【書評】明智光秀とはどんな男だったのか「光秀の定理(レンマ)」垣根 涼介
2025/03/26公開 更新

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【私の評価】★★★★☆(81点)
要約と感想レビュー
明智光秀とはどんな男だったのか
明智光秀とはどんな男だったのか、小説形式で解き明かす一冊です。
明智光秀は、美濃(岐阜県)源氏の京源氏として活動していましたが、美濃国の斎藤道三の失脚に伴い、明智一族も離散してしまいます。国からの仕送りのなくなった明智光秀は、兵部大輔(ひょうぶだいゆう)の細川藤孝(ふじたか)に仕えることになるのです。
細川藤孝は、幽閉されていた足利義昭を明智光秀を使って救出し、信長の協力を受けて足利義昭を将軍に担ぎ上げることに成功するのです。明智光秀は、細川藤孝、織田信長、朝倉義景など当時の実力者の間で連絡係のように働いていました。その中で、織田信長に認められ、家臣として引き上げられるのです。
京源氏とは、各国の源氏系守護大名が、その有能な血族の一人を、若いうちから京の将軍やその有力幕臣の周辺に近侍させ、そのときどきの京や幕府の情勢を自分の領国に報告させるという、いわば私設外交官の総称のようなものだ(p49)
有能な部下としての明智光秀
明智光秀は、京源氏であったため礼法や文書作成など実務能力が高く、真面目な性格でした。
実際、比叡山の焼き討ちでは、軍議の席で僧侶の殲滅を指示した信長に反対したのは光秀だけだったという。光秀は、その場で信長に一喝されるのです。そして光秀は、信長の指示通り、忠実な部下として虐殺を遂行しました。一方、逆側から攻めあがった秀吉は焼き討ちしているように見せながら、僧侶たちをこっそり逃していたという。
著者は出演者に「武人なら、その時代の必然を倫理で測っては判断を誤る」と言わせています。つまり、倫理や情念がありすぎては、真の賢さには至らない。この現実の世を渡ってゆくことができないというわけです。
侍としての能力の第一は、決して主を見捨てず、実直で、懈怠(けたい)なく働くことであろう・・部下としての有能さとは、それに尽きる(p260)
悪党は生き残る
当時下剋上の戦国時代は、無位無官のの男たちが天下流布を目指し、京を目指しました。著者は、「栄華を夢見て血汗を流し、束の間の虚位に踊り狂い、揚げ句その足を掬(すく)われ、虫けら同然に死んでいった」と表現しています。
つまり、公家は官位を与えて人を狂わす。武士は武力と謀略で人を殺す。僧侶は都合のいい仏の解釈を民衆に信じ込ませ、その上がりで安楽を貪っているのです。
著者の観察では、初志を貫徹しようとする者は、多くの場合、滅びます。なぜなら信長のように自分が蒔いた時代の変化に、自らが足をすくわれるからです。変えられぬ者は、生き残れないのです。だが細川藤孝のような悪党は、その時代に合わせて変わることができるから、自らの勢力と数を維持して、意外に生き残っていくという。
どんなに辛かろうが、そこであがこうがあがくまいが、やがて今という時間は過ぎていく。すべてはすぐに過去となり、良ければ良いなりに、悪ければ悪いなりに収まっていく(p86)
真面目な人は生き残れない
畿内240万石の大名となった明智光秀は、1582年、織田信長を本能寺で討ちました。その後、光秀は細川藤孝に支援を求めますが、細川藤孝は中立を保ち、光秀は秀吉に討たれれるのです。著者は生真面目な光秀が太閤だったら、歴史はどうなっただろうと、言わせていますが、真面目な人は生き残れない世の中であったのでしょう。
どこまでが史実なのか私にはわかりませんが、ワクワクしながら読めました。垣根さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・自分で汗をかいて、必死に実感として分からぬ限り、人様から聞いても何の役にもたたん(p35)
・真理だ。時さえ経てば、生きとし生けるものは、すべて、それなりに収まっていくという真理だ(p85)
・大名にとっての戦力は・・食い詰めた水呑み百姓の次男、三男が、足軽や雑兵(ぞうひょう)として戦場へ出ていく(p189)
▼引用は、この本からです
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垣根 涼介、KADOKAWA
【私の評価】★★★★☆(81点)
目次
第一章 春宵
第二章 決闘
第三章 浄闇
第四章 択一
第五章 上洛
第六章 菜の花
著者経歴
垣根 涼介(かきね りょうすけ)・・・1966年長崎県生まれ。筑波大学卒業。2000年『午前三時のルースター』でサントリーミステリー大賞と読者賞をダブル受賞。2004年『ワイルド・ソウル』で、大藪春彦賞、吉川英治文学新人賞、日本推理作家協会賞の史上初となる3冠受賞。その後も2005年『君たちに明日はない』で山本周五郎賞、2016年『室町無頼』で「本屋が選ぶ時代小説大賞」を受賞。
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