「続 企業参謀」大前 研一
2018/10/11公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★☆(83点)
要約と感想レビュー
リソースの配分について
1986年という日本がピークにあり、低成長という言葉が出てきた頃のマッキンゼー大前さんの一冊です。当時の日本は高度成長から低成長に転換したことで、問題が表面化してきていたのです。つまり、成長していればとにかく投資して供給力さえ作っておけば、いずれは需要が伸びてバランスしたのです。しかし、低成長時代になれば、一つの投資判断を誤れば、過剰投資となり、企業の存続さえ危なくなるのです。
そのため部門別に固定費と変動費を厳密に分けて管理する必要があるとしています。例えば、外注であっても子会社など継続的に発注している会社は固定費として取り扱い、売上から材料費のみ差し引いた限界利益で管理すべきなのです。何が変動費で、何が固定費か厳密に決めることで、どの部門が儲かっていて、どの部門が儲かっていないか明らかになるのです。
ただ実際には、予算の配分がお役所のように前年実績や部署そのものの歴史的発展過程に引きずられる傾向があるという。さらに事業部制をとっているところは、各組織の責任と義務が狭いため、予算の枠から逸脱しにくいため、予算配分をめぐって社内の分捕り合戦となり、部門間が対立する傾向にあるというのです。
・成長期では正確にいくらの設備投資をするのか不明でも、とにかく投資をしていれば、結果として過剰となった場合でも市場成長を1~2年待っていれば誤りは是正されたろう・・低成長が基調となってくると、誤りも永続する。場合によっては、判断ミスがもとで、競争力の失墜、収益性の悪化という状態に短絡しかねない(p64)
日本の組織の課題について
大前さんがすごいな、と思うところは、時代を超えた日本の組織の問題を指摘しているとこでしょう。自部門の予算獲得ばかり考える事業部。前年度予算から変化できない予算配分制度。原価低減しか言わない役員。こうした会社全体としてのビジョン・戦略を考える組織、人材が不在の日本の会社の課題なのです。
実際の現場では、課題解決のために原価低減や販売拡大施策が行われる中で、そうした施策の延長線上に解決する可能性がないのに、あたかも「やっています」と他人事のように取り組む振りだけする管理職にも責任は大きいと指摘しています。
組織の面でも、日米で比較してみると、ブルーカラーの生産性ではほぼ同じであるのに対し、ホワイトカラーではアメリカのメーカーの間接部門が2割しかないのに、日本のメーカーでは間接部門が6割もあるというのです。文系社員が会社を牛耳っているのが、日本の会社なのです。
日本の組織の課題について
大前さんもコンサルティングの現場では、1億円程度の業務改善プロジェクトが大問題になって苦労したことを紹介しています。研究開発に100億円以上投資して成果を出していないのに、たった1億円の新規のコンサル案件を判断ができない点に頭にきたようです。
富士フィルムがカラーフィルムを作っていた時代の本ですから、事例は古いものの事業の本質を書いているところが素晴らしいと感じました。それだけ日本の企業や日本人は、何も変わっていないということなのでしょう。大前さん、良い本をありがとうございました。
この本で私が共感した名言
・なぜ事業を営むのか・・本質的問い直し(p107)
・ポートフォリオ管理というものは、ごく簡単にいってしまえば、「企業戦略を立案する場合には、外部環境と、自社の事情の双方を考えなくてはなりませんよ」ということにすぎない(p28)
・事業からの撤退や製品の廃止を、一定の制度で同じように稟議できる仕組みを持っている会社は少ない(p35)
・目標を「成功」から「最悪の事態を避ける」ことに置換した場合には、さまざまな選択が自ら出てくることが多い・・破局に向かっている会社の場合には、最悪事態を想定し、"そこに至らない方策"を考える(p26)
・第二次大戦中・・真の戦略参謀であるなら、拡大と撤退の潮時の判断を自分の最大の任務と考えていただろう・・だから、シンガポールが陥落し、インドネシアを部分的に掌握した時点で、ただちに和平交渉を進めなくてはいけなかったはずである・・たとえば、インドネシアの石油のようなものの使用権などはもらっても、領土そのものは独立国として返してしまうという、一連の妥協策を用意していなくてはならない(p57)
▼引用は下記の書籍からです。
【私の評価】★★★★☆(83点)
目次
第1章 戦略的に考えるということ
第2章 "低成長"とは何か
第3章 戦略的思考に基づいた企業戦略
第4章 戦略的計画の核心
著者経歴
大前 研一(おおまえ けんいち)・・・1943年生まれ。経営コンサルタント。マサチューセッツ工科大学博士。日立製作所、マッキンゼー日本支社長を経て、1992年に「平成維新の会」を設立。1994年マッキンゼーを退職し、「一新塾」「アタッカーズ・ビジネス・スクール」を設立。現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長、韓国梨花女子大学国際大学院名誉教授、高麗大学名誉客員教授、(株)大前・アンド・アソシエーツ創業者兼取締役、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、カリフォルニア大学ロサンゼルス校公共政策大学院教授、スタンフォード大学経営大学院客員教授等を務める。
戦略思考関係書籍
「ボスコン流 どんな時代でも食っていける「戦略思考」」牧野 知弘
「戦略的思考トレーニング 目標実現力が飛躍的にアップする37問」三坂 健
「続 企業参謀」大前 研一
「戦略がすべて」瀧本 哲史
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