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【書評】「トランプ帝国の「ネオ・パクス・アメリカーナ」- 米中覇権戦争の行方と日本のチャンス」福山 隆

2025/06/20公開 更新
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「トランプ帝国の「ネオ・パクス・アメリカーナ」- 米中覇権戦争の行方と日本のチャンス」福山 隆


【私の評価】★★★★☆(89点)


要約と感想レビュー


マハンのシーパワー理論

元西部方面総監部幕僚長・陸将であり陸上自衛隊の最高幹部であった著者は、トランプ大統領をどう見ているのでしょうか。


トランプ大統領は就任直後に、パナマ運河の奪還を宣言し、デンマークがグリーンランドの支配権をアメリカに譲渡しなければ関税を課すと脅し、軍事力行使も辞さないと発言しています。


このトランプ大統領の主張は突飛なものではなく、その背景にはアルフレッド・マハンの「海洋を制するものが世界を支配する」というシーパワー理論があると著者は解説するのです。


そして、中国に貿易戦争を仕掛けているのは、同じようにシーパワー理論を信じ、海軍を強化している中国の経済・軍事力の台頭を抑え込み、中国共産党を弱体化・崩壊させることを目標としていると推定しています。 


マハンのシーパワー理論は、「海洋を制するものが世界を支配する」・・・マッキンダーの理論は、マハンとは真逆で、「大陸(ユーラシア大陸)の支配が世界支配をもたらす」という考え方である(p100)

アメリカを偉大にしたセオドア・ルーズベルト

トランプ大統領のスローガン「米国を再び偉大に(Make America Great Again)」については、アメリカを偉大にしたセオドア・ルーズベルト大統領との類似性を示唆しています。


セオドア・ルーズベルト大統領は、日露戦争の講和交渉を仲介し、ポーツマス条約の締結に協力しました。しかし、強大になった日本海軍に対抗するためにアメリカの海軍力強化を行い、日本からの移民制限を始めたのは、セオドア・ルーズベルト大統領なのです。


セオドア・ルーズベルト大統領とアルフレッド・マハンは友人同士であり、マハンは「日本人移民の流入を、このまま放っておくと、人口の大半が日本人によって占められてしまう。」と日本人の増加に危機感を持っており、排日移民法の策定にマハンの日本人への不信感が影響を与えた可能性があるのです。


セオドア・ルーズベルト大統領は、シーパワー理論からパナマ運河がアメリカ海軍にとって重要な価値を持つことを理解しており、コロンビアに軍事介入してパナマ共和国を独立させた後に、アメリカがパナマ運河建設権を獲得し、パナマ運河を10年かけて完成させるのです。


著者は日独伊と戦ったアメリカが、日系人のみを強制収容所に隔離したこと。広島と長崎に原子爆弾投下を決定したことから、アメリカには黄禍論が存在していたと推定しています。実際、現在のアメリカ国家情報長官トゥルシー・ギャバードが日本再軍備警戒論を主張しているように、現在でもアメリカ国民のなかには日本に対する警戒感を持っている人々が少なからず存在しているのです。


アメリカの深層心理のなかに未だに黄禍論が息づいていることを認識する必要があろう(p111)

中国の台湾統一戦略

台湾の軍事統一を目指す中国については、ウクライナ戦争とパレスチナ・イスラエル戦争を見て、短期間での台湾軍事侵攻が難しいことを学んだとしています。そのため、キューバ危機のときのアメリカの対応と同様に、台湾を海上封鎖する可能性が高いと著者は見ています。


中国の海上封鎖に対抗するため、米軍の海兵隊では、今後10年間で戦車部隊を全廃し、対艦ミサイルを3個連隊創設し、沖縄とグアム・ハワイに配置する方針です。さらに、日本を含む列島線に米陸軍・米海兵隊の地対艦ミサイル、中距離弾道ミサイル、対空ミサイルを配備し要塞化します。


それに対し中国は、日本のメディアを使って、米軍のミサイル部隊配備に反対キャンペーンを張り、日本の世論を扇動するだろうと予想しています。中国はオーストラリア、ニュージーランド、カナダ、日本などに中国の細胞組織を配置し、影響力を強化し、世論を操作する工作活動を行っているのです。


留学生は全員に、中国が狙いを定めた国を乗っ取るための影響力強化工作・浸透工作のためのミッションが課せられている・・・留学生は全員が中国の公館から監視・統制されているという(p122)

アメリカに見捨てられた場合に備える

中国に台湾が海上封鎖された場合、中国と台湾とアメリカが、日本や台湾周辺を戦場として戦うことになる可能性が高いことを警告しています。さらに、日本が戦場となった場合、アメリカから日本が見捨てられる可能性も否定していません。


したがって、最悪のケースとしてフィンランドとソ連の関係のように「偽装的な中国との共存共栄」も真剣に研究しておく必要があるとしています。


どこまで自国を守るのか、自分で国を守れないのであれば、どうするのか考えておく必要があるということなのでしょう。非常に現実を直視した一冊だと思いました。冨安さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言


・アメリカの行政機関・・各省の長官は大統領が指名し、上院の承認によって任命が成立する・・アメリカの3億人以上のなかからもっとも優秀な人材を抜擢・登用することができる(p59)


・朝日新聞、毎日新聞、NHKなどの左翼メディアにより、繰り返し「自虐史観」を刷り込まれた日本人は、愛国心も誇りも奪われ、「日本を再び偉大な国にしよう」という意欲が失せてしまった感がある(p245)


・日本共産党や立憲民主党などの左翼政党や朝日新聞、毎日新聞などの左翼メディアは、いまも相変わらずGHQによる占領政策(戦争についての罪悪感=自虐史観)を忠実に遂行しようとしている(p213)


▼引用は、この本からです
「トランプ帝国の「ネオ・パクス・アメリカーナ」- 米中覇権戦争の行方と日本のチャンス」福山 隆
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福山 隆 (著)、ワニブックス


【私の評価】★★★★☆(89点)


目次


第1章 すでにべ中戦争は始まっている
第2章 第2次トランプ政権誕生
第3章 アメリカを偉大にしたセオドア・ルーズベルト
第4章 ハマンのシーパワー理論=アメリカ帝国主義の理論とは
第5章 中国もハマンの門徒
第6章 ウクライナ戦争の和平調停から読み解くトランプ政権の展望
第7章 米中覇権争いの展望
第8章 トランプ政権の対日要求など
第9章 日本の防衛力強化の現状と課題
第10章 トランプが引き起こした激変の時代に日本が生き残るための方策


著者経歴


福山隆(ふくやま たかし)・・・元陸将。1947年、長崎県生まれ。防衛大学校卒業後、陸上自衛隊に入隊。1990年、外務省に出向。その後、大韓民国防衛駐在官として朝鮮半島のインテリジェンスに関わる。1993年、連隊長として地下鉄サリン事件の除染作戦を指揮。九州補給処処長時には九州の防衛を担当する西部方面隊の兵站を担った。その後、西部方面総監部幕僚長・陸将で2005年に退官。ハーバード大学アジアセンター上級研究員を経て、現在は執筆・講演活動を続けている。


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