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「再生可能エネルギーの地政学」十市 勉

2023/09/19公開 更新
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「再生可能エネルギーの地政学」十市 勉


【私の評価】★★★☆☆(71点)


要約と感想レビュー

再エネは国産資源であり輸送リスクがない

著者の所属する日本エネルギー経済研究所は、資源エネルギー庁系のシンクタンクです。タイトルは「再生可能エネルギーの地政学」とかっこいいのですが、日本のエネルギー戦略について基本的なことが書いてあるものであり、それ以上は立場上書けないのでしょう。


世界各国は地球温暖化対策として、脱炭素(カーボンニュートラル)に向けて再生可能エネルギーの導入、炭素排出量取引制度に力を入れています。著者の再生可能エネルギーへの評価は、再エネは国産資源であり輸送リスクがない点を評価しつつ、再エネ(太陽光、風力)は自然条件で大幅に変動するため、蓄電池などの安定供給の対策が必要となるとしています。再エネのコスト負担にあえて触れていないのは、何か意味があるのでしょうか。


また、再エネ関係の設備の製造には、日本にない重要鉱物・希少金属を使うため、その安定供給が課題だとし、エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が、希少金属の自給率を2018年度の50.1%から2030年度に80%以上を目指しているとのことです。


・リチウムでは、国別の産出量では豪州が55%、チリが23%であるが、鉱石を精錬して得られるリチウム化合物では60%を中国が占めて(p46)


日本は10年間20兆円規模のGX経済移行債を発行

注目すべきことは、脱炭素に前向きなEUが、産業競争力の公平化を理由に、鉄鋼、アルミ、セメント、電力などを対象に2026年から炭素国境調整措置(CBAM)の導入を決めていることでしょう。炭素国境調整措置とは、国別の製品の炭素排出量に応じて、EUの炭素排出量取引制度(EU ETS)の価格相当を負担させる仕組みです。炭素排出量が多い国の製品に関税をかけるようなものなのです。


それに対して中国では、海外で新規石炭火力の建設を行わないと表明したり、2021年7月には中国の発電事業者が参加する排出権取引を開始しています。日本でも2023年度から10年間で20兆円規模のGX経済移行債を発行し、脱炭素化への技術開発や設備投資を行うとしています。その財源は、エネルギー輸入企業への賦課金と、発電事業者への炭素排出の負担金で償還するという。1年あたり2兆円なので、消費税1%相当の国民負担が増えることになります。


・(GX経済移行債の)財源としては、化石燃料の輸入事業者に対する賦課金(開始は2028年度)、および発電事業者の排出枠の有償化による負担金(開始は2033年度)(p186)


原子力は脱炭素とエネルギー安全保障の両立に不可欠

原子力は脱炭素化とエネルギー安全保障の両立に不可欠などと、日本のエネルギー政策を説明しているだけの内容でした。ここからは私見になりますが、原子力にしても、再エネにしても、脱炭素政策にしても国民負担と意味合いを明確にして、情報提供するとわかりやすいのではないかと感じました。


著者は国民負担の額について、あえて触れていませんが、原子力については東日本大震災で原子力がすべて停止したとき、日本の燃料輸入は3兆円増えました。毎年3兆円の負担で原子力は廃止できるのです。(現在は燃料価格上昇でもっと負担は大きい)再エネの賦課金は、年3.5兆円ですから太陽光、風力などに毎年消費税2%程度を私たちは電気料金として支払っているのです。これに更にGX経済移行債として年2兆円相当の負担が増えることになります。


もう少し脱炭素政策についてはフォローしていきたいと思います。十市さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・2021年にIEAが発表した「世界のエネルギー展望」によると、すでに各国が宣言している野心的な脱炭素政策を反映したシナリオでは、2050年においても化石燃料がエネルギー供給全体の半分以上を占める(p31)


・中国は・・EUが輸入禁止にしたロシア産原油の多くは、中国やインドなどが大幅に値引きされた価格で大量に輸入を増やしている(p74)


・チリにおけるグリーン水素の均等化コストは、2030年までに1.3~1.4ドル/kgに低下し、豪州の1.7ドル/kgや中東の1.8ドル/kgを下回り(p148)


▼引用は、この本からです
「再生可能エネルギーの地政学」十市 勉
十市 勉、エネルギーフォーラム


【私の評価】★★★☆☆(71点)


目次

第1章 なぜ再生可能エネルギーの地政学が重要か
第2章 再生可能エネルギーの地政学リスク
第3章 石炭大国の中国はエネルギー移行の「勝ち組」に
第4章 脱炭素・脱ロシアを目指すEUのエネルギー政策
第5章 始動する米国のクリーンエネルギー戦略
第6章 中東産油国は水素・アンモニアの輸出大国に
第7章 インド太平洋地域のクリーンエネルギー開発
第8章 脱炭素電源の原子力を巡る地政学
第9章 新たなエネルギー地政学と日本の国家戦略



著者経歴

十市 勉(といち つとむ)・・・1945年、大阪府生まれ。1973年、東京大学大学院地球物理コース博士課程修了(理学博士)。日本エネルギー経済研究所に入所後、マサチューセッツ工科大学エネルギー研究所客員研究員(1983~1985年)、日本エネルギー経済研究所総合研究部長、専務理事、首席研究員、顧問などを経て、2021年より客員研究員。この間、政府の審議会や委員会の委員などを歴任、多摩大学の客員教授や東京工業大学・慶應義塾大学の非常勤講師も務める。


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