「電力セキュリティ: エネルギー安全保障がゼロからわかる本」市村 健
2024/12/24公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★☆☆(78点)
要約と感想レビュー
脱炭素で日本は国際競争力を失う
エネルギー基本計画(第7次)の原案が公表されました。この原案をどう読み解くのか、エネルギーの基本を確認するために、この本を手にしました。
この本では、京都議定書で日本だけが費用負担することになった事例を紹介し、地球温暖化問題とはエネルギー問題であり、経済戦争であると定義しています。京都議定書では、アメリカは離脱。中国とインドも削減義務なし。ヨーロッパ諸国は東ヨーロッパを統合することで自然体で目標を達成。世界で一番省エネの進んでいた日本が、なぜか脱炭素のために金を払うはめになったのです。
気候変動枠組条約の会議では、世界の3%しかCO2を排出していない世界一の省エネ国家である日本に対し、環境NGOは化石賞を贈って日本批判を繰り返し、それをマスコミが大げさに報道するのがパターン化しています。
温室効果ガス削減目標(NDC)では、アメリカが排出量半減、2050年カーボンニュートラルを表明し、日本もカナダも同調。ただし、中国やインドは2060年、2070年などとお手並み拝見といった態度です。
著者は京都議定書と同じように、環境最優先で政策決定したことによって、他国が離脱しても柔軟に対応できず、エネルギーの安定供給ができなくなり、経済的不利益を被り国際競争力を失うのではないかと心配しているのです。
京都議定書交渉は日本の外交的敗戦でした・・最大の排出国であったアメリカはあっさり議定書を離脱してしまい、日本だけが国際市場で1兆円もかけてクレジットを買いあさる羽目になりました(p155)
脱炭素で電気料金は2倍へ
そもそも2050年ゼロエミッションは、現在の技術では電気料金が2倍となり、現実的ではないというのが著者の主張です。地球環境産業技術研究機構のシナリオでは、ゼロエミッションにより電力コスト(託送料金除く)は、2020年と比較して2倍以上に増加すると試算してます。
なぜ電力コストが上がるのかといえば、変動性の不安定な再エネを大量導入すると、蓄電池や化石燃料火力によるバックアップが必要で、そのコストが上乗せされるからです。さらに、遠くの再エネを送電線で送ろうとすれば託送料金も上がっていくわけで、このまま脱炭素政策を継続すれば、いずれ日本もドイツのように電気料金が2倍以上になっていくのでしょう。
IEAの2050年ネットゼロエミッションソリューションは、ゴールありきのbackcasting的なアプローチに基づいており、現状の技術では2050年ネットゼロエミッションは達成し得ない(p84)
LNGの在庫はたったの2週間
この本の素晴らしいところは、原油は半年分備蓄していますが、LNGは2週間程度の在庫しかないことを指摘し、天然ガスの備蓄を推奨していることでしょう。LNGは、天然ガスを-162℃で液化したものですが、現在は民間のLNGタンクに2週間程度の在庫しかないのです。脱炭素のために石炭火力を減らし、LNG火力を増やしていくのは簡単ですが、たった2週間しか在庫のないLNGで不安定な再エネをカバーできるはずがないのです。
ちなみにドイツでは、岩塩層にロシアからの天然ガスを備蓄しており、その量は6か月分の供給力に相当するという。脱炭素に資金を出すくらいなら、LNGの備蓄に資金を出したほうがエネルギーの安定供給に資すると著者は言いたいわけです。
日本は天然ガス備蓄上の構造リスクを抱えている・・天然ガス備蓄ビジョンを早急かつ明確に打ち出すタイミングだと考えます(p47)
日本のCO2排出量は世界の3%
エネルギー基本計画(第7次)の原案では、太陽光を2倍から3倍にするとしています。すでに不安定電源である太陽光や風力の賦課金は3兆円の国民負担となっており、賦課金は10兆円に近づいていくのでしょう。賦課金だけで電気料金は、1.5倍になる計算です。
日本と同じ島国のイギリスでは、石炭火力を減らし、ガス火力にシフトを増やしましいたが、ロシアのウクライナ侵攻でガス価格が高騰。ガス価格3倍、電力価格が2倍になって、「Heat or eat」(暖房費か食費か)と言われる事態になりました。
著者の主張のとおり、脱炭素という名誉のために、世界の排出量の3%でしかない日本が排出量を半減させても、中国やインドは1年でその排出量を増やしてしまいます。仮にCO2が地球温暖化に影響しているとしても、日本の脱炭素の努力は、本質的に意味はないのです。
名誉のために国際競争力を失い、亡国の選択をしてはならないという著者の主張に納得しました。京都議定書を簡単に離脱したアメリカを参考にすべきなのでしょう。市村さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・日本の場合は海外から(燃料を)タンカーで輸送せざるをえません。自前でベースロード電源、ミドル電源、ピーク電源をフルスペック用意し、いつでも稼働できるように準備万端怠りなしの状態を維持しなければならない(p23)
・日本は、2012年に地球温暖化対策税を石油石炭税の上乗せ税率として創設し、t当たり289円課税されますが、本則税率を含めれば年間で約4兆円規模の税収・・過度に徴税することで、産業の空洞化をまねくことは避けなければならない(p169)
・EUは域内共通炭素税の導入ができなかったため、排出量取引を導入していますが、域内産業への悪影響を防ぐため、無償配賦の形で事実上の免税措置を行っています(p170)
【私の評価】★★★☆☆(78点)
目次
Prologue:3E+Sの最適解を求めて
1章 エネルギー政策基本法成立から20年
2章 2050ゼロエミッション-京都議定書とパリ協定から読めるメッセージ
3章 エネルギー安全保障に資する脱炭素の切り札はあるのか
4章 対談:有馬 純×市村 健
「ニッポンの電力危機を回避せよ! 未来への提言」
著者紹介
市村 健(いちむら たけし)・・・エナジープールジャパン(株)代表取締役社長兼CEO。1987年東京電力(株)入社。本店原子燃料部、本店総務部で17年従事。その間、議員立法である「エネルギー政策基本法」起草にも携わる。2014年東京電力を退社。シュナイダーエレクトリック・デマンドレスポンス事業部ディレクター(エナジープール日本法人設立統括)。2015年より現職。経済産業省資源エネルギー庁ERAB検討会委員、制御量評価WG委員、電力広域的運営推進機関需給調整市場検討小委員会・委員、資源エネルギー庁次世代技術を活用した新たな電力プラットフォームの在り方研究会オブザーバーを務める。慶大卒・米国ジョージタウン大学院MBA修了。
エネルギー安全保障関連書籍
「電力セキュリティ: エネルギー安全保障がゼロからわかる本」市村 健
「電力崩壊 戦略なき国家のエネルギー敗戦」竹内純子
「再生可能エネルギーの地政学」十市 勉
「世界の中の日本 これからを生き抜くエネルギー戦略」金子祥三,前田正史
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