「正倉院のしごと-宝物を守り伝える舞台裏」西川明彦
2024/08/20公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★☆☆(79点)
要約と感想レビュー
正倉院は東大寺の倉庫
今度、ゆっくり京都や奈良を旅行しようと考えているので手にした一冊です。正倉院は、奈良市の東大寺に隣接し、奈良時代の聖武天皇の遺愛品などを保管している施設です。光明皇后が聖武天皇の49日忌に、聖武天皇の遺愛品を東大寺大仏に献納したのが正倉院宝物なのです。
奈良時代といえば、710年に奈良の平城京に遷都してからですから、1300年前の宝物が保管されているということになります。
正倉院は東大寺の倉庫の位置づけですが、聖武天皇ゆかりの品が収められている北倉の扉の開閉には天皇の勅許が必要となります。そして、正倉院に保管されている宝物は、宮内庁が管轄しているのです。
正倉院宝物は、天平勝宝(てんびょうしょうほう)8歳(756年)6月21日、聖武天皇の七七忌(なななのかき)、いまでいう49日忌に、その遺愛品が大仏に献納されたことを成立の発端とし、その後三度行われた献納に際して収められた品、および東大寺の法要や造営に関連する品々を加えた、計約9千件におよぶ文物群を指す(p1)
宝物の保管と点検
宝物の保管にあたっては、カビ(黴)や害虫や腐朽菌が問題となります。宝物に黴(かび)が認められた場合には、エチルアルコールでふいて殺菌し、害虫が確認された宝物は、窒素ガスを封入して殺虫処理を行っているという。
宝物の保存のために年1回は目視検査や点検をしていますが、人が宝庫に入るときに、黴や害虫や菌が侵入するという皮肉な面もあるのです。
また、平成19年に完成した新庁舎内に宝物の写真のガラス乾板を移した際、感光剤の層が剥離してしまったものがあったという。長年、湿度60%以上で保存されていたガラス乾板を、適正と考えられた湿度40%未満の新しい環境に急に移したことで破損してしまったのです。
保存に関わる作業をすることが劣化を促進するという皮肉な一面もある・・・点検のために宝庫に入る際に、人間とともに虫や空中に浮遊している黴の胞子、あるいは腐朽菌などが侵入する(p71)
宝物の模造品の製作
正倉院事務所では、宝物を再現した模造品の製作が行われています。模造品は奈良時代の姿を再現し、展示等に用いられるのです。ただ、模造しようとしても、1300年の歴史のなかで伝統技術が失われていたり、材料となる象牙や犀角(さいかく)やべっ甲がワシントン条約で入手困難になっている場合があるという。
1300年という時間の長さに、日本の歴史の重さを感じました。正倉院には一度行ってみないといけませんね。西川さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・正倉院宝物のうち舶来品は5%にも満たず、実は9割以上が国産品なのである(p2)
・絹の成分はタンパク質で・・時間の経過とともに分解されて形がなくなってしまう運命を持ち、その寿命は800年といわれている(p102)
・宝物の点検・梱包・輸送・・トラックは揺れを軽減した美術品専用車である・・奈良県警のパトカーをトラックの前後に配し、最徐行でエスコートする(p175)
【私の評価】★★★☆☆(79点)
目次
第1章 正倉院とは
第2章 正倉院をまもる―保存
第3章 宝物をなおす―修理
第4章 宝物をしらべる―調査
第5章 宝物をつくる―模造
第6章 宝物をいかす―公開
著者経歴
西川明彦(にしかわ あきひこ)・・・正倉院事務所前所長。1961年生まれ。京都市立芸術大学美術学部美術科日本画専攻卒業。京都市立芸術大学大学院美術研究科絵画専攻修了。博士(美術)。1988年より宮内庁正倉院事務所勤務、整理室長、調査室長、保存科学室長、保存課長、所長などを歴任。専門、工芸学。
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