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「少数精鋭の組織論」斉須 政雄

2022/04/04公開 更新
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「少数精鋭の組織論」斉須 政雄


【私の評価】★★★★★(95点)


要約と感想レビュー

 東京・三田の「コート・ドール」といえば、背伸びをした大学生だった私も知っていた有名なフレンチレストランです。著者の斉須さんは「コート・ドール」料理長からオーナーシェフとなり、現在までこの店を引っ張ってきたのです。この本の行間から伝わってくるのは、一日三回の掃除を徹底し、おいしい料理を提供する。足りない点があれば、反省し、改善し、やりなおし、店を継続させてきたという著者の自信です。


 しかし、その一方で何度も出てくる「安定を求めると停滞する」「ぬるま湯は危険」という言葉が印象的で、新しい料理を提供していくと言いながら、その一方で、ギリギリだと事故が起きるから注意事項は文章にしてスタッフに周知しています。「挑戦と無茶はちがう」と断言するようにオーナーシェフだからこそ、安定の怖さも挑戦することの怖さも経験してきたということなのだと思いました。


 ただ、残念なのは自分がレストラン業界の知識がまったくないので、著者の苦しさが理解しにくいところです。著者の「打たれて傷だらけ。焦りや悔しさでおかしくなる。それでも、夢は離さない方がいいし、基本もはずさない方がいいんです」という言葉を正確に理解しているという自信がないのです。


・誰も体はひとつ、・・・違うのはやるかやらないだけ・・・何回も反省し、やりなおし、疑問をもつ。しつこい時間を蓄積していく・・・。基本を徹底することが堅牢な自立の方法ではないでしょうか(p7)


 驚くのは、著者が「技術」と考えるのは、新しいアイデアを商品化する力ということです。おいしい料理を作るのは当たり前で、清潔な店舗を維持するのも当たり前なのです。教えるに教えられない「技術」、一緒に働くことでしか学ぶことができない「技術」とは、仕事をしながら新しいメニューを創り出し、商品として定着させる力なのです。もちろん通常の仕事の中で余裕があるわけではありません。厨房は五名で間に合うか、間に合わないかギリギリの人数で回しているのです。そうしたギリギリの通常の仕事の中で、今ある材料の中から、どのようなメニューを出していくのか考えるのです。


 そうしたギリギリの運用を続けることで、自分の得意を伸ばし、スタッフに学び、最終的には人としての魅力や、組織をまとめていくコツを学ぶのでしょう。はっきり書いていませんが、スタッフとの人間関係では苦労してきたことも伺えます。イエスマンだけでもだめだし、技術ができるだけでもだめということなのでしょう。かといって技術だけではギスギスするし、チームで切磋琢磨できるのが理想なのでしょうか。


 私のような会社員との共通点としては、「失敗のないよう二重三重のチェックをするシステムを設ける。それを文章にして伝える」というところです。やはり誰でも失敗はするので、それを避けるには紙に書いて常に抜けがないようにするしかないのでしょう。


・外見からは人間性を知ることはむずかしい・・・言動が誤解されてヘンな不満が集団で噴出することも越えなければならず、組織を牽引することは、使用人の対極にあると実体験からわかりました(p63)


 著者がいつも職場でスタッフに対して「自立して、なりたい自分になるのがいいよ」と言っているように、「コート・ドール」という店を通じて、人を育てているのだと思いました。著者ができるのは、「コート・ドール」の仕事を通じて、基本を学んでもらうこと。そして仕事の基本は、掃除にあると断言しています。松下幸之助のようなことを言う人ですね。


 広告は出さず、口コミ一本で勝負してきたというように、日本の一流レストランを少数組織で維持してきた著者の言葉には迫力がありました。そして、料理の世界に入ったのは、母親に「がんばったね」と言ってもらいたいだけだったかもしれないと、鬼滅の刃の煉獄さんのようなことを告白していることころも泣けるではないですか。


 文句なく★5としました。斉須さん、良い本をありがとうございました。


この本で私が共感した名言

・人と違うからたのしい。ぼくも周囲と一緒にならなければと思うと苦しかったのですが、自分は自分だと思えた頃から毎日が楽しくなりました(p33)


・「トイレの音を、極力外に漏らさないよう、水を流しきってからドアを開けましょう・・・センスとは、日常のすべてにつながる気くばりです(p33)


・自分の力しか頼れないからおのずと能力の範囲を自覚します。何が得手が不得手かがわかると、得手以外を削ぎおとしてゆくのです(p34)


・ヘンかどうかは、出してみないとわかりません。好評ならばスタンダードとして定着しますから(p43)


・利潤優先か、信頼ができる相手なのか、チームメイトは厳しく見つめています(p68)


・イエスマンばかりの環境にしないのがいちばんです。調子に乗っていたらやられる、ものを学ぶひたむきさは後輩に見習う点も多いぐらいでちょうどいい(p71)


・「何で、こんな人が・・・」と、はじめはそう思うのですが・・・人としての魅力を持っている人は、まわりが支えているんです。ひとりの能力やがんばりだけでは、なかなか到達できない領域があります(p166)


▼引用は、この本からです
「少数精鋭の組織論」斉須 政雄
斉須 政雄、幻冬舎


【私の評価】★★★★★(95点)


目次

第1章 大組織では自立ができない?
第2章 大成功を求めるとあぶない
第3章 飽きられないサービスとは
第4章 小組織だからできることは



著者経歴

 斉須政雄(さいす まさお)・・・1950年生まれ。1973年よりフランスに渡り、1985年に帰国するまでの12年間、複数の三つ星レストランで働く。その頃に出会った料理人たちの姿を理想として、自らがオーナーシェフを務める「コート・ドール」にて、現在も現場の最前線に立ち、チームを牽引している


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