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「自衛隊失格:私が「特殊部隊」を去った理由」伊藤 祐靖

2020/08/17公開 更新
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【私の評価】★★★★★(92点)


要約と感想レビュー

 著者は1999年(平成11年)に海上自衛隊護衛艦の航海長として北朝鮮の不審船取り逃がし事件に遭遇。不審船に対し海上警備行動発令される中で北朝鮮の不審船(工作母船)が突然停止。立入検査を行なうことになってしまった。


 当時の海上自衛隊には防弾チョッキもなく下士官の射撃訓練も不十分であり、工作員と戦える状況ではなかったという。前の大戦での特攻隊や敵機関銃を前にしたバンザイ突撃と同じ状況になってしまったのです。


 幸いというか不審船は逃走を再開し、北朝鮮の港に戻りました。自衛隊はまったく実戦の準備ができていなかった、という事実だけが残ったのです。


・艦内には防弾チョッキさえも装備されていなかった・・・それなのにいきなり北朝鮮の工作母船に乗り込め、というのだ・・・北朝鮮の工作母船には自爆装置が装備されている。どう考えても、立入検査隊は任務も達成できないし、確実に全滅する・・・食堂に再集合してきた立入検査隊の表情は一変していた。胴体には防弾チョッキのつもりか、『少年マガジン』がガムテープでぐるぐる巻きにしてあり、そんな滑稽な姿の彼らだったが笑えるどころではなかった・・・半世紀以上前に特攻隊で飛び立って行った先輩たちも、きっとこの表情で行ったに違いない(p199)


 この事件の反省から、海上自衛隊では特殊部隊を設立することとし、著者は特別警備隊準備室に異動しました。ところが、準備室は4名しかおらず、3か月後に訓練開始、1年後に特殊部隊創設、その1年後に実践配備だという。


 特殊部隊というものがわからない中で、たった4名で人材を集め、カリキュラムを考え、装備や基地の設計と予算申請。やったことのないことをこの人数でやれるはずがないのに自衛隊ではできてしまう。なぜなら、形だけ整える。これをできる人が出世していくのです。


・実戦配備になるまで2年3カ月しかない・・・こういう無茶な話は、自衛隊ではよくあることである。何人もの業務を一人が行わなければならない。どう考えたって無理なのに、なぜかいつもできてしまう。それは、形だけ整えるからである(p213)


 著者は8年在籍した特殊部隊から異動を命じられ、退職することにしました。特殊戦についてもっと技術を習得し、日本に貢献したいからだそうです。


 本書のタイトル「自衛隊失格」とは、自衛隊が失格なのではなく実戦で勝つためだけに打ち込んできた自分が、自衛隊という組織に合わなかった。同じように陸上自衛隊の特殊部隊の初代指揮官も退職してしまった。二人とも形だけ整える人が出世する自衛隊員としては失格であったという意味に理解しました。


 伊藤さん、良い本をありがとうございました。



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この本で私が共感した名言

・デスクでの議論で予算獲得のための理屈を思いついたり、きっちり予算を執行する手法を考える力に長けた人が幅を利かせる・・・じゃあ、なんのための組織なんだ。俺は何に向けて、自分のすべてを捧げようとしているのか・・・自衛隊内の評価に対するこの不満は、退職するまで続いた(p126)


・いったいなぜ任務を達成できず、全滅するとわかっているのに彼らを行かすと決めたのか・・・それでも彼らは工作母船に乗りこもうとした(p207)


・特殊警備隊準備室・・・準備室員は準備室長と私と翌日着任する幹部一名と経理担当の下士官一名、総勢四名しかいないという。びっくりである。今回ばかりは政府が本気なので、自衛隊も本気なのだと思っていたが、実は自衛隊が得意とする「本気じゃないモード」だったのだ・・・特殊戦という概念すら存在しないこの国の中に特殊部隊を創ろうというのに、創設準備のメンバーが四人しかいないのだ(p211)


・私が海上自衛隊を中途退職した一年後に、陸上自衛隊の特殊部隊、特殊作戦群の初代指揮官である荒谷卓(たかし)氏も中途退職した。「やっぱり無理だよな・・・」と思った(p255)


・入隊の前日、すっからかんになった部屋で父に遺書を書き、遺髪を同封した・・・父は、「はい」と遺書を受け取り、「ご苦労なことです」と私に軽く頭を下げたのである・・・軍国ばばあは・・・痩せた小さい身体から射るような視線を向けて言った。「女々しいことをするくらいなら死を選びなさい」さすが「軍国ばばあ」である(p47)


・「規則に従うか従わないかはお前の自由だ」・・規則があるからといって自分が間違っていると思うことをするな、正しいと思うことをして罰を受けろ、というのだ。魅力を感じたのは、父の主体的に生きる先に私欲がないことだった(p28)


・「お前は、防大に何をしに来たんだ?」・・・驚いたことに、答えが三種類しかなかった。「授業料が無料だから」「誰々に勧められたから」「幹部の道が約束されているから」これが20歳前後の若者の発言か?私は全員に言った。「お前は亡霊だ。自分の意志で『これがしたい!』というものがないのか?他人の目ばかり気にしやがって・・・混乱している自分の感情を学生にぶつけていた(p145)


・「やってみて、言って聞かせて、させてみて、誉めてやらねば、人は動かじ」この山本五十六の有名な言葉が、至る所に掲げられていた。なのに、行われていることは正反対で、指導者が模範の動作などを展示することはまったくなく、わずかな説明をしただけで我々にやってみせて、「どうして、できないんだ!」と怒る(p59)


・「戦うも亡国、戦わざるも亡国。戦わずしての亡国は、魂までも喪失する永久の亡国なり。たとえいったん亡国となろうとも、最後の一兵まで戦い抜けば、我らの子孫はこの精神を受け継いで、必ずや再起する」父が中学二年の時に・・・ラジオから流れた時の軍令部総長(いわば海軍のトップ)永野修身(おさみ)のこの言葉を聞いて、生き方と死に方を決めたと言っていた(p26)


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▼引用は、この本からです

伊藤 祐靖、新潮社


【私の評価】★★★★★(92点)



目次

第1部 軍国ばばあと不良少年
第2部 幹部になるまでの「学び」
第3部 防衛大学校の亡霊たち
第4部 未完の特殊部隊


著者経歴

伊藤祐靖(いとう・すけやす)・・・1964生まれ。日本体育大学から海上自衛隊へ入隊。防衛大学校指導教官、護衛艦「たちかぜ」砲術長を経て、イージス艦「みょうこう」航海長在任中の1999年に能登半島沖不審船事案に遭遇。海上自衛隊「特別警備隊」創設。2007年、2等海佐の42歳のときに退官。フィリピンのミンダナオ島で自らの技術を磨き直し、現在は各国の警察、軍隊への指導で世界を巡る。国内では、警備会社等のアドバイザーを務めるかたわら私塾を開き、現役自衛官らに自らの知識、技術、経験を伝えている。


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