【書評】元自衛官の描くリアルな戦争「小隊」砂川 文次
2022/04/20公開 更新

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【私の評価】★★★☆☆(79点)
要約と感想レビュー
ロシア軍が北海道に上陸
2020年9月に元自衛官によって書かれたこの小説は、「ロシア軍が北海道に上陸し、自衛隊と対峙」という設定です。ロシアのウクライナ侵攻の前に書かれており、タイミングがよいとしか言いようがありません。まず、小隊長が近隣住民の避難をお願いして巡回しているところからはじまります。敵を目前にして、こういう雑務もやらなければならないのが自衛隊という諦めがあるように感じました。
小隊長の部隊は、ロシア軍の侵攻を阻止するため防御陣地を構築しています。ロシア軍は上陸後しばらく動かず、自衛隊ではロシア軍がどの方面から侵攻を開始するのか判断できませんでした。そのため小隊長の部隊には、特科(砲兵)が配属されていない設定になっています。上陸前に敵をせん滅するのが軍事の基本ですが、容易に上陸を許してしまうこと、数に限りがあるため特科(砲兵)が配属されないなど、これが自衛隊の現実なのだ、ということを伝えたいのでしょう。
そして、特科(砲兵)が配属されていないまま、そこに敵の機械化旅団、戦車4台、自走りゅう弾砲2台、歩兵戦闘車9台が進出してきたのです。
1コ機械化旅団を、わずかに増強された1コ連隊で阻止しようという我々も相当に愚かだが、その陣地に1コ中隊で突き進んでくる敵も引けを取らない(p92)
人が砲弾でバラバラになる
地雷で敵戦車が破壊され、戦闘が開始されました。戦闘が1時間もすると、敵の自走りゅう弾砲からの砲弾が雨のように降り注ぎ、小隊長の防衛陣地は穴だらけになってしまいます。ロシアのウクライナ侵攻を見てもわかるように侵攻する部隊も守る部隊もプロですから、敵の位置がわかれば攻撃してくるのです。
前線での戦いになれば、双方に大きな損害が出るのは当然です。ここで言う損害とは、人が砲弾でバラバラになったり、銃撃で腕が吹っ飛び、地雷で吹き飛ばされることもあるということです。小隊長の脳裏に「陸自の旅団は何をやっているんだ。空自はなぜ出てこないんだ」などとグチが浮かんでも仕方がないのでしょう。目の前で人が死んでいるのですから。
人肉は、バーベキューソースをつけた肉と、そう見た目は変わらなかった(p110)
戦いとは火力と物量で決まる
ウクライナへのロシア侵攻でもドローンや対戦車兵器が活躍していますが、戦いとは火力と物量で決まるのだと感じました。武器がなければ、物理的に勝てないのです。
また、敵が上陸する前に対処するなどの軍事の基本をどこかで教えてもらえると、理解しやすいのではないかと感じました。他国による侵攻への準備が大切であることがよくわかり、また、このタイミングでこの小説が書かれたのは何か意味があるのでしょう。砂川さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・なんで敵は、なんかすごい精密兵器とかで攻撃してこないんですかね(p48)
・なぜ戦力を小出しにするのだろうか・・・スホーイか何かがおれたちを丸ごと焼き払っちゃうんじゃないだろうか(p84)
・弾丸と一緒にやってくる音と風は、これほどまでに怖いものだとは思いもよらなかった(p90)
・「現戦力で対処せよ!終わり!」なんのための通話だったのか(p105)
・小隊長、怖かったんです・・・多賀城に、妻と、まだ中一の娘がいるんです(p150)
【私の評価】★★★☆☆(79点)
著者経歴
砂川 文次(すなかわ ぶんじ)・・・元自衛官、都内区役所勤務。2014年秋頃、陸上自衛隊操縦学生であった時に書き上げた投稿作「市街戦」で、2016年の第121回文學界新人賞を受賞しデビュー。
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