【書評】「「自衛隊 元最高幹部たちの告白」現役時代には語れなかった国防の真実【上巻】」
2025/06/24公開 更新

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【私の評価】★★★★☆(86点)
要約と感想レビュー
核兵器で恫喝されたらどうするのか
日本では戦後、「軍人が戦争を起こした」ということで、文民統制の名の元に自衛官の制服組を低く見てきました。しかし、この本では、「誰よりも戦争をしたくないのは最前線にいる自衛官」という仮説のもと、「どうしたら戦争にならないで済むか」制服組の元トップに聞いています。
まず、ウクライナ戦争で明らかになったことは、核武装国が非核武装国に侵略した場合,核武装国アメリカでもNATOでも守ってくれないということです。中国は2018年から6年間で核弾頭数を240発から500発に増やしています。北朝鮮も実質的に核兵器を保有しています。
ウクライナのように核兵器で恫喝された場合にどうするのか、日本に対して核兵器を使わせないためにどうすればいいのか、日本国の方針はあるのでしょうか。
核武装中国が非核武装国日本に侵略を企てた場合,核武装国アメリカが戦闘に参加して日本を守ってくれるでしょうか。守ってくれないということが今回のウクライナ戦争でも明らかになったのではないですか(田母神俊雄)(p79)
自衛隊員も日本の国民です
2022年2月に安倍総理は次のように語っています。
「我が国はアメリカの核の傘のもとにあるが,いざというときの手順は議論されていない。非核三原則を基本的な方針とした歴史の重要さを噛み締めながらも,国民や日本の独立をどう守り抜いていくのか,現実を直視しながら議論していかねばならない」
日本の防衛が心配になってきました。核兵器への対応以外に、日本の防衛にはどんな課題があるのでしょうか。
田母神俊雄氏は、普通の国の軍隊は禁止規定で動くから、禁止されていること以外は何でもできますが、日本の自衛隊は根拠規定で動くから,やっていいと言われたことしかできないという。
さらに日本の自衛隊は「専守防衛」なので、相手から攻撃を受けて初めて防衛力を行使するという、軍事的合理性のかけらもないような,日本でしか通用しないような考え方だという。
矢野一樹氏は、自衛隊員も日本の国民です。どうして,自衛隊員に「専守防衛」のような手かせ足かせをはめ、戦地に向かわせるんですかと問いかけるのです。
現状では日本の自衛隊は、戦争にならないと動けません。だから中国は2022年6月に,非戦争軍事行動要領を定めました。日本が動けないように、「台湾は国内戦で非軍事活動だ,特別軍事作戦だ」と台湾を侵攻する環境を整えているのです。
「専守防衛」などというのは,軍事的合理性のかけらもないような,日本でしか通用しないような言葉です・・・どうして,これだけ手かせ足かせをはめるんですか?・・自衛隊員も日本の国民ですよ(矢野一樹)(p151)
なぜ日本は原子力潜水艦を持たないのか
潜水艦については、日本は通常動力型潜水艦を大量導入しています。しかし、潜水艦については生存性でも攻撃力でも圧倒的に原子力潜水艦が優れているという。なぜかといえば、原子力潜水艦は無限ともいえる動力を持っており、仮に攻撃後に敵に発見されても退避行動が容易だというのです。
さらに静音性についても、現実的には通常動力型と大差ないものになっており、日本で原子力潜水艦がつくれないのは、原子力アレルギーの日本独自の空気のようなものらしいのです。フォークランド紛争ではイギリスの原子力潜水艦が、アルゼンチンの巡洋艦を撃沈して以降、アルゼンチン海軍の水上艦艇は一隻も港から出られませんでした。
北朝鮮は2021年の「国防計画」で原子力潜水艦を配備するとしています。北朝鮮や中国の脅威に対して、通常動力型潜水艦でしか対抗できない海上自衛隊はハンデを負っているのです。
米海軍の作戦部長,これは米海軍のトップですが,彼が韓国で「日本が原子力潜水艦保有決定するなら,大きなステップになる」ということをはっきりと言いました(2023年1月)(矢野一樹)(p177)
戦後機雷除去作業で80名が戦死
私が初めて知ったのは、戦後の掃海作業で79名の方が,戦死されていることです。朝鮮戦争でも日本から46隻の掃海艇が朝鮮半島に派遣され、1隻が蝕雷して,お一人が亡くなっています。戦後、日本の海には残っていた日米の機雷1万1000発を海上自衛隊の機雷掃海部隊が掃海作業を続けてくれたのです。
戦争はなくても、命をかけて仕事をしている自衛官の存在に敬意を示す必要があるのでしょう。冨安さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・NATOと日本が違うのは,NATOの海上保安庁や沿岸警備隊というのは準軍隊なのです。つまり,戦時には軍隊の予備兵力なのです・・・海上保安法25条で「海上保安庁は軍事的には使用しない」と言っているのですけれども,「変えない」と言っている・・公的武装機関が「俺は戦争を知らない。警察行動するだけ」という国家があるでしょうか(矢野一樹)(p166)
防衛費・・アメリカのミサイル防衛システム,あるいはF25とか高額な兵器を買っています。そうすると国内に落ちるお金は継続的に減っています。結局,防衛産業としてはもうからないから,防衛事業から撤退せざるを得なくなるのです(田母神俊雄)(p75)
・日本に軍備を持たせると戦争を起こすので,二度と戦争を起こさせないために軍備を持たせないというのが日本国憲法9条の原点(p15)
▼引用は、この本からです
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【私の評価】★★★★☆(86点)
目次
第1章 第34代陸上幕僚長:岩田清文氏の告白 〜 戦後最大のタブー:核と憲法 〜
第2章 第29代航空幕僚長:田母神俊雄氏の告白〜 アメリカの日本弱体化計画と戦後日本の実情 〜
第3章 第19代潜水艦隊司令官:矢野一樹氏の告白~ ウクライナ戦争が炙り出した日本の未来 ~
第4章 第26代海上幕僚長:古庄幸一氏の告白〜 戦後日本で起きた、知られざる3つの戦争 〜
著者経歴
第34代陸上幕僚長:岩田清文
第29代航空幕僚長:田母神俊雄
第19代潜水艦隊司令官:矢野一樹
第26代海上幕僚長:古庄幸一
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