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エロい「犬」はなぜ描かれたのか「性と芸術」会田 誠

2024/11/18公開 更新
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「性と芸術」会田 誠


【私の評価】★★★☆☆(77点)


要約と感想レビュー


エロすぎて個展で抗議を受ける

仙台の読書会「鉄塔文庫」の課題本ということで読了しました。会田誠(あいだまこと)さんは、正直知らなかったのですが、代表作「犬」といったエロい作品を作っている芸術家です。どれくらいエロいかといえば、美術館で個展「天才でごめんなさい」を開催したら市民グループから抗議を受けたり、セミナーで話を聞いた人が訴訟を起こすくらいなのです。


当の本人は、東京藝術大学の学生だったときに描いた「犬」は、低俗な変態的なテーマについて、風雅な日本画調で描こうと思っただけだと説明しています。そもそも芸術というものは、何が良いのか悪いのかわからない世界ですので、世俗の価値観では理解できないものなのでしょう。


低俗な変態的画題を、風雅な日本画調で描こうとしました(p14)

ヌードとネイキッド(裸)は同じ

著者は東京藝術大学で油画科に進みます。その油画科では、20世紀の美術の潮流である具象画から抽象画考え方を取り入れた描法が推奨されていたという。ところが、著者は油画科の淀んだ雰囲気になじめず、指導の内容も「西洋からの所詮借り物」に感じ、時代遅れに感じられたという。授業ではヌードの課題もありましたが、著者はほぼボイコットしました。


そもそも西洋美術のヌードは、古代ギリシャ芸術に由来しているとはいえ、見方によっては変態です。著者はそうした矛盾を指摘したのが、エドゥアール・マネの「草上の朝食」であり、自分のエロもマネと同じではないかというわけです。


ケネス・クラーク卿という美術史家が書いた「ザ・ヌード」(1935年)という本・・「ヌードとネイキッド(裸)は違う」という定義から始まる(p88)

俺は藝大唯一の右翼学生だ

文中に「俺は藝大唯一の右翼学生だぜ!」という著者の言葉があり、不思議に思いました。どうやら日本の大学(文化人)は左翼的心情を持っているのだという。つまり、美術業界は「自由と平和を希求する国際的な左翼的心情のネットワーク」と結ばれていたので、著者はそうした美術業界に反発したのです。


だから著者は、西洋の油絵ではなく日本画を描こうと考えたという。日本人なら日本画というわけです。そして普通のエロでは、「目立つこと」はできない。美少女もSMも四肢切断といった過激なテーマを描いたのは計算したものだと著者は説明しているのです。


当時私は「俺は藝大唯一の右翼学生だぜ!」という歪んだ自意識さえ抱いていた(p40)

あえて反時代的な具象画を描く

著者が藝大の学生だったときに描いた、宇宙を表現したという「河口湖曼荼羅」がかっこいいと思いました。しかし著者はあえて、「河口湖曼荼羅」の路線をやめ、反時代的な具象画を描いたのです。


著者は芸術はナンセンスで、究極的にな何も主張しないと語っています。だから芸術は受け取る側に依存するのであり、犯罪の誘発力があるだろうし、逆に「ガス抜き効果」といった抑止力もあると説明するのです。


芸術の世界もたいへんだなと感じました。会田さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言


・私の個展のタイトル「天才でごめんなさい」・・ただ自分を天才と自称している不遜な、あるいはバカな奴と思われただけだった。だがまあ、私のやることは「確信的な誤解作り」みたいなところがある(p36)


・雑なところと緻密なところに大きなギャップがあり、それが偏執的な感性を匂わせる・・カーゼの繊維を一本一本丁寧に描く(p75)


・僕は時々夢想します・・・日本から伝播したコミュ障や引きこもりになり、気がつけば人口増加は抑制され、血なまぐさい部族間抗争をやる闘争心も消え失せ・・地球全体が現在日本のような腑抜けた平和に包まれる日が来ることを(p170)


▼引用は、この本からです
「性と芸術」会田 誠
会田 誠、幻冬舎


【私の評価】★★★☆☆(77点)


目次


1 芸術『犬』全解説
2 性「色ざんげ」が書けなくて



著者紹介


会田誠(あいだ まこと)・・・美術家。1965年新潟県生まれ。91年東京藝術大学大学院美術研究科修了。1993年、レントゲン藝術研究所で開催された展覧会『フォーチューンズ』でデビュー。美少女から戦争画までさまざまな主題を、日本社会への痛烈な批評性とともに提示する。表現領域は、絵画、写真、立体、パフォーマンス、インスタレーション、小説やエッセイ、マンガなど多岐にわたる。国内外の展覧会に多数参加。


鉄塔文庫関係書籍


「八日目の蝉」角田 光代
「絶望名人カフカ×希望名人ゲーテ: 文豪の名言対決」頭木 弘樹
「囚人服のメロスたち 関東大震災と二十四時間の解放」坂本 敏夫
「コルシア書店の仲間たち」須賀 敦子
「掃除婦のための手引き書 ルシア・ベルリン作品集」ルシア・ベルリン
「春にして君を離れ」アガサ・クリスティー
「目の見えない人は世界をどう見ているのか」伊藤亜紗
「珠玉」開高健
「滅私」羽田 圭介
「へろへろ」鹿子 裕文


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