【書評】「認知戦 悪意のSNS戦略」イタイ・ヨナト
2025/10/14公開 更新

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【私の評価】★★★★★(91点)
要約と感想レビュー
著者は元モサドの工作員
著者はイスラエルの諜報機関モサドの元工作員であり、現在はサイバー攻撃対策を助言しています。この本では、元工作員の視点から日本国への対外諜報工作活動への対抗策を助言しています。
著者はイスラエルで工作員として、対イランの核開発を遅らせる工作を計画・実施したという。詳細は記載していませんが、工作員だったからこそ、敵の工作員の思考や嫌がることがわかると主張しています。
まず、著者が日本人に伝えたいことは、中国共産党の習近平は、台湾を統一するための準備を進めているということです。中国の軍事力強化と諜報工作活動の分析から、台湾封鎖が2026年から2030年の間に起こると著者は予想しているのです。
中国は、台湾統一のプロセスの中で日本の領土をめぐる衝突を想定した上で、日本に対して諜報工作活動を開始しているのです。
習近平もプーチンも、残された時間は少ないと自覚しています(p182)
日本を孤立させる中国
まず、明らかな工作活動の一つは、福島第一原子力発電所の処理水の海洋放出を「汚染水」として世界に情報発信したことです。中国とロシアは世界に「日本はトリチウムに汚染された水を垂れ流している酷い国」というキャンペーンを行いました。
例えば、「放射能に汚染されたアラスカでは、もうカニがとれなくなった」などいた偽情報を拡散していたという。
中国はアジア地域内にも、SNSで「悪い日本」のイメージを広めているという。その目的は、日本が中国に対抗する他国と同盟や条約を結ぶことを阻害するためなのです。
実は、中国やロシアでは原子力発電所からトリチウムを含む水を直接海に戻しています。また、ロシアは核廃棄物を箱に入れて深海に投げ込んでいます。つまり、「汚染水」というのは、根拠のない言いがかりであり、もっとひどいことを中国やロシアは行っていることは、専門家なら誰でも知っているのです。なぜ、日本は反論しないのか?、著者は首をかしげるのです。
中国では・・東アジアや東南アジアの国々では第二次世界大戦中の日本侵略に関する記憶を掘り起こし、反日感情を煽る工作をすでに始めています(p15)
日本を悪魔化させる中国
また、中国国内では「日本人は放射能に汚染された食品や化粧品を輸出している」「日本人は悪魔の子孫だ」といったプロパガンダをSNSで拡散させました。中国のSNSでは、「南京大虐殺」や人体実験をした「731部隊」など日本に対する憎悪を増幅する投稿が溢れています。だから、中国の日本人学校に通う児童が刺殺されてしまうのも必然なのです。
中国ではSNSで政府に批判的な内容が投稿されると、1時間以内に削除されます。日本への憎しみの投稿が削除されずに拡散されているということは、中国共産党の意思なのです。日本を悪魔化することは、中国の兵士たちが、日本を攻撃することに躊躇しなくいなるというメリットがあります。
また、日本という「敵」を作り出すことで、中国共産党の政策の失敗を隠し、中国人民の不満をそらす効果もあります。日本ほど格好の「敵」は他にいないのです。だから台湾との紛争では、日本を巻き込む可能性もあるというのが著者の感覚なのです。
福島第一原子力発電所の処理水の海洋放出についてディスインフォメーションを拡散し、日本のイメージ失墜を狙いました。これらはすべて、台湾有事を睨んだ動きです(p15)
敵国による諜報活動への対抗策
では、こうした敵国の工作活動に対して日本はどうすればよいのでしょうか。それは、台湾やシンガポールを真似ることです。
台湾は2020年、敵対する勢力や人物からの指示、資金援助による選挙活動・政治活動を禁じた「反浸透法」を公布しました。
シンガポールは2021年、自国を攻撃するキャンペーンを発見した場合、法律に基づいてSNSの運営元に連絡し、アカウントをブロックするよう要求できる「外国干渉防止法」を制定しました。
このように国防のために、政治活動やSNSでの敵国のキャンペーンを監視し、対策できる法律を作るのです。著者のアドバイスは、外国人による工作活動と戦うには、外国人のように戦わなければならないということです。
攻撃されたら反撃する。例えば、「汚染水」と攻撃されたら、中国とロシアの悪行を指摘して「WHO飲料水基準の7分の1のレベルにある日本の処理水について、批判する資格はあるのか」と反論すべきだったということです。
カウンター・オペレーション・・・「あなたたちが私たちに影響力工作を用いて攻撃するならば、我々も影響力工作を用いて反撃する」と政府レベルで表明する・・・中国は日本に対して工作を展開しているのに、なぜ日本は中国に対して中国の政権を批判する工作を展開しないのでしょうか(p167)
日本を分断しようとする中国
中国は台湾統一を想定したうえで、沖縄では日本との分断を煽り、日本の政治に影響力を増やすための工作活動を展開しています。沖縄での中国による工作は、反米感情を煽り、「在日米軍木基地に反対しよう」と主張するものです。
例えば、米兵によるレイプ事件が発生したら、「アメリカ人が県民をレイプしている」というメッセージを大量に流して、沖縄県民の誇りを刺激し、沖縄県民を扇動するのです。
また、中国の政治工作の目標は、日本憲法改正を阻止し、日本の軍事力を強化させないことです。日本では軍事力を強化しようとすると、一部の人々から「極右」や「軍備増強派」などと批判されます。
諜報界隈では、敵国のプロパガンダに利用されていることに気づかずに、「自分は正義の活動をしている」と信じている人を「役に立つ馬鹿」と表現しているという。日本の左派政党は、まさに中国やロシアにとって「役に立つ馬鹿」なのです。
個別の論点では、「おや?」というところもありますが、全体的にまっとうな内容だと思いました。元工作員の本なので、この本自体も、影響力工作の一つなんだろうなと思いながら読みました。
また、元モサドの著者に「日本人はサムライかと思っていたら、まともな軍隊を持っていない」とはっきり書かれてしまい、日本人として恥ずかしいとも感じました。ヨナトさん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・SNSでライバル会社の商品イメージを貶めるようなメッセージを流すボットや、民間企業にサイバー攻撃を仕掛けるビジネスをおこなっているグループが存在します(p20)
・日本は謝罪一辺倒で、中国の影響力工作に十分な対応を行っていません(p119)
・現在のルーマニアの若者たちの間では、チャクシェスクに対して肯定的なイメージが広がっています・・「当時は誰もがルーマニアを高く評価していた。西側の奴隷ではなかった」という言説が流布しているのです(p41)
▼引用は、この本からです
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イタイ・ヨナト (著)、文藝春秋
【私の評価】★★★★★(91点)
目次
第1章 これが認知戦だ
第2章 クレイジーだけが生き残る、イスラエルの諜報機関
第3章 中国 日本にいちばん近い脅威
第4章 ロシア コミンテルンの謀略の系譜
第5章 認知戦への対抗措置
終章 残された時間は少ない
著者経歴
イタイ・ヨナト(Itai Yonat)・・・1968年、イスラエル生まれ。OSINT(一般公開されている情報を収集・分析し、活用する手法)インテリジェンス企業「インターセプト9500」創設者兼CEO。イスラエル工科大学で修士号を取得。イスラエル軍に入隊し、諜報部員として様々な作戦に関わる。現在は日本をはじめ、各国政府にアドバイスをおこなっている
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