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「中国「軍事強国」への夢」劉 明福

2024/08/12公開 更新
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「中国「軍事強国」への夢」劉 明福


【私の評価】★★★★☆(86点)


要約と感想レビュー

「中国の夢」は「人類運命共同体」

習近平がスローガンと掲げる「中国の夢」の元となった書籍の執筆者である中国国防大学教授劉(リゥ)氏の一冊です。著者は2049年には、大英帝国は没落し、覇権国家アメリカは終焉して、「人類運命共同体」という人類主義の理想の新世界になるとしています。


世界の平和を守り、共同的な発展を促進し「人類運命共同体」を作るのが中国であり、そのためには、強大な軍事力を後ろ盾としなければならないとしています。


現在、外国で中国の設備や企業が襲撃され、建設工事が中断したり、財産が略奪されたり、従業員が拉致される事件が発生しており、それを防ぐのが中国軍なのです。(日本も中国で襲撃されて困っています)


そして中国軍が海外進出する目的は、侵略や軍事的覇権を求めているわけはなく中国の国外における国益を守り、地域の安定と世界の平和に責任を果たし、貢献するためだというのです。(在日中国人を守るためなら攻めてきます)


中国の軍事力が海外進出する目的は、決して侵略や拡張ではなく、覇権の追求でもない。中国の利益を死守し、中国国民を保護し、地域と世界の平和を守ることが目的なのだ(p272)

中国はこれまでも今後も侵略しない

中国はチベットや東トルキスタンを侵略し、ロシア、ベトナム、インドと領土戦争をしてきました。ところが著者は、中国は1840年のアヘン戦争以来、侵略され、包囲され、封じ込められてきたとし、中国はこれまでも今後も、「侵略しない」「拡張しない」「覇権を求めない」という方針を守っていくというのです。


なぜなら、これまでの侵略に見える戦争は国家を防衛するため自衛戦争であったというのです。チベットについては、毛沢東の言葉を引用し、人民民主制のチベットに改造するためにチベットを占領し、開放したとしています。


新疆ウイグル自治区については、東トルキスタンの侵略については述べず、中国の弾圧への抵抗はテロ活動であり、テロには手段を選ばず、断固として叩きのめすのみで、先制攻撃することが重要としています。


これからも中国は、「侵略しない」けれども、自衛のための戦争は行っていくということなのでしょう。泥棒が生きるために、他人のお金を持ってきたと主張するようなものです。


人民解放軍は、「全方位戦争」を展開してきた。北東方面で朝鮮戦争、南西方面では中印国境における自衛のために反撃戦、北方の国境をめぐってはソ連軍と交戦、そして南方の国境ではベトナムを相手に戦争をしてきた(p158)

尖閣諸島と南沙諸島は中国の領土

尖閣諸島と南シナ海については、尖閣諸島と南沙諸島は中国の領土であり、日本、ベトナム、フィリピン、マレーシアが侵入し、占領されているとしています。だから自衛のために戦争するわけです。その上で南シナ海の島々は中国が海洋に進出して制海権を得るための前線基地であり、平和的に解決する方針を維持しつつも、一戦を交える十分な準備が必要としています。


この論理で言えば、世界のすべての国は、中国の領土であり、「人類運命共同体」を作ることもできそうです。


台湾についても、米国の南北戦争をモデルとして分裂勢力にはいかなる高い代償を払っても国家の統一を守らなければならないとしています。元々別の勢力だった台湾と、南北戦争を一緒にしてしまうのは無理があるように思えますが、おかまいなしなのです。


日本による釣魚島(尖閣諸島)海域への長期的な排他的実効支配の状態を打破し・・海上権益を守ることを可能にした歴史的な快挙にほかならない(p43)

中国と台湾が共倒れになるのか

著者は21世紀の最大のリスクは、米国版ヒトラーが出現することで、日本と中国を戦わせて、共倒れになることだという。だから日本は日米軍事同盟を離脱し、真の主権国家になるべきだというのです。著者は中国共産党がメディアを管理し、報道や宣伝工作は常に中国共産党の信頼できる人間が行わなければならないとしています。この本も工作活動の一環とすれば、日米同盟を破壊するのが中国の目的なのでしょう。


中国国防大学教授自らが中国が世界を支配するために、軍事力と工作活動を強化していくと言っているのですから、ありがたいことです。


ヒトラーは「我が闘争」の中で、「国土は戦闘力のある剣で取り戻される」と語っているように、著者も「武力という手段がなければ、(台湾の)平和的統一を実現することは難しい」と語っています。


私にとって日本のリスクは、中国版ヒトラーが台湾を侵略することです。台湾を中国が支配すれば、次は沖縄が戦場となってしまうからです。日本は中国が台湾進攻したとき、ウクライナをアメリカやEUが支援したように支援しなければならなのでしょう。劉さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・米国は冷戦終結後、中国の潜在力を誤って過小評価した結果、中国を封じ込めるのが20年遅れた(p58)


・習主席は中央軍事委員会改革工作会議で行った談話でも次のように強調している。「世論の誘導、とくにインターネット上の世論工作を重視して主導権を握り、政権にとってプラスになる情報を伝えていくことで、改革推進のために良好な世論環境を作っていくのだ」(p150)


・海洋、宇宙、サイバー、バイオ、再生可能エネルギーといった分野は軍民の親和性が高い。新興分野で軍民融合の発展を加速していくべきだ(p238)


・国際海域としての公海や国際海底区域・・それらは、世界のすべての国家に開発利用が可能な「公地」である。すなわち、中国が開発利用できる戦略的な「新領土」なのだ(p244)


▼引用は、この本からです
「中国「軍事強国」への夢」劉 明福
劉 明福、文藝春秋


【私の評価】★★★★☆(86点)


目次

第1章 習近平強軍思想とは何か
第2章 解放軍の戦略新思考
第3章 強軍化事業への道
第4章 習近平国家安全戦略の4大転換
第5章 反台湾独立から祖国の完全統一へ
第6章 イデオロギー戦で打ち勝つために
第7章 新時代の中国が直面する8つの戦場
第8章 世界一流の軍隊になるための戦略
第9章 科学技術の振興こそが強軍化への近道
第10章 富国強兵の鍵となる軍民融合
第11章 世界一流軍隊建設の要は海洋にあり
第12章 21世紀の人民解放軍は国土内には留まらず



著者経歴

劉明福(リゥ ミンフー、Liu Mingfu)・・・中国国防大学教授(上級大佐)。1951年山東省生まれ。1969年に入隊。済南軍区政治研究室主任や国防大学軍隊建設研究所所長などを歴任。2020年に出版した著書『中国の夢』は国内外で話題となり、習近平政権の政治スローガンに採用された


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