【書評】「異邦人のロンドン」園部 哲
2026/03/09公開 更新
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【私の評価】★★★★☆(86点)
要約と感想レビュー
移民4割のロンドン
著者は三井物産の社員として、1988年、2000年にロンドンに赴任しています。2005年に退職して翻訳者となり、ロンドン在住30年以上だという。
1988年はバブル景気のど真ん中で、三越、伊勢丹、高島屋、そごうがロンドンに店を構えていました。1989年にはベルリンの壁が崩れ、1991年にソ連が消滅し、東欧とロシア連邦に分裂しました
ところが、2000年にロンドンに再赴任してみると、百貨店は三越を除いてすべて撤退し、三越も2013年に撤退してしまいました。2000年にロンドンの高級店で目立っていたのは、ソ連崩壊の混乱で儲けたロシア人で、さらに、2004年に東欧諸国がEUに加盟すると、出稼ぎの東欧人がロンドンに殺到するのです。
2000年代から日本人が減って、ロシア人が増え、インド人と中国人は着実に数を増やし、いまでは小学校では英国籍と外国籍が半々くらいになっているという。イギリスのロンドンは移民について、日本の大先輩なのです。
2010年の国勢調査によると、ロンドン在住者のうち4割以上が外国で生まれた人々だという。かなり昔から、対岸フランスから出発するトラックや列車にしのびこんでイギリスを目指す密航者がいた(p16)
移民のもたらしたもの
移民がもたらしたのは、お金と労働力です。優遇税制により外国人富裕層がロンドンに集まり、金を落としたのです。
投資についても、ロンドンへの投資はアメリカ人が一番ですが、不動産については、中華圏(香港、シンガポール、マレーシア、中国)だけで全外国人投資の6割以上だという。香港の中国返還後は、香港人のロンドン不動産買いがぐんぐん増えたという。
安い労働力としての移民もロンドンに集まってきました。1980年代末、ロンドンの建築現場ではアイルランド人が働いていましたが、2000年に赴任してみるとポーランド人が働いていたという。
ポーランド人は第二次世界大戦時からロンドンに亡命政府を置いていたくらいで、ポーランド人はインド人を抜いて100万人を超えて最大勢力なのです。
ロンドングラード・・・非合法な手段をもちいてロシアで稼いだ金が持ち込まれた都市・・・ロンドンにも亡命していたロシア人が放射性物質や毒薬で暗殺されている(p44)
移民による治安悪化と失業率上昇
こうした中で、イギリスは2020年にEUから離脱するのです。著者は書いていませんが、イギリス人の失業率の上昇や治安の不安が原因です。
著者はEU離脱による、移民労働者の減少による医療従事者の不足、サービス労働者の不足を書いています。EU離脱時には、各地で移民に対する嫌がらせが急増したとも書いています。
教師のなかにも外国人生徒の増加を好まない人たちがいると批判しています。レストラン経営者は皿洗いは給仕人を求めているのに、年収400万円以上の熟練労働者しか入国できない規制も批判しています。
統計的に黒人は白人に対したった2倍の殺人件数なのに、黒人に19倍職務質問するロンドン察を批判しています。
確かに経営者から見れば、安い賃金で使える移民はありがたいですが、職のないイギリス人からすれば、職を奪い、治安を悪化させる移民はいらないと思うのは当たり前でしょう。著者は自分も異邦人というバイアスもあると思いますが、三井物産OBというリベラルなミドルクラスの視点もあると推察しましました。
イギリスでミドルクラス(中流階級)というのはだいたい日本の上流階級に相当するから自分がミドルクラスなどとはとてもいえない(p186)
イギリスは階級社会
イギリスは、人口の7%でしかないパフリック・スクール(私立校)の出身者が、指導的立場にある人の過半数を占める階級社会だという。実際に、著者も友人から「あなたはミドルクラスなの?」と質問されたというのです。
上流階級は移民を自由に入れるのが正義だと主張したいのでしょうが、労働者階級は移民を入れたくないということなのでしょう。日本もイギリスの後を追って、移民を増やしていきますが、問題噴出で、急に移民ストップ政策に大転換しそうだと思いました。
再エネ買取制度(FIT)と一緒で、EUの失敗政策を真似するのは愚かに見えます。園部さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・英国にはVJデイなるものがある・・「Victory over Japan Day(対日戦勝記念日)」・・彼らはだいぶ「根に持っている」・・・第二次世界大戦というのは英国にとっては植民地帝国崩壊の始まり(p151)
・労働者階級にとてディナーは正午過ぎに食べるもの、中流以上にとっては夜食べるもの(p189)
・われわれはイギリスの料理をこきおろす。しかし彼らは日本人の会話とユーモアをけなしているかもしれない(p202)
・ロンドンに一番有名な日本食レストランといえば「ワガママ」だが、その創業者は香港出身の漢民族系だし、寿司のテイクアウトで首位争いをしている「イツ」と「ワサビ」の創業者は前者が英国人、後者が韓国人だった。(p128)
▼引用は、この本からです

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園部 哲 (著)、集英社
【私の評価】★★★★☆(86点)
目次
遠来の旅人
そもそもの始まり
人種差別
ロンドンの変貌
リトル・ドラマーの指導
大地震以降
小学校の風景
ハリウッドからロンドンへ
お辞儀とアペリティフ
愛犬国家
私立校・公立校
ロンドンの日本
ドイツから来た娘
日本を憎んだ人たち
オリヴァーの脱出
エリザベス女王在位七十周年
階級について
食事の意味1
空から落ちてきた人たち
著者経歴
園部 哲(そのべ さとし)・・・翻訳家。1956年、福島県生まれ。1979年、一橋大学法学部卒業、三井物産入社。1988年ロンドン赴任、2000年ロンドン再赴任。その後、体調を崩し2005年同社退職、翻訳者となり、ロンドン在住30年以上。
イギリス関連書籍
「異邦人のロンドン」園部 哲
「イギリスの飾らないのに豊かな暮らし 365日─英国の人たちから学びたい毎日を心地よく過ごすための鍵」江國 まゆ
「イギリスはおいしい」林 望
「3つに分けて人生がうまくいくイギリスの習慣」井形 慶子
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