【書評】「陸軍中野学校のDNA - 国家情報局創設前に知っておきたい」 福山 隆
2026/05/25公開 更新
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【私の評価】★★★★☆(83点)
要約と感想レビュー
「国家情報局」を創設する高市早苗政権
防衛大学校卒業後に陸上自衛隊に入隊し、外務省出向・大韓民国防衛駐在官・西部方面総監部幕僚長を経て陸将で退官。ハーバード大学アジアセンター上級客員研究員も務めた著者が、日本のインテリジェンス体制の現状と課題を論じた一冊です。
岸田政権が子ども庁、石破政権が防災庁を優先したのに対し、高市早苗政権が「国家情報局」を創設する方向で調整しているのは、日本の安全保障環境が厳しくなっていることを示しています。
米英はすでに、日本を「抑制する同盟国」から「アングロサクソン同盟の一角として活用する同盟国」へと方針を転換しつつあるといいます。そして米国の中国を囲い込む海洋プレッシャー戦略は、日本を含む第一列島線に地対艦ミサイル、地対空ミサイルを配置する「要塞化」構想なのです。
しかしそれは「日本だけが戦場になる」というリスクを含んでおり、「国家情報局」創設と軍備拡張を急いでいるのは日本が戦場にならないための対応なのでしょう。
高市早苗政権は情報保全部門の強化を明確に掲げ・・・国内外のインテリジェンス活動の司令塔となる「国家情報局」を創設する方向で調整に入っている(p3)
日本はスパイ天国
著者がこの本で伝えたいことは、日本の諜報・防諜体制の脆弱さです。日本は「スパイ防止法」を持たず、他方、中国、ロシア、北朝鮮、米国などは日本に対して積極的に情報活動を行っているのです。
1979年、ソ連KGBの元エージェントであるレフチェンコが米国へ亡命し、米下院の委員会で日本人エージェント33名のコードネームを明らかにしました。そのうち9名は実名での告発でしたが、日本政府・警察・外務省は「証拠不十分」として立件を見送っています。元社会党委員長や社会党国会議員の名前が公開されており、当時も今も、スパイ活動が行われているということを暗示しているのです。
ブルガリアの情報当局の記録では、同国に留学していた中国人留学生のほぼ全員が諜報活動に関与していたことが明らかになっているといいます。また防衛省で要職を歴任した元高級官僚が退官後に安全保障関連法を批判し、共産党の主張と一致する言論を展開した例もあると著者は指摘しています。
著者は日本の状況を「独自の戦略を持たず米国に依存する国家には、命懸けのスパイ活動を行う必要性が乏しい」と述べ、それこそ日本の戦後レジームそのものであると批判しているのです。
独自の戦略を持たず他国(米国)に依存する国家には、命懸けのスパイ活動を行なう必要性が乏しい。外交官は儀礼に終始し、自衛隊は「戦争ごっご」にとどまる。これが戦後レジームの本質である(p65)
著者と反戦自衛官との闘争
著者が現役の自衛官として、左翼の影響を受けた「反戦自衛官」と市ヶ谷駐屯地で直接対峙した経験が記されています。市ヶ谷駐屯地の第32普通科連隊では、左翼が潜入させた反戦自衛官との間で深刻な対立が生じ、組織を揺るがす事態となりました。
反戦自衛官は駐屯地で、反戦ビラ配布や情報収集やなどの活動を行い、さらに訓練拒否を宣言した結果、逮捕・起訴されました。しかし最終的に小西誠3等空曹は無罪となっています。著者はその闘争の只中で、夜中の無言電話、タイヤのパンク、通勤電車での尾行という嫌がらせを受け続け、胃潰瘍を患ったといいます。
こうした反戦自衛官との闘争では、政府も自民党からの支援はなく、防衛庁の制服組の中でも「内局に敵性官僚が潜んでいる」と証言する者もいたという。
自衛隊に、共産党・新左翼・オウム真理教が工作員を送り込むのは、日本を破壊しようと考える彼らから見れば当然の発想です。現場で孤立無援の戦いを強いられた著者の経験談は、日本の安全の脆弱さは、もう限界に近いことを感じさせます。
私自身、小学生のころに「共産主義は貧しい人を救う思想だ」と聞いて感動し、「大人になったら共産党に入ろう」と思ったことがある(p91)
陸軍中野学校から学ぶ日本型諜報
本書の後半では、陸軍中野学校の教育理念「情報とは文化の読み解き」について説明しています。
相手国のの世界観を形成する概念、例えばロシア語の「運命」、中国語の「面子」,アラビア語の「宿命」、英語の「個人」といった概念を理解せずして、正確な情報分析はできないということです。これは語学力の問題ではなく、相手の文化と価値観の深部まで理解する必要があるということです。
また著者は、日本では学者の知恵が政策に活かされていないと批判しています。米国では学者が行政に入り、行政経験を研究に還元するサイクルが機能しているのに対し、日本の学術界は現実の政策から乖離した存在に成り下がっているという指摘は、軍事目的の研究に反対する日本学術会議の問題と根は同じなのでしょう。
著者は日本の安全を守るためには、諜報と外交と軍事力がセットで必要だと主張しています。現在の日本は諜報も外交も軍事力も心許ないということなのでしょう。
福山さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・自衛隊、警察、公安調査庁と日本共産党、新左翼、オウム真理教といった反体制勢力が互いを監視し、情報を奪い合ってきた(p78)
・スパイの末路は多くが悲惨だ。死刑、二重スパイ化、交換材料、国家はスパイを使い捨てにする。割に合わない仕事である(p68)
・旧ポーランド諜報機関の活動成果・・・ポーランド人民共和国の外務大臣が西欧を訪問した際の監視写真・・・政府閣僚でさえ、「西側と内通していないか」とつねに疑われ、監視されていた(p35)
・第16軍司令官の今村中将は、ジャワの独立と住民の幸福を優先することに腐心・尽力し現地人の信頼を勝ち得、占領統治はうまく機能した。しかし、参謀本部からは「生ぬるい」との苦言が呈された(p151)
▼引用は、この本からです

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福山 隆 (著)、ワニブックス
【私の評価】★★★★☆(83点)
目次
序章 新たな海洋国家同盟の胎動―情報は国家間の絆(同盟関係)になり得る
第一章 ハーバードで思い知った世界のインテリジェンス―日本の情報観が世界標準からどれほど遅れていたか
第二章 スパイとは何か
第三章 米国籍に転じ、祖国をスパイした日本人
第四章 スパイM―特高警察と共産党のせめぎ合い
第五章 防衛庁・自衛隊へのスパイ活動―反戦自衛官問題
第六章 日露戦争に関わる駐在武官列伝
第七章 陸軍中野学校に学ぶ―日本型インテリジェンスの原点
著者経歴
福山隆(ふくやま たかし)・・・元陸将。昭和22(1947)年、長崎県生まれ。防衛大学校卒業後、陸上自衛隊に入隊。平成2(1990)年、外務省に出向。その後、大韓民国防衛駐在官として朝鮮半島のインテリジェンスに関わる。平成7年、連隊長として地下鉄サリン事件の除染作戦を指揮。九州補給処処長時には九州の防衛を担当する西部方面隊の兵站を担った。その後、西部方面総監部幕僚長・陸将で平成17年に退官。ハーバード大学アジアセンター上級客員研究員を経て、現在は執筆・講演活動を続けている。
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