【書評】「ほんまに「おいしい」って何やろ?」村田 吉弘
2025/06/23公開 更新

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【私の評価】★★★★★(91点)
要約と感想レビュー
日本料理の危機
京料理のお店「菊乃井」三代目主人から、日本料理がいかに存続の危機を脱出してきたのか教えてもらいましょう。日本料理の危機は、バブルが崩壊し、洋食が一般化し、公務員の接待禁止が厳格化された2000年頃が一番苦しかったという。お客が減り、廃業する日本料理店が増えていったのです。
一部の料亭は一人五万円というような高級路線に走ったり、外国人客をターゲットにしたりして生き延びました。
しかし、著者は一人五万円という高級化は違うのではないかと主張するのです。著者の考え方では、日本料理とは地域の人々のための「公共の施設」だというのです。例えば、法事とか、結納とか、七五三とか、そういう日に「菊乃井さん、予約しとくわ」と使われる場所なのです。
だから菊乃井では、コロナ禍でも日本のお客さんが絶えることはなく、今でも外国人客は4割以上取らないようにしているというのです。
「お金さえ出せば」・・・そういう「輩」を相手に商売をする人達が私らの仕事の分野で増えました・・半年も予約が取れない・・予約を取りたい「輩」が増える(p45)
日本料理アカデミーの設立
では、日本料理店はどうやって生き延びるべきなのか。著者は日本料理を世界に認知させようと考えました。
著者は若き日のヨーロッパで日本料理がまったく認知されていないという経験から、日本料理を名実共に世界の三大料理にすることが必要だと感じていました。日本料理という文化度の高い、多彩で懐石のような体系的な統一性のある料理があることを世界に知らしめたいと思ったのです。
そのために著者は京都の大学と連携して、2004年に日本料理アカデミーを立ち上げました。京料理を科学的アプローチでその味と技術の本質を明らかにして、学問的・文化的に定義し直してみようとしたのです。
まず目標としたのは「うまみ」を世界中に広げること。いま現在、世界の料理人は、会話のなかで不通に「UMAMI」を使うようになったという。
文化的なクオリティにおいては日本料理はフランス料理にも負けへん。それをきちんとした位置付けのもとに世界の人たちに認めてもらう。名実共に世界の三大料理にする。このことをライフワークにしようと思い、以降50年、ずっとやっています(p128)
和食の無形文化遺産登録
著者はフランス料理のように、和食をユネスコの無形文化遺産に登録してもらおうと考えました。韓国も韓国料理を無形文化遺産に登録しようとして、ユネスコ本部の食堂で二週間、「韓国料理の無料食べ放題」というロビー活動を行いましたが、登録されなかったという。
一方、日本政府は著者の活動にほとんど協力せず、お金も出してくれなかったといううらみがあるのです。そんなとき協力してくれたのは、友人のアラン・デュカス氏です。デュカス氏の店にヨーロッパ中のメディアを招いて、著者が日本料理を振る舞うというイベントを開いてくれたという。
幸いにも2013年に「和食」が無形文化遺産に登録されましたが、日本国は「文化」にお金を出せない国であり、何ともかっこ悪い国なのです。フランスでは文化省が省庁のランクで一番上で、次いで財務省というのですから、日欧の差は大きいのです。
広島サミット・・シェフも一番若いスタッフも関係なく「日当、一人1万5000円」なり・・外務省さん、もう少し何とかなりまへんか(p20)
料理人は人々を幸せにできる仕事
タイトルの「ほんまに「おいしい」って何やろ?」の意味は、50年以上プロの料理人として働いてきた著者が、今でも、ほんまに「おいしいもの」「うまいもの」って何やろと思い、その答えを追い求めているということです。
そして料理人という仕事は、人々を幸せにできる仕事であると定義しています。お客様からお金を払ってもらい、「おいしかったわ、ありがとう」と言ってもらえるのですから、楽しく幸せな仕事なのです。
著者はプロの料理人として、料理を通して社会に貢献するという覚悟を先輩の料理人から受け継いできたとしています。お金を超越した料理人の心意気を感じました。冨安さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・「うちはワーカーを育てているわけではない。レシピを見ながら仕事をするのではなく、レシピを作る方の人間になれ」ということでやっている(p224)
・「もうちょっと控えめにせえ」・・「いっぱいいっぱいにしない」というところに心の「ゆとり」とか「余裕」が生まれてくる。それが「料理の残心」であり「残心のある料理」(p190)
・「週五回のうち四回はパンで、一回がご飯」というのは、どう考えてもおかしい。いまは週四回がご飯です・・・なぜ、ご飯の時に牛乳を飲ませるのでしょうか(p155)
・85歳のおじいちゃんが・・ただ油で揚げて味噌がかかっているだけのふきのとう。それを食べて、「ああまた春が来て、生きていて良かった」とおっしゃった・・料理とは結局、そういうものやと思っています(p75)
▼引用は、この本からです
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村田 吉弘 (著)、集英社
【私の評価】★★★★★(91点)
目次
第1章 広島サミットでお好み焼きをやりました
第2章 料亭、料理屋、料理人って何や?
第3章 料理人修業「青春篇」
第4章 料理人修業「立志篇」
第5章 「和食」は、無形文化遺産にふさわしい
第6章 「私の食の履歴書」
第7章 「おいしい」言い過ぎちゃうか?
第8章 料亭、料理屋はハッピーハウスである
著者経歴
村田吉弘(むらた よしひろ)・・・1951年京都で生まれる。立命館大学在学中にフランス料理研究のため渡仏。半年後帰国。大学を卒業後、日本料理の道に進むため、名古屋の料亭「か茂免」で三年間修業を積む。京都に戻り「菊乃井 木屋町店(現・露庵 菊乃井」)を開店。1993年、父親のあとを継いで「菊乃井」三代目主人になる。首都圏の高島屋各店に「菊乃井」売り場を開設したのち、2004年に「赤坂 菊乃井」を開店。2007年に創刊された『ミシュランガイド東京』で「赤坂 菊乃井」が二つ星を獲得、現在にいたるまで二つ星獲得を続けている。現在まで京都、東京併せて七つの星を獲得し続けている
料理人関連書籍
「ほんまに「おいしい」って何やろ?」村田 吉弘
「三流シェフ」三國 清三
「少数精鋭の組織論」斉須 政雄
「厨房の哲学者」脇屋 友詞
「ホテルオークラ総料理長の美食帖」根岸 規雄
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