行ってみると、何もないところが人気があるという。例えば、フィリピンの島にある「アマンプロ」は、朝食後、従業員が船で好きな場所に連れて行き、夕方に迎えに来るだけです。
日本でも地方には「何もない」と悲観する人がいますが、「何もない」ことが高い価値を持つこともあるのです。観光客にいかに高い価格で、満足してもらうのか、海外の事例も参考に試行錯誤を行う価値があるのでしょう。
中国で反日運動が起こるのは、共産党支配の正当性を強調するために実施している抗日教育の影響が強い・・インバウンドで訪日した中国人にプロパガンダが誤りであることを理解させるのが一番の解決策である(p282)
マイナンバー制度について
日本では、マイナンバーカードを健康保険証として使うことになりました。インドでは、生体認証付き国民ID制度「アドハー」が導入され、14億人の指紋と虹彩が管理されています。エストニアでは、おカネは全て、中央銀行で行われ、すべて電子化され、税金の計算と支払いも自動で行われているという。日本もいずれ、マイナンバーカードですべてができるようになるのでしょう。
本書はテーマが幅広すぎて疲れましたが、世の中の本質を理解するために価値ある本だと思いました。大前さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・旧統一教会が日本で布教するのは、日本からお金をむしり取り、日本人女性を韓国に連れていって信者と結婚させるためだ・・植民地支配された恨みを、日本からお金と女性を吸い上げることで晴らそうという趣旨だ(p57)
・EVの普及で見えてきた問題が、充電の困難さだ・・・そもそもCO2の削減にEVがどれだけ役立つのかが疑問なのだ・・イギリスやスウェーデン、中国はEV購入補助金を打ち切った(p347)
・歴代の首相で名宰相と呼ばれた人は、自分のやりたいことを一つに絞り込んでいた(p30)
・台湾の花蓮地震・・なぜ台湾は迅速な対応ができたのか。まず、行政や民間の役割が明確であることが大きい。たとえば人命救助は県、避難民のサポートは市の役割と事前に決まっている(p298)
【私の評価】★★★★☆(86点)
目次
【Part1:日本編】
巻頭言 やり方次第で自動車産業を上回る規模へ。観光産業こそが日本経済の起爆剤となる
Theme01 少数与党の石破首相は「名宰相」として歴史に名を残せるか?
Theme02 日経平均株価の最高値更新は「失われた30年」の終わりを意味するのか?
Theme03 日本衰退の象徴であるGDP世界第4位転落からの回復は可能か?
Theme04 繰り返される「政治とカネ」問題に終止符を打つために、何を行うべきか?
Theme05 9人の自民党総裁選立候補者が誰一人、政策に上げなかった日本の統治機構の問題とは?
Theme06 候補者乱立でフィーバーした都知事選の裏で深刻化する都政の真の問題点とは?
Theme07 人口増加以外の方法で、地方を活性化できる「逆転の発想」とは何か?
Theme08 「令和の米騒動」の裏に隠れた日本の農業の問題とは?
Theme09 福島第一原発の処理水放出で見落とされていた「科学的視点」とは?
Theme10 国民皆保険制度の破綻を防ぐために、現行の医療制度にどのようなメスを入れるべきか?
Theme11 日本の電機メーカーの雄、東芝を上場廃止に追い込んだ元凶とは?
Theme12 ヨドバシカメラの西武池袋出店から読み取れるのは百貨店ビジネスの凋落か?
Theme13 プログランミングは時代遅れ? 生成AIで求められる人材像はどのように変わったのか?
Theme14 日本人の致命的な欠点である「プレゼン力の低さ」を克服することは可能か?
【Part2:海外編】
巻頭言 空前の選挙イヤー2024を振り返る。台頭するポピュリストリーダーたち
Theme01 世界的な右傾化トレンドにストップをかける方法はないのか?
Theme02 新たな地政学リスクの中、日本の外交姿勢は対米追従のままでよいのか?
Theme03 「トランプ圧勝」の大統領選。"ピンチヒッター、ハリス"はなぜ失速したか?
Theme04 イスラエルとパレスチナの「不毛な戦い」に終止符を打つ方法は残されていないのか?
Theme05 3年目に突入したロシアのウクライナ侵攻は、プーチンの勝利で終るのか?
Theme06 反日教育が行われる中国で起こった「ヘイトクライム」を防ぐ方法はあるのか?
Theme07 「台湾有事」が喧伝される中で行われた総統選挙が示す、台湾人の本音とは?
Theme08 半導体から地震対策まで、台湾の繋栄の方程式から何を学ぶべきか?
Theme09 14年ぶりの労働党政権誕生によって、イギリスは「EU再加盟」に向かうのか?
Theme10 グローバルサウスの盟主の道を突き進むインドに日本はどう向き合うべきか?
Theme11 生成AI各社がしのぎを削る国際競争において、日本企業は勝者になれるのか?
Theme12 EVブームが一段落した今、次世代の自動車メーカーの勝者となるのは?
著者紹介
大前研一 (Kenichi Ohmae)・・・早稲田大学卒業後、東京工業大学で修士号を、マサチューセッツ工科大学(MIT)で博士号を取得。日立製作所、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長。「ボーダレス経済学と地域国家論」提唱者。2005年の「Thinker 50」でも、アジア人として唯一、トップに名を連ねている。趣味は、スキューバダイビング、ジェットスキー、オフロードバイク、スノーモービル、クラリネット。ジャネット夫人との間に二男。
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