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「ジュリアン・バトラーの真実の生涯」川本直

2023/04/12公開 更新
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「ジュリアン・バトラーの真実の生涯」川本直


【私の評価】★★★★☆(89点)


要約と感想レビュー

オカマ小説

いきなり「ホロヴィッツが弾くチャイコフスキーのピアノ協奏曲一番は、オカマのオカマによるオカマのための讃美歌だ」と、オカマ三連発ではじまる小説です。確かに、ピアニストのホロヴィッツもチャイコフスキーもゲイであったという。タイトルのジュリアン・バトラーとはアメリカのオカマ小説家です。この本は、バトラーの愛人であり覆面作家であった89歳のジョージ・ジョンが、人生の総括としてバトラーとのエピソードを回想したものなのです。


ジュリアン・バトラーがデビューした1950年代アメリカでは、同性愛は変質者と考えられていました。キリスト教が同性愛を禁止していることもあり、異性装をしていれば殴られる可能性もあったのです。学校を卒業したバトラーは、暇つぶしにジョンとの同性愛の生活を小説にまとめます。その下品でスペルミスの多い原稿は、読書家のジョンの手によってまともな小説としてリライトされ出版されるのです。ただ、二人の少年の愛の小説は保守的なアメリカの出版社では引き受けてもらえず、性に寛容なフランスで出版することになるのです。


・そろそろ同性愛を正面切って描いた小説がアメリカでも現れていいはずだと思った(p82)


同性愛者たち

面白いのは、徹底して同性愛の事例が出てくるところでしょう。実は才能豊かな人には、同性愛者の比率が多いのではないかと思いたくなるくらいです。古代ローマ時代の小説「サテュリコン」には淫らな男女の性や少年愛が描かれており、古代ローマ皇帝ネロは少年スポルスを去勢して結婚しているのです。また、19世紀の作家オスカー・ワイルドはゲイで逮捕されました。「狭き門」を書いたアンドレ・ジッドが、少年を好きだったということにもショックを受けました。


セレブやオカマが集まるファクトリーを運営したアンディ・ウォーホルや『ティファニーで朝食を』のトルーマン・カポーティなど1960年代に活躍した有名人とのどたばた劇が笑えました。後半、バトラーとジョンはイタリアに移住するのですが、同性愛者であり、イタリアに移り住んだ小説家ゴア・ヴィダルを意識しているようにも感じました。 


・フーヴァーは隠れホモだよ・・それもホモ嫌いのホモ。ホモの有名人や政治家を陥れることが大好きなんだって(p158)


ジュリアン・バトラーはフィクション

読んでいくと、あとがきとして川本氏がバトラーにインタビューする場面が出てきます。おや?この本の著者は川本氏でありジョージ・ジョンではないし、ジュリアン・バトラーをgoogleで検索しても出てこない。実はこの本は翻訳ではなく、川本氏のフィクションであったのだ!と、やっと気づきました。


圧倒的な表現力で文学史上の人物をジュリアン・バトラーとジョージ・ジョンの目を通して感じることのできる小説だと思いました。どこまでがフィクションで、どこまでが事実なのか、「本当なのだろうか」と検索しながら楽しめます。川本さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・オスカー・ワイルドが嫌い・・フィッツジェラルドがダイヤになぞらえ、ヘミングウェイが酔いどれたホテル・リッツ(p133)


・「ニューヨーカー」・・編集長のハロルド・ロス・・無知無教養の田舎者、ギャンブル狂の漁色家で、おまけに極度の同性愛者嫌いとくる(p91)


・女の子を口説いて連れ帰り、フランス人が「五時から七時まで」と呼ぶ情事を楽しむ(p133)


・書くことは究極的には教えられません。ですが、読むことは教えられます。読めば書くうえでの引き出しができます(p148)


▼引用は、この本からです
「ジュリアン・バトラーの真実の生涯」川本直
川本直、河出書房新社


【私の評価】★★★★☆(89点)


目次





ジュリアン・バトラーを求めてーあとがきに代えて



著者経歴

川本直(かわもと なお)・・・1980年東京都生まれ。デビュー小説『ジュリアン・バトラーの真実の生涯』(2021年)で第73回読売文学賞(小説賞)、第9回鮭児文学賞を受賞。他著書に『「男の娘」たち』、共編著に『吉田健一ふたたび』。


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