「厨房の哲学者」脇屋 友詞
2024/03/22公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★☆(80点)
要約と感想レビュー
とにかく三年我慢しなさい
中華のアイアンシェフ脇屋 友詞さんの人生を描いた一冊です。ガキ大将だった脇屋さんは、父親から「友詞には食神がついている。だから食の道に進め」、と言われ、中卒で「山王飯店」の寮に入ります。
「山王飯店」は中国人が30人も働くという本場の中国料理を出す一流店でした。著者は毎日ただ鍋洗いをさせられたのです。同期はどんどん辞めて、一年後残ったのは自分を含めて二人だけだったという。脇屋さんは中卒で働くと決まったとき、自分だけが人生から締め出された気がしたといいます。しかし、母親から「とにかく三年我慢しなさい」と言われていたので、とにかくひたすら鍋を洗ったのです。
脇屋さんは親方の調理を見ながら、料理のレシピと調理方法を盗みました。自分にはこの道しかないのではないか。そうした思いから、早朝に鍋や包丁の使い方を訓練したのです。そうしているうちに親方から、なぜか可愛がられるようになったという。今になって思えば、それは自分が一所懸命だったから。中卒の子どもが必死に中国料理を学ぼうとし、親方をサポートする姿に、親方たちは嬉しかったのです。
「三年、とにかく三年我慢しなさい、三年必死に頑張ってそれでも駄目だったら、何でも好きなことをしてもいいから」あの三年のおかげで、母のあの言葉のおかげで五十年やってこられた。天国の親父とお袋には感謝の言葉しかない(p233)
どん底で新しい中華料理を作る
脇屋さんは「楼蘭」「東武ホテル」「東京ヒルトンホテル」「キャピトル東急ホテル」など、中華の一流店を渡り歩き腕を磨きました。その後、立川リーセントパークホテルの中国料理長と引き抜かれたときには、オーナーから「一切口を出さない」条件で移籍しています。
後輩も全員が一緒に立川に行きたいと言ったというのですから、脇屋さんに人を惹きつける魅力があったことがわかります。しかし、立川では三ヶ月閑古鳥がなく日が続きました。いくら美味い料理を手頃な値段で出しても、立川まで人がやってくるはずがないのです。
試行錯誤をする中で脇屋さんは、中華の大きい皿から取り分けるスタイルから、フランス料理のように一名分のコースメニューを作りました。ディナーショーでも中華を出すようにしたら、さらに評判となったのです。脇屋さんのフランス料理スタイルの中国料理はヌーベル・シノワ、つまり新しい中華料理と呼ばれるようになったのです。
一名分のコースメニューを作った。盛りつけもすべて一人分ずつ皿に盛ることにした・・お客さんが入らなくて困っていたから思い切ってやれたのだ(p171)
目の前のことに取り組んでみる
脇屋さんは、今自分の目の前にあることに、とりあえず必死で取り組んでみることを勧めています。もし、夢がなくても焦るのではなく、目の前にあることをやってみるということです。だめなら、別のことに挑戦すればいいのです。そうしているうちに、自分が打ち込むべき道が見えてきたら、それを続けていけばよいのです。
成功する人は負けず嫌いだな、と思いました。また圧倒的な努力により、量が質に変換するということもあるのでしょう。脇屋さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・僕は親方たちを通して僕に伝わった昔ながらの仕事を中実に守ることにこだわった。それに勝る美味しいものを作る方法はないから(p174)
・誰もいない夜更けの厨房で、新しい中国料理を考えるのは、僕の至福の時間だった。図書館から借り出した古い中国料理の本に読み耽っているうちに、何度朝を迎えたことか(p175)
・香港島の中心部、湾仔の五つ星ホテル、グラインドハイアット香港のワン・ハーバー・ロードで皿洗いをしたこともある。1996年の暮れだ・・三か月無給で働いた(p192)
【私の評価】★★★★☆(80点)
目次
第1章 開かずの踏切
第2章 母と中華鍋
第3章 雨垂れ石を穿つ
第4章 魯山人の末裔
第5章 砂利道とホテル
第6章 デ・ニーロの窯
著者経歴
脇屋友詞(わきや ゆうじ)・・・1958年北海道・札幌市生まれ。中国料理シェフ。中学卒業後、赤坂「山王飯店」、自由が丘「桜蘭」、東京ヒルトンホテル/キャピトル東急ホテル「星ケ岡」等で修行を積み、27歳で「リーセントパークホテル」の中国料理部料理長、1992年に同ホテル総料理長になる。1996年、「トゥーランドット游仙境」代表取締役総料理長に就任。2001年、東京・赤坂に「Wakiya一笑美茶樓」、2023年12月に「Ginza 脇屋」をオープン。東京で4店舗のオーナーシェフを務める。2010年に「現代の名工」受賞。2014年、秋の叙勲にて黄綬褒章を受章。2023年に料理人人生50周年を迎えた。公益社団法人日本中国料理協会会長。
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