【書評】「武田の金、毛利の銀」垣根 涼介
2025/03/14公開 更新

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【私の評価】★★★★☆(87点)
要約と感想レビュー
明智光秀とその友人たち
信長に才能を見出された明智光秀が、武田信玄の金山の採掘量と、毛利元就の銀山の採掘量の調査に派遣されるという設定の物語です。明智光秀に同行するのは、光秀の若い頃からの友人である剣術使いの新九郎と、辻博打を行う海賊あがりの愚息です。
信長が武田の金、毛利の銀の採掘量を知ろうとした理由は、戦争で勝つためには兵力だけではなく、戦争を続ける資金力が重要だからです。実際、毛利元就は石見銀山を支配下に置き、産出する銀で海外と交易を行い、その資金により軍事力を強化していました。
毛利元就は・・本拠地の安芸を統一した後・・石見国を支配下に置き、この国最大の銀山を手中にした・・石見から採れた大量の銀で南蛮船や唐船と盛んに交易を行い、ますますその勢力を増した(p7)
金山、銀山の採掘量を探る
武田信玄も、駿河へと侵攻しています。駿河の港をおさえることで、交易により軍資金を稼ごうとしているわけです。そして信長といえば、いずれ戦うであろう毛利と武田で次に戦う相手を判断するために、両者の資金源である金山、銀山の採掘量を探っていたのです。
光秀と新九郎と愚息の3人はまず武田の金山に向かいますが、その道中に出会ったのが、女人二人を連れた土屋です。実はその土屋は武田家の家臣として金山を管理していたという話の流れになるのですが、これ以降は本書でお楽しみください。
信玄の場合、その交易の原資となるのは甲斐国の至る所から算出する甲州金しかない。地味痩せた同地には、他に売る物がないからだ(p7)
モンティ・ホール問題
面白いと思ったのは、愚息の辻賭博での儲けの手法です。
愚息は四つの椀を準備し、一つに石を入れます。客がどの椀に石が入っているのか当てるのです。客が当てれば掛け金の4倍が返ってきます。
しかし、ここから愚息は「このままでは面白くないので、石の入っていない二つの椀を除いて、二つでやってもよい。二つの椀で当たれば倍返し。さらに一銭を戻す」と提案します。客からすれば、確率は半々のままで一勝負で一銭戻すのであれば、回数をやるだけ有利に思えるわけです。
これは確率のベイズ理論やモンティ・ホール問題と同じだと思いました。
客は4つの椀のときに石が入っているだろうと指定した椀を、空の椀2つを除いたときに変えれば勝てるのです。しかし、普通の人は最初に決めたことを変えたがらないので、負けることになるのです。
辻賭博・・四つの椀・・勝てば銭は四倍になって戻って来る・・椀を二つに減らす・・二つに一つ。どちらかに石が入っておる。半々じゃな。勝てば倍にして返す(p15)
大久保長安の人生
武田の領地で出会った土屋は、その後、武田から徳川に拾われ、佐渡の代官や伊豆の金山総奉行などを歴任した大久保長安であるという設定でした。大久保長安の名前は聞いたことが ありましたが、小説で読むと身近に感じ、さらに調べたくなりました。
また、明智光秀を桃太郎とすれば、新九郎、愚息、土屋はイヌ、サル、キジのようなもので、小説としても楽しめました。垣根さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・北海に面する温泉津は、鎌倉末期の頃から山陰屈指の港町として栄えてきた。理由がある。この天然の良港は商船航路の要衝であると同時に、はるかなる平安朝の当時から地元の湯治場として賑わってきた(p174)
・世間では死に際が大事だと言うような馬鹿者がいるが、大きなる見当違いである・・自らが心底好きなことで生きて来たかどうか。この一事のみである。人にどう思われるかは関係ない(p216)
・今の京ではおおよそ、金一匁が銀十匁であり、それが良銭千枚分・・つまりは一貫(千匁)でござります・・ですが甲斐では金一匁につき、兌換率は低い時で六百枚、高い時でも九百枚ほどが相場(p302)
▼引用は、この本からです
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垣根 涼介、KADOKAWA
【私の評価】★★★★☆(87点)
目次
第一章 策謀
第二章 武田の金
第三章 毛利の銀
第四章 乖離
著者経歴
垣根 涼介(かきね りょうすけ)・・・1966年長崎県生まれ。筑波大学卒業。2000年『午前三時のルースター』でサントリーミステリー大賞と読者賞をダブル受賞。2004年『ワイルド・ソウル』で、大藪春彦賞、吉川英治文学新人賞、日本推理作家協会賞の史上初となる3冠受賞。その後も2005年『君たちに明日はない』で山本周五郎賞、2016年『室町無頼』で「本屋が選ぶ時代小説大賞」を受賞。
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