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チェス小説「猫を抱いて象と泳ぐ」小川 洋子

2024/02/15公開 更新
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「猫を抱いて象と泳ぐ」小川 洋子


【私の評価】★★★☆☆(76点)


要約と感想レビュー

少年の友だちは象とミイラだけだった

主人公の無口な少年は、唇の上下がくっついて生まれてきました。医師によって切り開かれた傷口には、足の皮膚が移植され、唇から毛が生えて少年はさらに無口になったのです。


少年は小さい空間が好きで、道具箱を改造した小さなベッドに寝ていました。そして道具箱のベッドの中での話し相手が、壁と壁の隙間に挟まって出られなくなった少女ミイラだったのです。なぜ、壁の中が見えるのかは謎でした。


主人公がデパートで好きだったのは、昔、大きくなりすぎてデパートの屋上から降りられなくなった象のインディラの生涯を記録した立て札を読みながら、デパートの空を眺めるインディラを想像することでした。どうやら主人公の少年は、見えないものが見える、変わった子どもなのです。


少年の友だちはインディラとミイラの二人だけだった(p23)

マスターにチェスを学ぶ

少年は近くのバス会社の独身寮で、ふとっちょ管理人と出会います。そしてバスに住む管理人から、少年はチェスを教えてもらうのです。チェスを教えてもらうようになってから、少年は管理人をマスター(チェスの称号)と呼ぶようになりました。マスターは太りすぎて、バスから出るのも一苦労です。デパートから出られなくなった象のインディラを揶揄しているのかと私は想像しました。


狭い場所が好きな少年はやがて、チェス盤の下にもぐり込み、マスターの猫と一緒でないと、落ち着いてチェスができないようになっていくのです。そして、突然、太りすぎのためかマスターはバスの中で亡くなります。


一人残されたチェスの腕前を上げた少年は、チェスクラブで腕を磨きます。そこで出会った手品師の少女は、少年が空想の中で話していたミイラとそっくりでした。こうした流れが作れるのは、小説ならではなのでしょう。


「大丈夫よ、私はここにいる」人形の中に入る時、ミイラが耳打ちした(p149)

リトル・アリョーヒンと呼ばれる

少年は人形の中の狭い空間で、チェスを行うようになり、リトル・アリョーヒンと呼ばれるようになります。実際に、ロシアのチェスの世界チャンピオン、アレクサンドル・アリョーヒンは猫を飼っていたという。


チェスはわからないので、将棋のようなものと考えれば、チェスには、人格のすべてが現れ出るというのもわかるような気がしました。チェスの最善の手筋よりも、美しい手筋があるという表現は、将棋でもあるように思うからです。


不思議な物語でしたが、人は何かを支えにしないと生きていけないのかもしれないと感じさせてくれました。小川さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・考えて考え抜く。それが大事だ。偶然は絶対に味方してくれない。考えるのをやめるのは負ける時だ。さあ、もう一度考え直してごらん(p54)


・口のある者が口を開けば自分のことばかり。自分、自分、自分。一番大事なのはいつだって自分だ。しかし、チェスに自分など必要ないのだよ(p285)


・家具に残った窪みや染みやささくれは、それを使った人の形見さ。だからおじいちゃんは家具を修理している時、いつもそういう人たちを会話している(p73)


▼引用は、この本からです
「猫を抱いて象と泳ぐ」小川 洋子
小川 洋子、文藝春秋


【私の評価】★★★☆☆(76点)


著者経歴

小川 洋子(おがわ ようこ)・・・1962(昭和37)年、岡山県生れ。早稲田大学第一文学部卒。1988年「揚羽蝶が壊れる時」で海燕新人文学賞を受賞。1991(平成3)年「妊娠カレンダー」で芥川賞受賞。主な著書に『やさしい訴え』『ホテル・アイリス』『沈黙博物館』『アンネ・フランクの記憶』『薬指の標本』『夜明けの縁をさ迷う人々』『猫を抱いて象と泳ぐ』等。2004年『博士の愛した数式』で読売文学賞、本屋大賞を受賞。『ブラフマンの埋葬』で泉鏡花文学賞、2006年『ミーナの行進』で谷崎潤一郎賞受賞。


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