【書評】「ムーア人による報告 (エクス・リブリス)」レイラ・ララミ
2025/10/30公開 更新
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【私の評価】★★★★☆(82点)
要約と感想レビュー
スペインのメキシコ征服
日本の戦国時代の1528年頃、カスティーリヤ王国(スペイン)はメキシコ・アステカ王国を武力で征服し、さらに植民地を拡大しようと新大陸アメリカに探検隊を派遣しました。この本は、その実在するアメリカ探検隊の報告書を、同行した黒人奴隷の視点で書き直したフィクションです。
スペイン国王は、探検隊の司令官デナルバエスに対し、アメリカ大陸を支配させると約束していました。司令官ナルバエスは、コルテスがメキシコのアステカ王国を征服したのと同じようにアメリカ大陸を征服し、金持ちになりたかったのです。
探検隊は、マスケット銃、火縄銃、石弓、剣、槍、短剣、馬兵で武装し、修道士と入植者、運搬人と召使い、奴隷まで引き連れていました。
これは私とともに旅をした三人の カスティーリヤ人(現在のスペイン)紳士がまとめた記録を修正せんと意図するものである(p9)
スペインのアメリカ進出
面白いのは探検隊がアメリカ大陸に上陸後、すぐに原住民は誰もいないのに、探検隊の書記官がスペイン国王の名のもとに巻物を読み上げたことでしょう。スペイン王国は「この土地はキリスト教のものであり、教皇とスペイン王を支配者として受け入れること」と宣言したのです。
そして、「言われた通りにするなら、危害を加えられることはなく、愛を持って受け入れる。しかし要求を拒むなら、あるいは返事を引き延ばすなら、武力によって暴力と破壊をにもたらすだろう。その責任は、あなた方にある」と言ったのです。
現代社会でもロシアや中国や北朝鮮の外務省が発表しそうな内容で、笑いました。
ドランテスはインディアスに一緒に来ないかと私(カスティーリョ)を誘った。そうすれが大金持ちになれる、それか少なくとも、新しい町の市長になれるだろう・・しかし父はそれに反対した。父はすでに病気で息子を一人亡くしていたから、残る一人を征服の旅で失うのを恐れたのだ(p265)
スペインの平和的侵略
スペイン王国は探検隊の後、アメリカに足場を築くと、平和的侵略という方向に方針転換したことがわかります。反抗する原住民は武力で平定しますが、できるだけ武力を使わず、キリスト教を信じるように説得することにしたのです。
主人公の黒人奴隷は、アメリカ探検隊の経験から再びアメリカへ行くことになります。その目的は平和的征服のために、これから交渉する部族について、情報を集めることでした。情報を集めたうえで、現地の部族を騙して改宗させ、土地を奪い、土地を耕すことを強制し、逆らえば、反乱者として殺す作戦です。
ヌエバ・エスパーニャの住人には・・・とても口では言えない恐ろしい仕方でインディオを扱っている人がいます。・・私たちはインディオに対して福音を説くべきです。親切にするべきです(p353)
イスラムから見たキリスト教侵略者
主人公の黒人奴隷は、北アフリカ・モロッコのイスラム教ムーア人という設定です。
当時アフリカの北部は、ポルトガルが武力で植民地とし、税金を徴収していました。つまり、イスラム側から見れば、キリスト教は北からの侵略者であり、主人公はキリスト教のせいで奴隷となり、アメリカ大陸侵略にも駆り出されたという設定なのです。
当時日本にもスペイン人、ポルトガル人が貿易と布教でやってきていましたので、日本の軍事力が弱ければ、同じように侵略されていたのでしょう。当時のご先祖様に感謝です。ララミさん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・ポルトガルに税を納めるための資金や市場で売るための穀物を持っていない農夫たちは、子供を支払いに使わなければならなかった。結婚適齢期の女の子は2アローバ(約20kg)の小麦と同じ値打ちがあった(p99)
・自分の人生を他人の手に委ねた結果、私は既知の世界の果てで道に迷い、おびえていた・・・私をこの状態から救ってくれるのは自分の外にある力しかないとも考えていた・・自分で自分の人生を救わなければならない(p165)
・真実を言えば、私の横にいるカスティーリャ人たちは征服者としてこの土地に来たのだと教えることになる・・・インディオの偶像を破壊してキリスト教に改宗させるつもりだった、と。そんなふうに真実を語れば、仲間も私も死刑になるだろう(p285)
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レイラ・ララミ (著)、白水社
【私の評価】★★★★☆(82点)
目次
フロリダの物語
私の誕生の物語
幻の物語
アゼンムールの物語
進行の物語
売買の物語
アパラチーの物語
セビーリャの物語
アウテの物語
ラマトゥッライの物語
筏の物語
不運の島の物語
三つの川の物語
カランカフア族の物語
イグアセ族の物語
アババレ族の物語
トウモロコシの国の物語
クリアカンの物語
コンポステラの物語
メキシコ・テノチティトランの物語
宮殿の物語
大農場の物語
来客用宿舎の物語
帰還の物語
ハウィクーの物語
著者経歴
レイラ・ララミ( Laila Lalami)・・・1968年、モロッコの首都ラバトに生まれた。母語はアラビア語、小学校からフランス語を習い、ムハンマド五世大学を卒業後、イギリスのユニバーシティ・カレッジ・ロンドンで言語学修士、1992年にアメリカのロサンゼルスに移住して南カリフォルニア大学で言語学博士を取得した。1996年からさまざまな媒体で作品を発表し、2014年に刊行した三作目の小説である本書は、「アメリカ図書賞」、「アラブ・アメリカ図書賞」、「ハーストン・ライト遺産賞」などを受賞したほか、「ブッカー賞」の一次候補、「ピュリツァー賞」の最終候補ともなった。現在はカリフォルニア大学リバーサイド校で創作の教鞭を執っている。
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