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映画化された「正欲」朝井 リョウ

2023/11/02公開 更新
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「正欲」朝井 リョウ


【私の評価】★★★★☆(81点)


要約と感想レビュー

「正欲」とは「性欲」

タイトルの「正欲」って何?と思っていたら、水が噴出している様子に興奮する人、異性が気持ち悪い人などが出てきて、「性欲」からの造語だと気づきました。世の中には「◯◯フェチ」などと言われる、いろいろな性欲を持った人がいます。ゲイやレズは最近理解を得られつつあり、「脚フェチ」や「うなじフェチ」や「鎖骨フェチ」くらいなら問題ありませんが、子どもへの性加害は重大な犯罪となります。

 
この本に出てくる水が噴出していると興奮する「水フェチ」の人たちは、その性癖を隠しながら生活しており、自分のそのままの姿を出すことができず生きづらくしています。最近、LGBT(エルジービーティー)としてレズビアン (Lesbian)、ゲイ (Gay)、バイセクシュアル (Bisexual)、トランスジェンダー (Transgender)の権利が注目されているのは、人それぞれの性欲を認めようという流れの中にあるということなのでしょう。


・特殊性癖として生まれた人間は、本当に、この世界を傍観するしかないの(p183)


マイナス思考の出演者

出演者の個性の演出だと思いますが、マイナス思考の人が多く出てくるところが引いてしまいました。ある人は、「学校に行けなくたって、好きなものがあって、人との繋がりを保てていれば、どうにか生きていくことはできる」と言っていますが、好きなものがなくても、人との繋がりがなくても生きてはいけると思ってしまうのです。


ある人は、「しんどいよね、年末年始って・・自分が誰の一番でもないってこと、思い知らされる」と孤独な自分をディスるのですが、一人の大晦日とか正月でもいいんじゃないのと思ってしまうのです。ある人には、家族に愛されて育ち、友人や恋人に恵まれるというルートの内側に生まれ落ちることができれば、犯罪に手を染める確率は減ると言わせていますが、不幸な家族に育った人でもちゃんとした人生を送っている人はたくさんいると思ってしまうのです。


・裸足の自撮りがいっぱい出てくるわけ。そっちのほうがAVより全然抜ける日があるんだよ・・SNSに脚フェチの人って死ぬほどいるんだよ(p247)


「児童ポルノ」事件の真相

小説の冒頭で、児童ポルノを所持している男が、公園の水場でネットで知り合った他2人の男性と子供と一緒に遊んでいたことから、3人が逮捕されるという「児童ポルノ」事件が紹介されています。「児童ポルノ」事件の背景が、それそれの人生を描写することで明らかになっていくのですが、他2人の男性はいくら自分が「水フェチ」だと主張しても信じてもらえないというのが、この本のポイントなのです。


私には、この小説が「児童ポルノ」事件を主題にしたことは、近所の少年を集めて野球チームを作り、そこから芸能事務所を作り上げたジャニー喜多川を揶揄しているのではないかと感じました。ジャニー喜多川こそ、自分の性欲を満たすために野球チームや芸能事務所を作り、「児童ポルノ」を芸能界に供給し、芸能界を支配して、人生をまっとうしたのです。この小説が映画「正欲」として稲垣吾郎をキャストして2023年11月10日から公開されるのは、ジャニー喜多川が亡くなったから可能となったのでしょう。朝井さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・職場の飲み会なんて、言い換えれば、誰かのプライベートをほじくることでどうにか乗り切れる数時間、である(p315)


・水が噴き出すという現象に性欲を抱く人生を、ただひとりで生き抜いてきた・・彼氏と温泉旅行で何度もしたなんて言うように、夏月も猛烈に欲望を発散させたい日があった(p154)


・息止め対決をリクエスト・・窒息フェチがいる。風船を使ったゲーム企画をリクエストしている文面の向こう側には、大抵、風船フェチがいる(p252)


▼引用は、この本からです
「正欲」朝井 リョウ
朝井 リョウ、新潮社


【私の評価】★★★★☆(81点)



著者経歴

朝井 リョウ(あさい りょう)・・・1989年岐阜県生まれ。小説家。2009年『桐島、部活やめるってよ』で第22回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。2013年『何者』で第148回直木賞を受賞。2014年『世界地図の下書き』で第29回坪田譲治文学賞を受賞。2021年『正欲』で第34回柴田錬三郎賞を受賞。


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