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「防衛駐在官という任務 38度線の軍事インテリジェンス」福山 隆

2019/09/17公開 更新
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防衛駐在官という任務 ~38度線の軍事インテリジェンス~ (ワニブックスPLUS新書)


【私の評価】★★★★☆(80点)


要約と感想レビュー

資源・利権を中国に切り売り

著者は1990年から3年間、大韓民国防衛駐在官として赴任しその任務を記録した一冊です。1990年にはベルリンの壁が消滅し、1992年には中国と韓国が国交正常化、北朝鮮は後ろ盾を失い追い込まれます。その頃から北朝鮮と韓国が非核化協議がスタートし、1993年には米朝交渉が始まり、朝鮮半島情勢が大きく動いた時代なのです。


つまり、北朝鮮はソ連と中国との間にあって、巧みに双方のバランスを取りながら独立を貫いてきましたが、ロシアが相対的に地盤沈下するという情勢下で、今後は中国の強い影響下に入らざるを得なくなるのです。資源・利権を中国に切り売りして国力が縮小していくとすれば、いずれ中国に飲み込まれ、事実上「第二のチベット化」される可能性もあるのです。


北朝鮮としては、中国とのバランスを取るために、場合によっては、米国に接近する選択肢を模索するかもしれないと、著者は予想しています。


・張成沢は中国で前立腺がんの治療を受け中国人脈を築いているとの情報がある。張成沢が中国の勧める改革開放政策に"呼応する勢力"のリーダーになる可能性がある(p21)


韓国で統一朝鮮を夢見る若者が増えている

著者の分析では追い込まれた北朝鮮が、韓国へ攻撃を開始する可能性があると分析しています。(または、米国が北朝鮮核基地を攻撃する可能性)


その一方で、北朝鮮との残虐性を記憶している韓国の朝鮮戦争世代が引退し、統一朝鮮を夢見る若者が増えているという。現在の文在寅大統領のような人が、韓国の主導権を持つような雰囲気が当時からあったようです。


・世代交代が進み、「朝鮮戦争で北朝鮮の残虐性を心身に刻んだ老いた世代」から「北朝鮮を同胞と考える若い世代」に移りつつある(p180)


日本の情報機関の強化が必要

2012年の本ですから7年前と現在とでは大きな変化がありますが、核という問題は解決されていません。また、朝鮮半島有事の際の、在韓邦人救出問題も当時から進んでいないように見えます。


著者の印象では、日本の官僚は、それぞれ自分の省庁の利害が最優先で、国益という観点から総合的に問題を捉えたり、解決しようという考え方は希薄だという。その縦割り行政組織の弊害を緩和するために出向官制度がありますが、実態は出向先省庁の情報を探るスパイ役だというのです。


また、著者の懸念するのは、駐韓国防衛駐在官が日本からの訪問者へのアテンド忙しすぎることです。著者は少なく見ても三年間で千人以上の公的・準公的な韓国訪問者・旅行者のアテンドをこなしたという。これに加え、大使館の公的行事もあり、これがなければ情報活動に専念できるのに、現実は、駐在官は旅行の随行員となっている現実があるのです。


最悪を想定するためにも、日本の情報機関の強化が必要なのでしょう。福山さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・韓国軍の国軍機務司令部の将校は、旧ソ連や北朝鮮などの共産主義国家で、軍に対する共産党のコントロールを確保するために、軍内に配置された『政治将校』に相当するものだ・・・国軍機務司令官は、全軍将校の人事権まで握っている・・(p151)


・米国は、韓国を分刻みで監視している・・・韓国の中央情報部(KCIA)が、金大中を東京で拉致し、船で韓国に移送途中の対馬海峡で、同氏に錘を付けて海中に投棄して殺害しようとしたが、米国のCIAが差し向けた飛行機が船の上空に飛来し、これを阻止したといわれる(p172)


・「米国は日本を『電子顕微鏡と内視鏡』で詳しく観察しているが、日本は米国を『望遠鏡』でみている」と言えるほどだ。この情報格差・・日本の、米国の対日政策についての無知・・こそが日本を米国の「ポチ」状態にしているのだと思う・・独立国家として自立できることを担保する国家情報機関の創設を含む情報能力の強化が不可欠だと思う(p247)


・韓国軍人の酒文化は凄まじい。ウイスキーの一気飲みを延々と繰り返す。「オレの酒が飲めねーのか?」と脅迫する。その嵐の中で、情報問答を試みる(p235)


▼引用は下記の書籍からです。
防衛駐在官という任務 ~38度線の軍事インテリジェンス~ (ワニブックスPLUS新書)
福山 隆
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【私の評価】★★★★☆(80点)


目次

序章 時事ネタでみる情報分析の具体的方法
第1章 防衛駐在官とは
第2章 防衛駐在官の実務
第3章 防衛駐在官と軍事
第4章 防衛駐在官と情報



著者経歴

福山隆(ふくやま たかし)・・・1947年長崎県出身。防衛大学校卒業後、陸上自衛隊幹部候補生として入隊。1990年外務省に出向、大韓民国防衛駐在官として朝鮮半島情勢のインテリジェンスに関わる。1993年、連隊長として地下鉄サリン事件の除染作戦を指揮。西部方面総監部幕僚長・陸将で2005年退官。ハーバード大学アジアセンター上級客員研究員を経て、現在はダイコー株式会社取締役専務・執行役員を務める傍ら執筆や講演を続ける

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