「イスラム教再考 18億人が信仰する世界宗教の実相」飯山 陽
2024/01/24公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★☆(86点)
要約と感想レビュー
イスラム教徒の移民を拒むEU
欧米では移民が増えて、治安が悪化し、移民を増やしたのは失敗だったと考えている人が増えています。この本ではイスラム学者である著者が、治安の悪化の背景にはイスラムの本質が潜んでいると説明する一冊です。
イスラム教の生徒が増えたフランスの学校では、イスラム教徒との対立を避けるため、教師は授業内容、給食、遠足の行先までイスラム的価値に配慮したものにしているという。2015年にはイスラムの風刺画を掲載したフランスの出版社がアルカイダによって襲撃され、12名が殺害されています。また同年、授業で表現の自由を教えるために風刺画を見せたフランス人教師が18歳のイスラム教徒に斬首されているのです。
EUが移民を拒むようになったのは、このようにイスラムのやり方を認めろ、それが人権だ、認めないのは差別だ、と批判されるのが怖くて黙認せざるをえない状況に耐えられなくなってきたのでしょう。
イスラム主義者が実質的に支配する「領土」がフランス国内で拡大した理由の一つとして、人々がイスラムフォビアとレッテル貼りされることを極度に恐れてきた点が挙げられています(p211)
イスラム原理主義の台頭
これまで私の中では、イスラムに関して次のような疑問がありました。
なぜ、イスラム教を冒とくしているとされた小説を翻訳すると暗殺されるのか。
なぜ、イスラム教を棄教すると死刑になる国が存在するのか。
なぜ、恨みがあるとはいえ、自爆攻撃するイスラム教徒がいるのか。
なぜ、エジプトのコプト教徒は、イスラム教徒に殺害されることがあるのか。
なぜ、地蔵や仏像を破壊するイスラム教徒が存在するのか。
なぜ、ヒジャブをつけていないだけで、殴られ殺される女性がいるのか。
これらはイスラム教の啓典『コーラン』に明示されているからなのです。イスラム教の啓典『コーラン』第8章39節には、「騒乱がなくなるまで、そして宗教のすべてが神のものとなるまで戦え」と明示され、第4章101節は異教徒を「あなたがたの公然たる敵」とし、第9章5節は「多神教徒を見つけ次第殺し、またはこれを捕虜にし、拘禁し、またすべての計略(を準備して)これを待ち伏せよ」と命じているというのです。
もちろんすべてのイスラム教徒が行動するわけではありません。しかし、「イスラム教徒はイスラム教の全教義を実践しなければならない」とする一部の過激なイスラム原理主義を信じるイスラム教徒が0.1%でもいれば、ジハードは実行されるのです。
フランスでは現在も2000人以上のイスラム教徒がテロの直接的脅威、さらに2万人以上がその共犯の可能性があるとして諜報当局の監視対象となっています(p5)
ヒジャーブをしていない女は奴隷女
また、フランスの学校ではキリスト教を含めて宗教的なものを排除するという基本があるため、ヒジャーブ(女性の髪を隠すスカーフ)を禁止しています。イスラム教では女性がヒジャーブを着用するのは義務と考える人が多く、反発も強いのです。
その逆説として、イスラム教ではヒジャーブをしていない女は奴隷女で売春婦である、だから襲ってもかまわないという価値観を持った人もいます。実際、2016年スウェーデンでは、「ヒジャーブをしていない女はレイプされたがっている」と書かれたポスターが貼られているのが発見されています。2001年スウェーデンでは移民の少年集団が20件近くレイプを繰り返し、ヒジャーブをしないスウェーデン人女性を「売春婦」と呼ぶ習慣が、イスラム教徒によって持ち込まれ他の移民男性にも広まったとされているのです。
このように一部のイスラム教徒にとって、ヒジャーブをつけていない女性には何をしてもいいんだという考え方が潜んでいるというのです。
ヒジャーブを称賛することは・・ヒジャーブをしていない女は奴隷女で売春婦である、だから襲ってもかまわないのだというイスラム教の男性中心主義的価値観を承認することにつながります(p159)
イスラム的価値が最優先
1988年1月、鳥取大に留学していたケニア人が、仏像や地蔵など60体を破壊し、現行犯逮捕されました。イスラム信者である中田孝は、「イスラームの基本とは、偶像崇拝が殺人や強盗よりも悪い決して許されない大罪であり偶像破壊が一切の道徳に優先するという事」とツイッターで解説したという。このようにイスラム的価値を最優先し、法律を守らなくてもいいのだ、と考える人が一部にいることが大問題なのでしょう。
そしてこうした点を指摘した人はイスラムを差別しているのであり、場合によっては社会的、物理的に暗殺することが正当化されてしまう可能性があるのがイスラムなのです。いずれイスラムの人しか、地上にはいなくなるのかもしれません。飯山さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・イスラム法学者の一人であるラマダーン・ブーティも・・ジハードは基本的には攻撃的な戦争であり、それは全てのイスラム教徒にとっての義務だ・・と述べています(p49)
・イラン・イスラム共和国・・ホメイニは、次のように述べています・・ジハードについて学ぶ者は、イスラム教が全世界の制服を求める理由を理解するだろう(p62)
・2020年11月、インドネシアのスラウエシ島ではキリスト教徒4人が殺害・・イスラム過激派が異教徒を狙い撃ちにした例(p88)
・2011年の「アラブの春」以降、治安が悪化したエジプトでは、コプト教徒やコプト教会がムスリム同胞団や一般のイスラム教徒による攻撃の標的とされました(p102)
・現在も20以上のイスラム諸国が棄教を犯罪と定め、少なくとも10か国で棄教者に死刑判決が下されています(p91)
【私の評価】★★★★☆(86点)
目次
はじめに イスラム研究者が拡散させた「誤ったイスラム像」
第一章 「イスラムは平和の宗教」か
第二章 「イスラム教ではなくイスラームと呼ぶべき」か
第三章 「イスラムは異教徒に寛容な宗教」か
第四章 「イスラム過激派テロの原因は社会にある」か
第五章 「ヒジャーブはイスラム教徒女性の自由と解放の象徴」か
第六章 「ほとんどのイスラム教徒は穏健派」か
第七章 「イスラム教を怖いと思うのは差別」か
第八章 「飯山陽はヘイトを煽る差別主義者」か
終 章 イスラム教を正しく理解するために
著者経歴
飯山陽(いいやま あかり)・・・1976(昭和51)年東京生まれ。イスラム思想研究者。アラビア語通訳。上智大学文学部史学科卒。東京大学大学院人文社会系研究科アジア文化研究専攻イスラム学専門分野博士課程単位取得退学。博士(文学)。
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