「イスラームの論理と倫理」中田考, 飯山陽
2024/12/27公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★☆☆(76点)
要約と感想レビュー
カリフ制こそが真の民主化
中田さん、 飯山さんという二人のイスラム学者が交互に意見交換する形の一冊です。飯山さんは中田先生を「カリフ制の再興を目指す活動家である」と紹介しています。
カリフ制とは、唯一の指導者がイスラム法によって統治する制度です。中田さんは欧米の「民主主義」の本質は多数派の支配であると全否定し、イスラム教徒によるカリフ制こそが真の民主化であると主張しています。
したがって、仮にイラクを民主化するのであれば、イラクの多数派のシーア派が最高権威とし、スンナ派からも頼りにされるスィースターニー師の指導の下にイランのような政体となるべきと主張しているのです。
中田先生は何よりも第一に、カリフという唯一の指導者がイスラム法によって世界を統治する「カリフ制」の再興を目指す、という明確な政治的目標を掲げ、それを広める活動にいそしむ「活動家」(p305)
正しいのはイスラム教だけ
飯山さんはイスラム教の本質を、「正しいのはイスラム教だけという絶対正義」と解説しています。コーラン第98章6節には、キリスト教徒やユダヤ教徒や多神教の民は「被造物の中で最悪の者」だと明示されており、異教徒は基本的に殺すべき敵と位置づけられているのです。
もちろん異教徒は条件付きでイスラム統治下に生存を認められるものの、イスラム教が完全無欠の宗教であり、イスラム教の平等はイスラム教徒だけに適用されるのです。イスラム教は、「宗教の如何に関わらず人はすべて平等であるという世界の常識を否定する恐ろしい宗教である」というのが飯山さんの主張なのです。
したがって、アメリカ・イスラエルとイラン・パレスチナ問題で言えば、中田さんはアメリカを帝国主義のモスリム抑圧国家と考え、飯山さんはイランを平和を壊すテロ支援国家であると考えているのです。
イスラームは人種、民族による差別はカテゴリカリーに拒否します。しかし宗教による差別は否定しません(中田)(p83)
イスラム国は世界支配を目指す
イスラムの中でも過激なイスラム国とアルカーイダは、同じサラフィー・ジハード主義と呼ばれ、異教徒と闘う前にイスラム法に従わない背教者を敵とし、イスラム法よる統治を完成させようとする勢力です。したがって、イスラム法に従わないイスラム教徒は罰せられるか殺されます。
実際、シリアの女性収容所で、イスラム国に賛同する女性が、イスラム法に従わないインドネシア人の妊婦や、ニカーブ着用を拒んだ14歳の少女を殺害する事件が発生したという。
2018年に欧州でイスラム過激派に関連して逮捕された人は、5万人を超えています。特に「イスラム国」はイスラムによる世界支配を目指しており、イスラム教の指導者でさえ、イスラム過激派はコーランを悪用していると公式に認めているくらい過激なのです。
したがって、イスラム研究者がイスラムは平和で寛容で平等な宗教だと主張する書籍もありますが、これは一種のプロパガンダであるというのが飯山さんの感覚なのです。
「穏健」で「寛容」で「平等」で「民主的」な「平和な宗教」など一体どこにあるのか、とは、中東研究者、特にアラブ研究者であれば誰でも思うことでしょう(中田)(p20)
イスラムは被害者だ
中田さんのイスラムは悪くないという言い訳が、合理的に見えませんでした。
例えば、
・イスラム国のテロは、具体的な命令はなく個人が行ったもの。
・アフガニスタンでは、ターリバーンは女子教育を禁じていない。イスラムに反する教育を行う女子校を閉鎖しているだけ。
・イスラムは危険というが、日本もインドネシアを植民地化し、天皇崇拝を強制したではないか。
・アルカイダのビン・ラーディンがアメリカを攻撃したのはアメリカがイスラムの聖地アラビア半島に軍を送り同胞イラクを武力攻撃したから。
このようにイスラム法による世界は、日本人には理解できないロジックで構築されているのです。中田さん, 飯山さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・カリフ制のイスラム法による統治は・・異教徒はムスリムではない、というその理由だけで差別されます(飯山)(p93)
・日本人シリア研究者はアサド政権を極度に擁護する傾向にあり・・信頼すべき客観性をもつ「解説」として公開されます。私には、これは解説を偽装したプロパガンダに見えます(飯山)(p91)
・タイ深南部では、ディスコやバーもしばしば攻撃対象となっています。イスラム過激派は酒やダンス、男女の混じり合いも、イスラム教の教義に反するとみなします(飯山)(p108)
・イスラモフォビアというのは、「イスラムは被害者だ」と主張するロジック・・・テロを実行した加害者がムスリムであるにもかかわらず・・イスラム教を嫌悪したり恐怖したりする「異教徒」を非難するのが特徴です(飯山)(p151)
・エルドアン氏はしばしばヨーロッパのモスクを訪れ、在欧トルコ人に「同化などするな、トルコ文化を守れ」「子供を5人作ってヨーロッパに報復せよ」などと呼びかけてきました(飯山)(p295)
【私の評価】★★★☆☆(76点)
目次
第1書簡 あるべきイスラーム理解のために
第2書簡 イスラム国をめぐって
第3書簡 トルコ、クルド問題について
第4書簡 タイのイスラーム事情
第5書簡 中村哲氏殺害事件をめぐって
第6書簡 ハラール認証の問題
第7書簡 イラン/アメリカ関係の深層
第8書簡 コロナウイルス禍がもたらしたもの
第9書簡 トルコのコロナ対応をめぐる考察
最終書簡 インシャーアッラー それぞれの結語として
著者紹介
中田考(なかた こう)・・・1960年生まれ。イスラーム法学者。灘中学校、灘高等学校卒業。早稲田大学政治経済学部中退。東京大学文学部卒業。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。カイロ大学大学院文学部哲学科博士課程修了(Ph.D)。山口大学助教授、同志社大学教授を経てイブン・ハルドゥーン(在トルコ)大学客員教授。1983年にイスラーム入信、ムスリム名ハサン。
飯山陽(いいやま あかり)・・・1976年生まれ。東京都出身。イスラム思想研究者。東京大学大学院人文社会系研究科アジア文化研究専攻イスラム学専門分野単位取得退学。博士(東京大学)。
イスラム関連書籍
「イスラームの論理と倫理」中田考, 飯山陽
「池上彰の講義の時間 高校生からわかるイスラム世界」池上 彰
「イスラムから見た「世界史」」タミム・アンサーリー
「イスラムと仲よくなれる本」森田ルクレール優子
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