「野村証券第2事業法人部」横尾 宣政
2022/04/19公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★★(94点)
要約と感想レビュー
オリンパス粉飾決算事件で有罪
「ノルマ証券」と呼ばれる野村証券がどういう会社だったのか、オリンパスの巨額粉飾決算事件で有罪となった著者からその内部を教えてもらいましょう。著者は、バブル初期の1978年からブラックマンデーのあった1998年まで野村證券の中でトップ昇進してきました。
「ノルマ証券」というだけあって、商品を売ることを「客を嵌め込む」と表現しています。外債を熱心に売っていた田淵常務が「最年少の著者があれだけ客を嵌め込んでいるのに、第1事法は何をやっている!」と怒鳴ったエピソードを紹介しています。いかに顧客に損するかもしれない商品を買わせることが、仕事だったのです。
著者は営業トップとなりますが、慣れてくると「そろそろこの客は破産するな」ということがわかるようになったという。客が破産しそうになると、次のターゲットを探すということを繰り返していたのです。トップとなるということは損をして破産する客が増えるということです。そこで著者は、2億円や3億円損しても困らない大会社や大金持ちだけを客にすることにしました。その結果なのかどうかわかりませんが、著者は野村證券の本店に異動することになったのです。ちなみに167人いた私の同期のうち、69人が1年以内に辞めています。
・当時の証券会社にとってファミリーファンドは・・・「最後のゴミ捨て場」に過ぎなかった・・・相場を作り、最後に引き取り手がいなくなった銘柄も、ファミリーファンドに投げていた・・・購入直後から値下がりを続ける一方(p33)
野村証券の強さの根源
現場で実績を残した著者は27歳で野村證券の第2事業法人部に異動となります。事業法人部とは、首都圏の上場会社とその子会社の資金運用からファイナンスまですべて担当しており、野村證券の中心ともいえる部署です。実際、事業法人部から多くの役員が排出されています。著者は第2事業法人部の最年少メンバーとして、外債販売で大儲けをします。「分割払込債」「天国地獄債」「ゼロクーポン債」「デュアルカレンシー債」など複雑な仕組みの債権でリスクは高いのですが、手数料が高く証券会社は儲かったのです。
また、バブル相場の頃には野村証券はシナリオ相場といって、円高、金利安、原油安によって電力会社やガス会社を顧客に買わせていきました。東京湾岸に土地を持つ石川島播磨重工業や東京ガス、日本鋼管(NKK)をウォーターフロント銘柄として売りまくったのです。いかに客に買わせるのか、ある意味無理やりにでも買わせるのが野村証券の強さの根源であったのでしょう。
・仕切り商い・・・最初に両銘柄を同株数買っておき、仮に一方が30円値上がりすると、これを売ってもう一方を買い増す・・このパターンを一定期間繰り返すと両銘柄の株価は簡単に値上がりしていった(p40)
オリンパスの財テクの実態
後半はオリンパスの財テクの実態と、著者が有罪となった巨額粉飾決算事件にいかに巻き込まれたのかが説明されています。真偽は私には判断できませんが、ブラックマンデーによってオリンパスが300億円もの損失を発生させたこと。著者がワラントと鉄鋼株を使い、約8カ月でオリンパスにこの損失を穴埋めしたことは事実なのでしょう。オリンパスを儲けさせたのは著者だけだったのです。
著者の主張によると、オリンパスに対し財テクから手を引くように進言したにもかかわらず、オリンパスの山田氏は財テクを続けたというのですが、著者はオリンパスとの関係を深めてしまい、結果して関係者として有罪となってしまうのです。オリンパス事件については真偽がわかりませんが、前半の野村證券の現場の雰囲気が伝わってきてワクワク読めました。バブル時代に最前線で活躍した著者の口を借りて、野村証券を知ることができるので★5としました。
横尾さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・慣れてくると「この辺りの客はそろそろ潰れるな」と分かるようになった。そのタイミングで新規顧客開拓の外交を始め・・コミッションは安定的に入り始めた(p52)
・群栄の主幹事証券は野村なのに、なぜ海外のエクイティファイナンスの主幹事は、野村ではなく日興なのか。理由は簡単だ。調印式のために欧州に出かけた有田一族に・・1カ月間も、豪華なホテルに宿泊して欧州中を観光して回るのである(p113)
・1985年10月、山一証券から「必ず保証するから1000億円でも、2000億円でも売買してくれ」と言われた東洋エンジニアリングは、「そんな不埒な真似をする会社とは絶対に売買しない」と断ったという(p130)
・北尾課長席が自ら歩み寄ってきた・・助けてほしい。昭和シェルの特金の損がブラックマンデーで500億円に膨らんでしまった(p149)
【私の評価】★★★★★(94点)
目次
第1章 ノルマとの闘い
第2章 「コミッション亡者」と呼ばれて
第3章 「主幹事」を奪え
第4章 ブラックマンデーと損失補填問題
第5章 大タブチ、小タブチ―「ノムラ」な人々
第6章 やりすぎる男
第7章 さらば、野村證券
第8章 オリンパス会長の要請
第9章 オリンパス事件の真相
第10章 人質司法の生贄
第11章 司法ムラの掟
著者経歴
横尾宣政(よこお のぶまさ)・・・1954(昭和29)年、兵庫県出身。78年に京都大学経済学部を卒業後、野村證券に入社。金沢支店を皮切りに、第2事業法人部、浜松支店次席、営業業務部運用企画課長、高崎支店長、新宿野村ビル支店長などを歴任。1998(平成10)年5月、野村證券を退社・独立し、コンサルティング会社「グローバル・カンパニー・インコーポレーテッド」(GCI)を設立して、社長に就任。2011(平成23)年に発覚したオリンパス粉飾決算事件で粉飾の「指南役」とされ、2012年2月には証券取引法・金融商品取引法違反の共犯容疑で逮捕・起訴。詐欺、組織犯罪処罰法違反の容疑も加えられるが、当初から一貫して否認を続け、2年8ヵ月にわたって東京拘置所などに勾留された。保釈後も無罪を主張して争ったものの、2019(平成31)年1月に上告を棄却され、実刑判決が確定して収監される。
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