「米中貿易戦争で日本は果実を得る」高橋 洋一
2018/11/01公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★☆(87点)
要約と感想レビュー
元財務官僚の著者は、マスコミは物事の本質が分かっていない、と断言しています。例えば、マスコミはTPPに反対の立場を取ることが多いのですが、TPPは特許や資本の自由化を含む自由経済圏をつくる仕組みです。同じ自由経済圏を作る仕組みである日欧EPA締結についても、マスコミはあまり報道していません。
TPPは50%以下の出資しか認めず、ハイテク技術を盗もうとしている中国にとっては非常に都合の悪い仕組みなのです。そもそもTPPは自由経済を基本としており、社会主義国にとっては社会主義を辞めますと言っているに等しいのです。
・中国はいつの間にか、自国が入れない自由貿易圏であるTPP11や日欧EPAに包囲されている状況を安倍総理につくられたということだ(p125)
また、マスコミはトランプ大統領の対中貿易戦争によって、自由貿易体制が揺らいでしまうと報道しています。しかし、実際のトランプの主張は、中国が自由貿易を行いたいならば、同じ条件にしようと言っているだけなのです。つまり、投資を自由化し、技術を盗んだり提供させるのをやめ、人の往来を自由にするということです。
中国にとっては、これまでうまく日米に資金を出させ、工場を作り、技術を盗んできたのができなくなるということで都合が悪いのです。著者は、日本も知的所有権保護にもっと力を入れるべきであり、トランプ政権に追随して、中国からの投資にも制限をかけたほうがよいと主張しています。
・「対米投資を自由にやりながら、対中投資は自由にさせず、アメリカの知的所有権を侵害している」というのがトランプ論法(p3)
テレビや新聞を見ているだけでは、本当に大事なことは分からないようになっているのだと思いました。本当にマスコミが勉強不足なのか、それとも意図的に本質を報道しないのかわかりませんが、高橋さんが解説してくれるから大丈夫です。高橋さん、良い本をありがとうございました。
この本で私が共感した名言
・筆者は、「この米中貿易戦争は、いずれトランプ大統領の勝利に終わり、今後、中国は共産党独裁放棄か経済崩壊かを迫られ、イバラの道を歩き始めることになる」と予測している(p2)
・筆者が驚いたのは、ベトナムが、日本が主導するTPPに参加を決めたときだ・・・ベトナムは、中国同様、社会主義国だが、TPPに参加するということは、まさに「社会主義国をやめる」という宣言であり、「中国と同じ道を歩むのはいやだ」という意思表示であり、中国と完全に袂を分かつということを意味していた(p129)
・中国にとって最悪なのは、日本とアメリカが、韓国をなだめながら北朝鮮を取り込むことだ。今、その綱引きがまさに始まろうとしている(p112)
・韓国がつらいのは、中国への輸出額が下がっているにもかかわらず、韓国の輸出額全体の約25%(GDPの約11%相当)を中国が占めていることだ・・日本の対中輸出額はGDPの約3%にすぎないから、それほど恐れることはない(p108)
・日本のメディアはFTA(自由貿易協定)やEPAの話になると、チーズやワインが安くなるという話ばかりを書き立てる。あれば、FTAやEPAの本質をわかっていないからだ(p123)
・EPAは・・FTAの要素である「物品およびサービス貿易の自由化」に加え、たとえば人の行き来の自由や投資の自由、政府調達、二国間協力などを含めて締結される包括的な協定のことであり、資本の自由化や、国有企業を民間企業と同列に扱うこと、そして知的所有権などの問題も含まれている。つまり、共産党支配で、資本の自由化を認めるわけにはいかない中国は他国とFTAは結べても、絶対にEPAを結ぶことはできない・・(p123)
・プーチン大統領と頻繁に会っているのが日本の安倍総理だ・・・もちろん、安倍総理の頭の中には北方四島問題があるだろう。しかし本音を言えば、狙いはロシアの石油や天然ガス資源なのではないか(p136)
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▼引用は下記の書籍からです。
【私の評価】★★★★☆(87点)
目次
第一章 米中貿易戦争の背景を読む
第二章 「アメリカ勝利」が見えている米中貿易戦争
第三章 米朝首脳会談の行方
第四章 韓国の憂鬱
第五章 EUとロシアの今後を読む
第六章 収穫期に向かうアベノミクス
第七章 意味なき「出口論議」
第八章 日本経済の光と影
第九章 財務省不要論
著者経歴
高橋洋一(たかはし よういち)・・・1955年、東京都生まれ。東京大学理学部数学科・経済学部経済学科卒業。博士(政策研究)。1980年に大蔵省(現・財務省)入省。大蔵省理財局資金企画室長、プリンストン大学客員研究員、内閣府参事官(経済財政諮問会議特命室)、内閣参事官(首相官邸)等を歴任。小泉内閣・第一次安倍内閣ではブレーンとして活躍。(株)政策工房代表取締役会長、嘉悦大学教授。『さらば財務省!』(講談社)で第17回山本七平賞受賞
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